更に二日が過ぎると、リオの体力は完全に回復した。
人々はそれを心から喜んだけれど、同時に新たな不安も生じてくる。
それは、強い意志を持つリュシアの性格をよく知る者ほど確信出来てしまう。
(……
神殿の地下室にある古い書物に目を走らせ、エレアヌは一人思案する。
(……憎しみの念が多いほど、闇人形は強大な魔物となる……倒す方法は……)
必死に対策を練る。
リオを止められない事は分っていた。
「エレアヌ様」
ふいに背後から声をかけられ、彼はハッと顔を上げた。
広辞苑なみに分厚い本をパタンと閉じ、エレアヌは床に届きそうなほど長い黄金色の髪を揺らして振り向く。
そこにはサファイアブルーの髪と紫水晶色の瞳をもつ青年と、白金色の髪と勿忘草色の瞳をもつ少女が立っていた。
「どうしました?」
「……皆が不安がっています……。あの方がまた死の大陸に向かわれるのではないかと……」
穏やかな物腰の賢者に対し、先に口を開いたのはオルジェであった。
「大地の妖精は未だ、捕らえられたままです。あの方の性格ならば、体力が回復した途端に助けに行くと言い出すに決まっています」
「そういえば、貴方はリュシア様の幼馴染みでしたね」
きっぱりと言い切る彼に、エレアヌは目元に笑みを浮かべて言う。
前世の幼馴染は、リュシアの性格をよく分かっていた。
「ですからお願いに参りました。リオ様が行くなら私達も同行させていただける様、進言して頂けませんか」
「……お願いします」
そこでやっと、ミーナも口を開いた。
彼女も、リュシアと郷里を同じくする者。
「『私達』という事は、貴女も同行を?」
瞳を潤ませ懇願の意を表わす少女を見て、さすがのエレアヌも目を丸くする。
ミーナはコクリと頷いた。
ほんの1~2ヶ月前まで、リオの黒い髪を見ただけで怯えていた少女。
魔物に殺されかけた恐怖はそう簡単に消えない筈。
彼女の何処に、魔物の巣窟である地への同行を願い出る強さがあるのか。
「あの時のように、お手伝いをしたいのです」
ミーナは言う。
澄んだ勿忘草色の瞳を見つめながら、エレアヌは皆で「奇跡」を起こした時の事を思い出していた。