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第1話:図書館の菩提樹

 平年より、冬の気配が強い十一月。


 明治か大正時代を思わせる、アンティークな木造平屋建ての図書館。

 昼間は、観光客や読書家や受験生等で賑わう。

 けれど、真夜中…それも午前零時の現在は静まり返っている。


「古谷、お前が先に行かなきゃ判んねーよ」

「痛っ、なんかぶつけたぞ」

「シッ、静かに」

 フェンスの破れ目から、侵入者が三人。

「夜の図書館って不気味だよな~」

 言いながら、ほふく前進で抜け穴をくぐったのは古谷リオ・十五歳(男)。

 しかし童顔のせいで中学生に見える。

 体格は高校生の平均値程度で、中肉中背といったところ。

 彼は立ち上がると、ジーパンの膝辺りに付いた砂埃を両手で払った。


「光る木ってのは?」

 フェンスを先に潜り抜けて、リオが問う。

 後から、同級生らしい少年二人が抜け穴をくぐった。

 彼等も同様に衣服をパタパタ叩き始めると、その背格好は三人とも大差無い事が判る。

「あれだよ」

 リオの指差す先には、樹齢数百年と言われる菩提樹が立っている。


 その幹が、ポウッと蛍火のような光を放ち始めた。

「……!」

「シッ、静かに」

 思わず声を上げかけるボサボサ髪の少年の口を、隣にいた眼鏡小僧が片手で塞いだ。

 光は位置を変えず、その輝きを強弱させている。

 リオはソロリソロリと近付くと、木の側の茂みにしゃがんで二人に手招きした。

 二人は顔を見合わせた後、背中を丸めてコソコソと歩み寄ってくる。


 青白い光は人間の鼓動に近いテンポで明滅し続けているけれど、じっと見つめていても正体は判らなかった。

 意を決して、リオは更に歩み寄ってゆく。

「お、おい」

 背後の二人が慌てた。

「光の正体、知りたいだろ?」

 が、リオはそう言い残して木に近付く。

 間違いなく、太い幹が光っている。

(この光は一体何なんだ?)

 彼は恐る恐る手を伸ばし、触れてみた。


 途端に、菩提樹はマグネシウムを燃やしたように強く輝き始める。


「うわっ!」

 同時にリオは、見えない何かの力で木の中に引きずり込まれてゆく。

「古谷っ!」

 残された二人が慌てて叫んだ時……

「誰じゃ!」

 建物の中から、嗄れた怒鳴り声がした。

「やべぇっ、守衛のじいさんだ」

 うろたえながら、二人は建物に目を向ける。

 暗かった窓が次々に明るくなり、廊下を走る人影が見えた。

「ど、どうする?」

「とりあえず、逃げようっ!」

 木の中に吸い込まれた仲間を気にしつつも、少年達はパタパタと走り去ってゆく。

 図書館の管理人である痩せた老人が走って来た頃には、菩提樹の光は消え、侵入者達の姿は無い。

「コソ泥か? ここには金目のもんなんぞ無いっちゅーのに……」

 老人はブツブツ文句を言いながら、建物の方へ引き返して行った。



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