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第64話:七徳の光

 聖剣で闇の力を退けるシアルの背後で、エレアヌは自分の身体を盾にするようにリオを抱き締めている。

「……僕は、自分が聖者だなんて思ってない」

二人がかりで庇われ、少々面食らっていたリオは、やがてぽつりと呟いた。


 エレアヌの腕から離れ、彼はシアルの隣に進み出る。

 庇おうとする守護者に「大丈夫だよ」と柔らかな笑みを向けた後、彼はかつてエメンの民であった者達と相対する。

 説得できる筈。何故かそんな確信が心の中に在った。


「僕は転生者と言われる者、身体の中に強い意思をもつ魂が宿っていて、みんなはそれを慕ってくれてるだけだよ」

 古の死者の群れを前に、リオは自分でも信じられぬほど穏やかに言う。

「僕の前世は、白き民の長リュシア=ユール=レンティス。この地に住むという、黒き民に用があって来た…」

『……馬鹿を言ウナ……白キ民ガ、ソノヨウナ姿ニ転生スルモノカ』

 黒い霧が揺らぐ。

「前世の同族と争うつもりは無い。先へ通してもらえないか?」

 不気味な顔が無数に浮かぶ霧に、黒髪の少年は真っ直ぐな視線を向ける。

 強い意思を秘めた、凛々しい双眸が怨霊たちを見据える。


『認メルモノカ……!』

 気押された怨霊が怒鳴り、鋭い岩の破片が宙を飛んだ。


「危ないっ!」

 シアルが叫び、身を翻してリオを庇い、自分の背を盾にする。

 躊躇する暇は無かった。

 絶対に護ると決めた相手を抱き寄せ、シアルは自分に破片が刺さる瞬間を覚悟した。

 けれど衝撃も痛みも、訪れはしなかった。


 ギュッと目を閉じ身を硬くしていた少年が、恐る恐る瞼を開けた途端、視界に映ったのは七色の光。

 それは、岩の破片を空中でピタリと止め、こちらへ飛んでくるのを遮っている。

 シアルの蒼い瞳が、驚きに見開かれた。


(……これは……何の力だろう……?)

 リオは呆然と、様々な色彩の混じった光を見つめる。

 虹の様な光は彼を中心として現れ、二人を護る様に包んでいた。

 それは穏やかで温かく、心地好い。


『……何ダ、コノ光ハ……!』

 まぶしさに、怨霊達が顔を歪める。


「あなた方も白き民なら、知っているのではありませんか? 真の聖者だけが得られる、七徳の光を」

 まるでその光の発現を予測していたように、エレアヌの口元に笑みが浮かぶ。

「……リオ様、感じられませんか? 多くの人の『祈り』の波動が……」

 それから、賢者たる青年は、柔和な微笑みを聖者と呼ばれる少年に向けた。


 言われて、目を閉じてみるリオ。

 ミーナのお護りをかけた水晶の原石を囲み、一心に祈る人々のヴィジョンが浮かぶ。


「……視える…。僕の身を案じてくれる、人々の姿が……」

 一度リオの血を浴びた、青い守護石。

 それを媒体として、人々は【光】を送っていた。


「……感じる……。みんなの『祈り』が僕を護ってくれてるんだ……」

 ゆっくりと目を開けたリオの言葉に応ずるように、七色の光は揺らぎ、明るさを増す。


「……ありがとう……」

 安らいだ笑みを浮かべ、無意識に呟いた直後、空中で停止したままの岩の破片が、粉々に砕け散った。


「エメンの民よ、これを見てもまだ、この方を殺そうとするのか?」

 リオに笑みを向けていたエレアヌは、怨霊たちに視線を移して問うた。

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