今日の目覚めもとてもいい。
体は軽いし、頭はスッキリしている。
私はすぐに布団の中から出て、カーテンを開けた。
今日の天気はどんよりとした曇で、カーテンを開けても朝日を浴びることはできない。
まるで今の私のような空模様だ。
洗顔、化粧、着替え、朝食。流れるように出勤の準備を進めていく。いつもと同じ朝。
だがしかし私の気分はいつものように軽やかではなかった。
夢の中の彼らにしていた仕打ちを現実として受け止めてしまっているからだ。
そうして重たい足取りの中私は準備を終え、会社に向かったのであった。
*****
「どうしたの?エマちゃん?何かあった?」
会社で私の顔を見るなり、カオリさんは心配そうにそう言った。
「いや、あのですね。話せば長くなるんですけど…」
「そう…。よし!」
私はそんなカオリさんに低めの調子で答えるとカオリさんはますます心配の色を濃くする。
そして何かを決めたようにどこかへ行ってしまった。
ああ、カオリさんごめんなさい。
気を使わせてしまいました。
そう思いながら自分のデスクに向かっていると後ろからカオリさんに肩を掴まれた。
「エマちゃん!午前は外よ!」
「え」
訳がわからなかったが、カオリさんにそう言われ、私はカオリさんのなすがままに会社の外へと連れて行かれてしまった。
*****
カオリさんに連れて行かれた場所はいつも利用している喫茶店だった。最初に夢のことをカオリさんに話したのもこの喫茶店だ。
そして私はカオリさんに優しく問われて全てを話した。
「恋人たちは全て私の都合のいい夢だと思っていました。けど、違うんです。
彼らは私の夢でも私に苦しめられている。最初はそんなことどうでもよかった。
ただ夢に溺れていた。だけど、彼らが苦しんでいると思うと、胸が痛いんです。彼らはただの夢なんですよ。
でも彼らは夢の中で確かに生きている人間なんです。私はそんな彼らに取り返しのつかない酷いことをしました」
自分で喋っていて自分が何を言っているのかわからなくなる。
矛盾している言葉をたくさん並べてぐちゃぐちゃにしている。
だが、そんな狂った私の話をカオリさんは嫌な顔一つせず聞き続けてくれていた。
「そう。エマちゃんはそう思ったのね。夢のエマちゃんは愛を知らない人間だった。だから恋人たちに愛を求めて酷いことをした。だけど今のエマちゃんはどう?現実のエマちゃんは愛をよく知っているわ。
ここまでまっすぐ育つ為にきっと沢山の愛を受けてきたはずよ。そこが夢のエマちゃんと違う点で現実のエマちゃんを苦しめているとこだと思うの」
「はい」
「だからね、エマちゃん。愛を知っているアナタは優しいわ。きっとこれからもその夢に苦しめ続けられる。だからエマちゃんは例え夢でも彼らに誠意を見せた方がいいわ。その方がエマちゃんも楽になるんじゃない?今までの非礼を詫びて彼らを解放してあげるの。それからまた新たな恋を始めたらいいと思うわ。人間はいくらでもやり直せるのよ」
「そう、ですね」
スッとカオリさんの言葉が私の頭に入っていく。
夢から覚めてずっと後悔の念しかなく、ただただ苦しかった。
だが、カオリさんの話を聞いて私はまだやり直せることを知った。
人間は過ちを犯す生き物だ。そしてその分だけやり直し、成長することもできる。
まだ私にはやれることがある。
例え夢だったとしてももう己の欲望には従わない。
彼らに謝罪し、彼らを解放しなければ。
「ありがとうございます、カオリさん。私、ちゃんと誠意を見せます。彼らを解放します」
「いいのよ。エマちゃん。さ、美味しいものでも食べて元気出して午後からも頑張るわよ!」
「はい!」
スッキリして顔をあげればカオリさんが優しげな瞳で私を見つめていた。
本当に素敵な先輩だ。一生ついて行きます。
*****
それから私はカオリさんとの会話を楽しみながら午前中は喫茶店で過ごし、午後からは気持ちを切り替えて仕事をした。
そして何事もなく、1日を終えた私はさっさと家に帰宅し、食事、お風呂を済ませると、急いで布団へと入った。
今日、彼らを解放する。
いつもなら楽しみな気持ちや幸せな気持ちで布団に入る私だったが今日の私は違う。
彼らに会うことに緊張していた。
そして私はいつもとは違う気持ちの中いつものように意識を手放した。