時計の短針が四十五度傾いた頃、もうすっかり朝になっていた。
徹夜なんて何年ぶりだろうか。体の重さとは対照的にすっかり心は洗われたように清々しい気持ちだ。
そういえばカップ焼きそばを食べていなかったな。そう思いポットでお湯を沸かす。そのあとカップ焼きそばを作り豪快に啜る。
どんなときもカップ麺も自分の味方でいてくれるんだよなあ。
担当編集とカップ麺は使いよう、ってか? それはちょっと違うか。
にやにやと笑ってしまい、少し愉快な気分になる。
それから出来上がった読み切りの原稿を電灯にかざす。
主人公も、ヒロインも、みな自分を笑ってくれているように思える。
それが嘲笑ではないことを祈るばかりだ。
■連載会議。
編集長の福原が煙草を咥えながら険しい顔をしていた。
「では次の作家さんです。荻真理先生」
キャップが田畑に原稿ネームを渡す。軽く目を通しながらぼやきを零す。
「なんかこの先生、作風がエロ同人みたいなんだよな」
「なんの悪口ですか! 公序良俗に則ってますよ。友情、努力、勝利にね」
「はいはい。どっすか編集長」
福原が「まあ、アリ」と端的に答えた。キャップが往々にして喜ぶ。
そしてどんどんと連載会議は進んでいく。
「じゃあ最後、白石先生」
キャップが渋い顔を見せながら読み切りの原稿用紙を田畑に渡す。
それにさっと目を通した田畑は福原に見せる。
「なんだこれは。白石先生は前の連載会議で通っているじゃないか」
「どうやら、この読み切りを本誌に乗せてほしいそうです」
福原は舌打ちをする。「うちは白石の同人誌じゃねえぞ、って」
「ですが……編集長。これは白石先生のけじめじゃないですかね。だって、作風からして今までと全然違うでしょ」
福原が煙草を吸ってから眉をひそめて言う。
「だからと言ってな……ちっ。分かった。乗っけようか。最後のはなむけだろ」
田畑が頭を下げる。「ありがとううございます」
編集長が副編集長の肩を叩いた。
「良い上司を持ったな」
「それ自分で言うんすか」
ゲラゲラと笑う田畑。単なる上司と部下と言うだけではない関係が、二人にはあった。
■本誌掲載。そして結果。
俺の最後の連載作品「アニメージュ」は駆け足にも一か月で打ち切りとなった。
そして今週の読み切り掲載にて、俺は漫画家を辞めるつもりでいた。
しかし、そうはならなかった。
なんと、読み切りとしては異例のアンケート一位を取ったのだ。
これで風向きが変った。
編集長の判断にて、この読み切りを連載にしてみないか、という提案があった。
それを承諾した俺。早速読み切りの漫画をプロットで膨らませ、第一話のネームを作り上げた。
そのネームを平田に見せると、満面の笑みで「面白いです」と言ってくれた。
作品がとんとん拍子に本誌掲載になると、アンケート三位から四位ほどを行ったり来たりした。
そしたら初の単行本創刊の話が持ち上がった。それを快諾。一巻が発売されると累計十万部のヒットセラーになった。
順風満帆に五巻、六巻と発売されいつの間にかアニメ化の話まで出てきた。
そのアニメが制作発表されると単行本の売り上げも上がった。
俺は部屋でガッツポーズをした。