転生者について詳しくないにしても、なぜ魔物呼ばわりされたり、怯えられたりするのか、リオには疑問だった。
「僕の容姿に対する偏見が強過ぎて困惑しかないよ」
エレアヌの女性的な横顔を見つめ、リオは苦笑しつつ言う。
「黒い髪や瞳って、そんなに気味が悪い?」
「この世界を蝕んでいる【魔】の、大きな特徴ですから」
優し気な緑の瞳が、彼に向けられた。
少なくともエレアヌにはリオに対する偏見が無さそうに思える。
「大丈夫ですよ、貴方がリュシア様であることは、じきに皆にも分ります」
自信に満ちた口調で、エレアヌは言う。
「さあ、もう貴方もお休み下さい。たしか貴方の居た世界も夜だった筈でしょう?」
そしてリオに空いている寝床を勧めると、エレアヌは部屋から出ていった。
蔓草の彫刻を施した木戸が、静かに閉まる。
(……本田と鈴木、あの後どうしたのかな……?)
ポツンと残されたリオは、木のベッドに腰を下ろし、ぼんやりと考え事を始めた。
この世界に来るきっかけとなった【光る木】は、図書館へ忘れ物を取りに来たリオが偶然発見し、二人を誘って調べに来たものである。
悪友たちが守衛に見つかりそうになって、逃げ出した事など彼は知る由もない。
(僕はいつ元の世界に戻れるのかなぁ……)
少々不安になる。
エルティシアで何かやる事がある、と、内なる者の意識が表面化した時に漠然と悟った。
魔物が近寄り難くなるよう、裂かれた大地。 沈まぬ太陽に守られる聖域。
不毛の大地の中で、唯一作物が育つラーナ神殿周辺。
そして、自分の中から放たれた光によって、黒雲が払われ、青さを取り戻した空……
それはリオの前世リュシアがもつ聖なる力であり、人々が
―――…やり残した事を遂げる為に、俺は戻ってきた…―――
あの時、帰りを喜ぶ妖精達に【リュシア】は言った。
(……やり残した事って何だろう……?)
そう思った時、隣の寝台にいるシアルが、ムクッと起き上がった。
「……お前……本当にリュシアなのか……?」
その声にリオは我に返り、顔を上げた。
こちらへ歩み寄ってきた、銀髪の少年が視界に映る。
(また斬りかかってきたりしないよな……?)
思わず逃げ腰になってしまうリオは、ふと相手の足取りがふらついている事に気付いた。
「……本物の……
声も掠れている。
命に別状は無いとはいえ、硬い地面に叩き付けられたシアルは、まだ完全には回復していないらしい。
「寝てた方がいいんじゃないか?」
リオは一応、お愛想程度に言ってみた。
「質問に答えろ!」
返ってきたのは怒鳴り声。
「お前は……リュシアの生まれ変わりか?」
「……多分……」
両肩を捕まれ、リオは曖昧に答える。
まだ「そうだ」と答えられるほど自覚は無かった。