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第15話 レオはそれを否定した



ルークが部屋から帰り、また私は1人になった。

また一つ増えてしまった罪に心が引き裂かれそうになりながらも、私はリアムからもルークからも感じた違和感について考えていた。


リアムもルークもまるで私が逃げ出したかのような口ぶりで私に話しかけていた。

私はまだ彼らから逃げ出していないのに。

何故彼らが口を揃えて私にそう言ったのか答えが一向に見つからならない。




「…」




黙ったまま目の前のソファを見つめる。

次に私の元に訪れるのはレオだ。レオだけはどうか壊れていないで欲しい。


そう思っていると強めのノックの音がこの静かな部屋に響いた。レオが来たのだ。




「入るぞ」




私の予想通り扉の向こうからレオの声が聞こえる。

レオはいつものように私の返事を待たず、扉を開け、私の部屋へ入った。




「エマ、いきなり面談とかどうしたんだ?」




部屋へ入ってきたレオは不思議そうに私を見つめながら私の隣へいつものように移動する。

また私は言わなければならない。




「…大事な話があってね。今日はあっちに座りなさい」




本日何度も言った台詞をまたレオに吐く。




「…わかった」




するとレオはリアムやルークのように渋らずすぐに向かい側の方へ向かった。

ほんの少し傷ついたような表情を一瞬だけ浮かべて。

演技などもうしなくてもよいと早く伝えたい。




「で、大事な話ってなんだよ?今までの謝罪とかじゃねぇよな?」


「…っ」




ソファへ座って私より先にレオが口を開いた。何故か怒っている様子のレオの言葉に私は驚きで目を見開く。


何故私が言おうとしたことがわかったのか。

何故レオは怒っているのか。




「…そうよ。今までのことを私は謝罪したいの。本当にごめんなさい。私がしてきたことは最低なことだった。だから…」




レオに先に言われてしまったが、伝えたいことは一緒だ。

私は謝罪し、ソファから立ち上がるとレオのピアスを外そうとレオの耳元へ手を伸ばした。

これさえ外せばレオは自由になれる。




「っ!やめろ!」




だがそれはレオが私の手を叩き落としたことによって叶わなかった。




「またなのか…」




レオのその行動に驚いてレオを見つめるとレオは怒りに静かに震えながら私を射抜いていた。

レオの真紅の瞳から光りが消えている。


リアムとルークと同じ、あの光を許さない暗い瞳。


まさか、レオまでも…。




「どうしたの、レオ。アナタからこれを外せばアナタは自由よ。私に縛られることはない。どこへでも行けるし、アナタの好きな魔術の幅ももっと広がる。何より私を愛さなくていいのよ?恨んでいるでしょう、私のこと」




レオだけはそうではないと期待して何とかレオに私は微笑んでみせる。




「…恨んでねぇよ、もう」




だがレオはそんな私をまっすぐ見つめて私の望まない言葉を吐いた。




「嘘よ」


「嘘じゃねぇ」


「嘘よ!そうでなければおかしいじゃない!アナタは私にどれほどの仕打ちを…」


「嘘じゃねぇって言ってんだろ」




冷静さを忘れて取り乱す私の言葉をレオが静かに否定する。




「最初はそうだったかもしれない。でもここでの生活はエマが思っている程俺にとっては悪くねぇよ。


魔術も好きなだけ研究できるし、力を抑えられていると言ってもエマより少し弱いだけで不自由な訳でもねぇ。それにここにはエマがいるだろ」


「…え」




私が、いる?




「俺は産まれた時から強すぎる力を持っていた。だからすぐに両親には捨てられたし、専門学校へ通うまでは人には言いたくないような人生も送ってきた。


俺は産まれてからずっと孤独だった。

けど、最初から孤独な俺はその孤独の意味もわからずただ孤独なまま生きてきた。


それでよかった。よかったはずなのに。エマが俺を愛してしまったから。エマが俺と一緒にいてくれたから。


俺は初めて人の温もりや繋がりを知り、寂しいという思いを知った。そして本当の意味で、孤独を知ってしまった」




レオが私を強く見つめる。




「もう俺はエマから離れられないんだよ。もう孤独だった頃の俺には戻れない。

愛しているんだ、エマ。エマも俺と同じように孤独だというのなら今度は俺がエマがしてくれたようにエマの孤独を埋めよう。俺の愛で」




嘘だと今すぐ言って欲しかった。

仄暗いながらも真剣な表情で私に思いを伝えたレオの言葉に嘘はきっとない。

だからこそ私の胸がまた引き裂かれそうな程痛む。


レオもまた私に壊された。

追い詰められて、壊れて、そして狂った。

リアムとルークと同じようにそうするしかなかった。


しかし何故レオは今私は謝罪しようとしていたことがわかったのだろう。

今までの私の振る舞いからは絶対に想像などできないはずなのに。




「…レオの気持ちはよくわかったわ。でも何故、レオは私が謝罪したいと思っていたことがわかったのかしら」


「知っていたからだ」


「…?知っていた?」




レオの言葉にますます訳がわからなくなり、私は眉間に皺を寄せる。

するとそんな私を見てレオは仄暗く笑った。




「エマ、お前は俺の前から消えたんだ。そうやって俺の気持ちを受け取ったフリをしてな」


「…え」


「なあ、逃げ切れると思うなよ。お前は必ず俺が見つけ出す。そしてこんな夢だけじゃなく、エマの全部を今度は俺が縛ってやる。もう二度と俺の目の前から消えないように」




いつもなら見せないレオのその笑みにどこか恐怖を感じる。

レオの言っている意味が先程から全然わからないのにどこか引っかかってしょうがないのは何故なのか。


何か大事なことを見落としている。いや、忘れている。




「もうすぐだ。もう迎えに行くから。エマ。俺のエマ。愛している。だから早く夢から覚めてくれ」




レオが愛おしげにその瞳を細める。

私の頭の中で危険を知らせる警報がけたたましく鳴り響いた。

この夢から早く逃げなければならないと。



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