「……やはり貴方はリュシアです……。私をその名で呼ぶのは……」
言いかけて、【ルティ】の身体が再び仰け反り、痙攣し始める。
「……あいつから精封球を取り上げよう」
痙攣し続けるルティを抱き締めて、リオが小声で囁く。
「難しいと思います。彼はそう簡単に手放しはしないでしょう」
「でも、やらなきゃならない」
小声で話しつつ、再び癒しの力を使った後、リオはエレアヌにルティを抱かせた。
「治癒の力、しばらくエレアヌに任せる」
「……分りました」
揺るぎない意思を秘めた、リオの瞳が瑠璃色に変わる。
エレアヌは少年の決意を悟り、軽くため息をついて答えた。
「俺も行く!」
防御壁の中で立ち上がったリオの腕を、シアルが掴む。
「……シアル……」
その蒼い瞳を見つめ、リオはシアルが次に言うであろう言葉を予測していた。
「一人では行かせない!」
絶対に離してくれそうにない少年としばし視線を合わせた後、リオは先刻のエレアヌと似た溜め息をついた。
「じゃあ、一緒に行こう」
その言葉に、シアルは大きく頷いた。
「何だ、戦う気になったのか?」
近付いてくる二人を見て、ディオンが問う。
「大地の妖精の『力』を、精封球から解放してくれないか?」
その正面に降り立つと、リオはいつもより低い声で言う。
「僕は戦うのは好きじゃない。だけど、大切なものを守るためなら……」
「……戦うというのか?」
リオの言葉の先を、ディオンが続けた。
「ではお前の力、見せてもらおうか」
そして、再び呪文を唱え始める。
遥か上の空中で、エレアヌに抱かれたルティが再び痙攣し始めた。
しかし今度は尋常ではない。
呪文は今までよりも長く、苦しみ方も激しい。
詠唱を終えたディオンが冷ややかな笑みを浮かべたその時、広間の大穴から真紅の溶岩が吹き上がってくる。
それは急速に形を変え、襲いかかってきた。
東洋龍を思わせる、溶岩の怪物。
警戒し、シアルが身構える。
「来やがれ化け物、俺が相手だ!」
その右手から、聖剣が出現した。
「シアル」
だが、それを制するのはリオ。
「その剣は今は必要ない」
言うと、彼はシアルを背後に庇った。
直後、飛んできた溶岩の礫が、リオの両脇を掠める。
何かが焦げる様な臭いがした。
「馬鹿、何やって……」
言いかけて、シアルは言葉を止める。
リオは、穏やかな笑みを浮かべていた。
「大丈夫、僕たちはもっと大きな、強い力に護られているよ」
安心感を与える、落ち着いた声でリオは言う。
(……全ての妖精たち、ラーナ神殿のみんな、……僕に力を貸して……)
迫ってくる溶岩の怪物を前に、小柄な少年は両手を広げ、そっと目を閉じる。
その身体を、光が包み始めた。
「馬鹿め、こいつは防御壁ごときでは防げん。二人まとめて炭となれ!」
ディオンが怒鳴り、リオ達を指差す。
直後、真紅の龍は無防備に佇む少年に襲いかかった。
「リオ!」
堪り兼ねて、シアルが叫ぶ。
次の瞬間、眩い七色の光が視界を覆った。
それは、6つの属性の妖精と、人々の祈りがもたらす奇跡の輝き。
支配で得る力ではなく、心を通わせる事で生まれる
「邪悪な力は、その主へと返れ!」
凛とした声が響き、リオの双眸が開かれる。
その瞳は聖者の証、神秘の瑠璃色。
直後、溶岩の龍が急に向きを変え、支配者である筈のディオンを襲う。
「うわぁぁぁっ!」
ディオンの絶叫が辺りに響き渡り、真紅の怪物の牙が彼を捕らえた。