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第13話 リアムはそれを望まない




「入るよ、エマ」


「ええ、どうぞ」




部屋の外から予想通りリアムの声が聞こえてきたので、私は緊張で声が震えないように精一杯自分を律してリアムに返事をした。




「どうしたんだい?エマ。面談だなんて。今度はそういう遊びかな?」




部屋に入るなり興味深そうに私に微笑みながらリアムがいつものように私の隣へ移動する。




「リアム。今日は向かい側へ座りなさい」




私はそんなリアムをいつものように笑わずに制した。

彼と誠実に向き合う為には机を挟んで向き合う形でなければならないだろう。




「どうしてそんな意地悪を言うんだい?僕はエマの側に居たいのに」




それでもリアムは寂しそうに、だけどどこかおかしそうに笑い、私の横へ座ろうとする。




「…わからないのならもう一度言うわ。今日は向かい側に座りなさい」




なので私はそんなリアムを睨んでもう一度今度は強く制した。


昨日のこともあり、いつものように余裕を持ちながらリアムをあしらうことができない。




「…わかったよ、エマ」




やっと私の要求を理解したリアムは残念そうに肩を落とすと私に言われた通りに向かい側のソファに腰を下ろした。


恐ろしく美しい、甘いマスクをしたリアムが私を見つめる。

緊張でカラカラに喉が渇く。

本当は逃げ出したい。

だが、逃げる訳にはいかない。




「リアム」


「何だい?エマ」




カラカラの喉から出た私の声にリアムがいつものように甘く微笑んで反応する。




「まずは今までの非礼を謝罪させて。今まで本当にごめんなさい。私はアナタに酷いことをしてきた」


「…」




私はリアムに真剣な表情で誠意を込めて心から謝罪をした。

私の謝罪を受けてもリアムは甘い微笑みを浮かべたままで何を考えているのかわからない。




「今日をもってアナタを解放するわ」




私はそんなリアムに意を決して〝解放〟の言葉を口にした。




「…かい、ほう?」




するとリアムはにっこりと私に笑ってみせた。瞳の奥が笑っていない笑顔で。




「また、それを言うの、エマ」


「え?」


「僕はエマから解放されることなんて望んでいないよ」




仄暗い笑みを私に向けるリアムの言葉に理解が追いつかない。


何故?

私を恨んでいるのに解放を望まない?


私から解放されれば王子様に戻れる。愛していない女を愛しているフリなんてしなくていい。

ここじゃないどこへでも行けるというのに。

それに、また、とは?




「リアム。私は本気よ。アナタに酷いことをしたと心から思っているし、アナタをもう私から解放したいの。アナタを試している訳じゃない。アナタの王の首ももちろん狙わないわ」




リアムはきっと私が信じられないのだろう。だから私の言葉を信じさせる為に私は必死に言葉を並べた。




「私のことを恨んでいるでしょう?もうそんな人間に愛を囁く必要なんてないのよ」




これだけ言えばさすがに察しのいいリアムなら全てを理解してくれるだろう。


私は言いたかったことを全て言い切れたことに安心しながら皮肉げにリアムに笑ってみせた。




「…あぁ、そう何度も言わないで欲しいな」




リアムが辛そうにその美しい微笑みを歪める。

よく見ればリアムの両手は力強く握りしめられており、とてもじゃないが嬉しそうには見えない。


どういうこと?




「恨んでいたよ、アナタのこと。ずっと恨んでいた。僕から王子という肩書きを無理やり奪って、軟禁して。僕はアナタに気に入られていつかアナタを殺そうとまでした。だけどね、僕はアナタに絆された」




リアムが歪んだ微笑みのまま、愛おしげに私を見つめる。

リアムの美しい碧眼が私を捉えて離さない。




「僕は1番にずっとなれなかった。どんなに優秀でも王位継承権は僕のものにはならない。何でもできたけど何も極められない。


だけどエマは僕に1番をくれた。僕を強く求めて愛してくれた。僕はね、アナタをずっと見てきたからアナタの愛に対してのコンプレックスもよくわかったよ。


だから寂しいエマを今度は僕が愛してあげたいと思ったんだ」




仄暗い笑みを浮かべ、リアムが訳のわからないことを私に言い連ねる。


理解が追いつかない。リアムが私を恨んでいない訳がないのに。こんなこと絶対におかしい。狂っている。


現に目の前にいるリアムの様子は明らかにおかしかった。

瞳には光がなく、笑っているがその感情が正しいのかわからない。


彼は壊れてしまったんだ。そして狂ってしまった。

そうしなければここでは正気を保っていられなかった。

軟禁されて愛してもいない相手に愛を強要されて。そんな状況で狂わない人間なんているのだろうか。


私は遅かったのか。




「…リアムは私から解放されることを望んでいないの?」


「そうだよ。僕はエマを愛しているからね。エマに囚われ続けたい。これからも永遠に」




恐る恐るリアムの意思をもう一度確認する。

するとリアムは本当に愛おしそうに私に微笑んだ。


もう、手遅れだ。

リアムは狂っている。私がいる限り彼は幸せになれない。

そんなのは嫌だ。


この状況を改善する為にはリアムの前から私自身が消え、冷静さを取り戻させなければならないだろう。


最初こそ大変かもしれないが、やがて時間が今の狂った状況に気づかせ、リアムを治してくれる。


その為にも今だけはリアムの気持ちを受け取ったフリをしよう。




「エマ。だから僕は必ずエマを見つけ出す。そしてもう二度と逃げられないように今度は僕がエマを軟禁するよ。エマの為に大きな檻を用意したんだ」


「え?」




甘くとろけるような笑みを浮かべるリアムの瞳には相変わらず光はない。

リアムの言っていることの意味がわからず、私は表情を歪めた。


だけどどうしてだろう。

何の脈略もなく言われたことなのに何か引っかかる。

だが、それが何なのか私にはわからない。




「それで?エマは僕を解放するのかな?」




頭の中を何とか整理しようとしていると、リアムが私に甘く問いかけた。




「…しないわ」


「ふふ、それはよかった。嬉しいよ、僕のエマ」




今はリアムの気持ちを受け止めるべきなので、私はぎこちなくだが、リアムが望む答えを答える。

するとリアムはいつものように甘い笑顔を私に向けた。





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