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第73話:皆で紡ぐ光

 「……やはり貴方はリュシアです……。私をその名で呼ぶのは……」

 言いかけて、【ルティ】の身体が再び仰け反り、痙攣し始める。

 精封球メロウに力が戻ったのを確認したディオンが、攻撃を再開し、弓なりに背を反らすルティは、会話が出来る状態ではなくなる。


「……あいつから精封球を取り上げよう」

 痙攣し続けるルティを抱き締めて、リオが小声で囁く。


「難しいと思います。彼はそう簡単に手放しはしないでしょう」

「でも、やらなきゃならない」

 小声で話しつつ、再び癒しの力を使った後、リオはエレアヌにルティを抱かせた。

「治癒の力、しばらくエレアヌに任せる」

「……分りました」

 揺るぎない意思を秘めた、リオの瞳が瑠璃色に変わる。

 エレアヌは少年の決意を悟り、軽くため息をついて答えた。


「俺も行く!」

 防御壁の中で立ち上がったリオの腕を、シアルが掴む。

「……シアル……」

 その蒼い瞳を見つめ、リオはシアルが次に言うであろう言葉を予測していた。

「一人では行かせない!」

 絶対に離してくれそうにない少年としばし視線を合わせた後、リオは先刻のエレアヌと似た溜め息をついた。

「じゃあ、一緒に行こう」

 その言葉に、シアルは大きく頷いた。


「何だ、戦う気になったのか?」

 近付いてくる二人を見て、ディオンが問う。

「大地の妖精の『力』を、精封球から解放してくれないか?」

 その正面に降り立つと、リオはいつもより低い声で言う。

「僕は戦うのは好きじゃない。だけど、大切なものを守るためなら……」

「……戦うというのか?」

 リオの言葉の先を、ディオンが続けた。

「ではお前の力、見せてもらおうか」

 そして、再び呪文を唱え始める。

 遥か上の空中で、エレアヌに抱かれたルティが再び痙攣し始めた。

 しかし今度は尋常ではない。

 呪文は今までよりも長く、苦しみ方も激しい。

 詠唱を終えたディオンが冷ややかな笑みを浮かべたその時、広間の大穴から真紅の溶岩が吹き上がってくる。

 それは急速に形を変え、襲いかかってきた。


 東洋龍を思わせる、溶岩の怪物。

 警戒し、シアルが身構える。

「来やがれ化け物、俺が相手だ!」

 その右手から、聖剣が出現した。

「シアル」

 だが、それを制するのはリオ。

「その剣は今は必要ない」

 言うと、彼はシアルを背後に庇った。

 直後、飛んできた溶岩の礫が、リオの両脇を掠める。

 何かが焦げる様な臭いがした。

「馬鹿、何やって……」

 言いかけて、シアルは言葉を止める。

 リオは、穏やかな笑みを浮かべていた。


「大丈夫、僕たちはもっと大きな、強い力に護られているよ」

 安心感を与える、落ち着いた声でリオは言う。


(……全ての妖精たち、ラーナ神殿のみんな、……僕に力を貸して……)

 迫ってくる溶岩の怪物を前に、小柄な少年は両手を広げ、そっと目を閉じる。

 その身体を、光が包み始めた。


「馬鹿め、こいつは防御壁ごときでは防げん。二人まとめて炭となれ!」

 ディオンが怒鳴り、リオ達を指差す。

 直後、真紅の龍は無防備に佇む少年に襲いかかった。

 「リオ!」

 堪り兼ねて、シアルが叫ぶ。

 次の瞬間、眩い七色の光が視界を覆った。


 それは、6つの属性の妖精と、人々の祈りがもたらす奇跡の輝き。

 支配で得る力ではなく、心を通わせる事で生まれる七徳の光ナークスと呼ばれるものだった。


「邪悪な力は、その主へと返れ!」

 凛とした声が響き、リオの双眸が開かれる。

 その瞳は聖者の証、神秘の瑠璃色。

 直後、溶岩の龍が急に向きを変え、支配者である筈のディオンを襲う。


「うわぁぁぁっ!」

 ディオンの絶叫が辺りに響き渡り、真紅の怪物の牙が彼を捕らえた。

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