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第7話 元悪役令嬢は悪いことをする

心地いい季節になりました。

この季節は春というのだと、

ダイゴくんの親御様から教えてもらいました。

これからどんどんあたたかくなっていき、

暑くなったら着るものも変わるのだそうです。

また、ダイゴくんがすくすく成長していけば、

服も大きなものが必要になるのかもしれません。

ダイゴくんは日に日に成長していますし、

食べ物などで服を汚すことがたくさんです。

服は気候や汚れなどを考えますと、

たくさん必要であるのでしょう。

成長とは喜ばしいことでありますが、

その成長を服と言う一点でも確かに支えてくださる親御様は、

やはり素晴らしい親御様なのだと思います。

心地いい季節の中、ダイゴくんは心地いい服を着て、

親御様と散歩に出かけます。

オキナワも心地いい気候でしたが、

お家の周りも心地よくなりました。

ダイゴくんも心地よく、はしゃいでいます。


このところダイゴくんの意識は、

身体が眠っていても眠らないことがあります。

おそらくではありますが、

日々におきているたくさんの出来事などを、

意識で何とか処理しようとしているのかもしれません。

ダイゴくんはそうしていろいろなことを覚えていくのだと思います。

楽しいことがあった、美味しいものを食べた。

そんなことを意識の中でイメージにして覚えていっているようです。

言葉に直すことができるのも時間の問題かと思います。

まだ、ダイゴくんの意識には言葉らしい言葉がありませんので、

イメージがフワフワしているような感じです。

ダイゴくんの身体が眠っている際に、

同じ身体にいる、私もイメージの整頓を手伝います。

ダイゴくんの意識と、私で、いろいろなことを思い出しながら、

今日はこんなことがあったなどと話します。

ダイゴくんがとても楽しいことを思い出しました。

私も一緒になってダイゴくんと笑います。

ダイゴくんの意識は、一日の中の楽しいことを思い出して、

そして、身体も目覚めてしまって、大きく笑い始めました。

ダイゴくんの身体を通して外を見ますと、

お父様もお母様も眠そうです。

どうやら夜も遅くであるようでした。

ダイゴくんが大笑いしたので、起こしてしまったようです。

ダイゴくんをちゃんと落ち着けて眠らせるべきでした。

私は悪いことをしてしまったなと思います。

お父様とお母様は、それでもダイゴくんを寝かしつけてくれます。

それが当たり前であるかのように、

ダイゴくんを落ち着け、休ませてくれます。

楽しいことがあったのだということ、

それを思い出していることが、

もう伝わっているかのようでした。

親御様というものは、素晴らしい力をお持ちです。

これが無償の愛なのかもしれません。

素晴らしいものですね。

私がダイゴくんとともに意識ではしゃいでしまったことも、

親御様は咎めることがありません。

私は、悪でない。

それがこんなにもありがたく、あたたかいものであることに感謝するのです。


お母様は、お仕事に復帰なされるという話をしていらっしゃいます。

どうやら、何かお仕事をされているらしく、

ダイゴくんを育てるのに、しばらくお休みをなされていたようです。

では、ダイゴくんはどうなってしまうのでしようか。

このお家で一人ということはないかと思いますが、

私は少し不安になりました。


お母様のお仕事復帰のお話を聞いてから、

ダイゴくんは親御様と何かの施設に行きました。

ダイゴくん程度か、もうちょっと大きく走り回れる程度の、

小さなお子様たちが走り回っています。

泥にまみれたお子様もいます。

鼻水がたくさんついているお子様もいます。

皆様良い笑顔をされています。

ここは、ホイクエンと言うそうです。

お父様、お母様、そして、ホイクエンの先生という方から、

いろいろな説明を受けました。

どうやらダイゴくんは親御様を離れて、

ホイクエンにしばらくいるそうです。

ホイクエンには昼間いることになり、

夕方頃には親御様がお迎えに上がるそうです。

なるほど、このホイクエンという施設が、

ダイゴくんを預かってくれるのでしたら、

お母様もお仕事ができるということなのだと思います。

ダイゴくんのイメージは楽しいものであふれています。

ホイクエンのお子様たちの笑顔を見てのことだと思います。

楽しい施設だとは思いますが、

お父様お母様がいなくなってもダイゴくんは笑ってくれるでしょうか。

眠る時のイメージの整頓の時のように、

ダイゴくんを笑わせることはできないものでしょうか。

私もそれなりに悩みます。


ある夜中、お母様の乳房を口にしながら、

ダイゴくんは安心してウトウトとしています。

ダイゴくんの中のイメージは、

お母様と一体になっているような、

安心感で満ちています。

今は経験したことのイメージの整頓は必要ないようです。

私もダイゴくんの中の心地いいイメージに揺られます。

そこに、お父様がダイゴくんをトントンと叩きます。

お父様なりにダイゴくんを落ち着かせるつもりだったのかもしれません。

そこに反応してしまったのが私の方でした。

悲鳴を上げてしまいます。

意識の中の私の悲鳴に驚いたダイゴくんが、

お母様の乳房を噛んでしまいます。

ダイゴくんは小さく歯が生え始めていますので、

お母様にも相当な痛みがあったようです。

お母様も悲鳴をあげます。

お母様の悲鳴に、ダイゴくんも泣き出します。

お父様はオロオロします。

私もダイゴくんの意識の中でオロオロします。

私がお父様のトントンに悲鳴をあげなければ、

こんなことにはならなかったと私自身を責めます。

夜中にそれはそれはうるさくなりましたが、

ダイゴくんを責める言葉は一切なく、

親御様は困りながらもダイゴくんをなだめるのです。

ダイゴくんの中にいる、私が悲鳴を上げたからだと知りましたら、

親御様は私を責めるでしょうか。

ダイゴくんとともに生きる前のあの時のように、

何をしても私の所為だと言われるでしょうか。

悪いことをしてしまったのは事実です。

私は責任を取らなければいけません。

ダイゴくんの中で落ち込む私を、

まとめてお母様が抱きしめます。

しばらくぐずっていたダイゴくんも、落ち着いて眠ります。

ああ、赤ちゃんという存在は、こんなにも愛されていいのだと。

私がダイゴくんの身体の中でした悪などは、

お母様とお父様にしてみれば、

大きな親の愛で包んでしまえるほど、小さな悪に過ぎないのかもしれません。

悪とされてきて、ダイゴくんの中にたどり着きましたが、

私の悪というものは、こんなにも小さな悪であったのかもしれません。


ダイゴくんは近いうちにホイクエンに行くらしいです。

そこにはたくさんのお子様たちと、

優しそうな先生たちがいるようです。

ダイゴくんはそこでも愛されて、勇者への道を行くのだと思います。

もしかしたら、勇者への道を行くための、

仲間のお子様が見つかるかもしれません。

勇者は愛されるものでありたいと思います。

ともに歩める仲間がいればそれは心強いです。

ゆくゆくは、ダイゴくんはこの世界の勇者になる。

ホイクエンも、そのための一歩です。

ホイクエンでもダイゴくんが活躍できるよう、

微力ながら私も祈っています。

どうか、楽しいことがたくさんありますように。


ダイゴくんの勇者への道はまだまだ続きます。

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