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第8話:先行き不安

 転生者について詳しくないにしても、なぜ魔物呼ばわりされたり、怯えられたりするのか、リオには疑問だった。

「僕の容姿に対する偏見が強過ぎて困惑しかないよ」

 エレアヌの女性的な横顔を見つめ、リオは苦笑しつつ言う。


「黒い髪や瞳って、そんなに気味が悪い?」

「この世界を蝕んでいる【魔】の、大きな特徴ですから」

 優し気な緑の瞳が、彼に向けられた。

 少なくともエレアヌにはリオに対する偏見が無さそうに思える。


「大丈夫ですよ、貴方がリュシア様であることは、じきに皆にも分ります」

 自信に満ちた口調で、エレアヌは言う。

「さあ、もう貴方もお休み下さい。たしか貴方の居た世界も夜だった筈でしょう?」

 そしてリオに空いている寝床を勧めると、エレアヌは部屋から出ていった。

 蔓草の彫刻を施した木戸が、静かに閉まる。


(……本田と鈴木、あの後どうしたのかな……?)

 ポツンと残されたリオは、木のベッドに腰を下ろし、ぼんやりと考え事を始めた。

 この世界に来るきっかけとなった【光る木】は、図書館へ忘れ物を取りに来たリオが偶然発見し、二人を誘って調べに来たものである。

 悪友たちが守衛に見つかりそうになって、逃げ出した事など彼は知る由もない。


(僕はいつ元の世界に戻れるのかなぁ……)

 少々不安になる。


 エルティシアで何かやる事がある、と、内なる者の意識が表面化した時に漠然と悟った。


 魔物が近寄り難くなるよう、裂かれた大地。 沈まぬ太陽に守られる聖域。

 不毛の大地の中で、唯一作物が育つラーナ神殿周辺。

 そして、自分の中から放たれた光によって、黒雲が払われ、青さを取り戻した空……


 それはリオの前世リュシアがもつ聖なる力であり、人々が転生者リーンティアを求める理由。


 ―――…やり残した事を遂げる為に、俺は戻ってきた…―――


 あの時、帰りを喜ぶ妖精達に【リュシア】は言った。


(……やり残した事って何だろう……?)

 そう思った時、隣の寝台にいるシアルが、ムクッと起き上がった。


「……お前……本当にリュシアなのか……?」

 その声にリオは我に返り、顔を上げた。

 こちらへ歩み寄ってきた、銀髪の少年が視界に映る。


(また斬りかかってきたりしないよな……?)

 思わず逃げ腰になってしまうリオは、ふと相手の足取りがふらついている事に気付いた。


「……本物の……転生者リーンティア……か……?」

 声も掠れている。


 命に別状は無いとはいえ、硬い地面に叩き付けられたシアルは、まだ完全には回復していないらしい。

「寝てた方がいいんじゃないか?」

 リオは一応、お愛想程度に言ってみた。

「質問に答えろ!」

 返ってきたのは怒鳴り声。

「お前は……リュシアの生まれ変わりか?」

「……多分……」

 両肩を捕まれ、リオは曖昧に答える。

 まだ「そうだ」と答えられるほど自覚は無かった。



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