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第11話 現れた冒険者との共闘

 すぐに状況は察した。

 こんな場所に来る人種など、法を犯した人間でないのなら、冒険者くらいのものだ。


 彼女たちはレッドキャップに包囲された廃教会へ、あえて接近し、その包囲網を解こうとしていた。


「まさか、僕らを助けようとしてる?」


 冷たい風が鬱蒼と茂る森を吹き抜け、霧のような湿気が肌を湿らせる中、鋭い金属音が響き渡る。


 ゴブリン集団『レッドキャップ』は赤い頭巾をかぶり、狂気じみた叫びを上げながら、四方八方から冒険者たちに迫っていた。


 真っ先に、黒衣を翻す二人の双子姉妹が目についた。透き通るような肌に、漆黒の髪。

 片方はポニーテールで、もう片方はボブカット。


 ゴシック調のタイトなパンツスーツに身を包み、精巧な刺繍のなされたコートをはためかせて、ゴブリンの群れの中へと躍り出た。


 全長は2mほどもある槍を、小柄な少女たちが振るう姿はアンバランスで非現実的だ。

 舞台上での演劇染みてすらいた。


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 双子姉妹は背中合わせに立ち、黒髪が風に舞う。

 彼女たちの槍は、茨を思わせる鋭い棘で覆われ、振るうたびに茨が軌跡を描いて伸び、ゴブリンたちを引き裂いた。


 ポニーテールの娘が槍で間合いを広げながら挑発する間、ボブカットの娘が敵の一瞬の隙を突いて喉元を貫いた。


「ディー、右!そいつらの足を狙え!」


 双子の中でも、ポニーテールで髪を束ねた少女は低い声で激を飛ばし、茨の棘槍をひときわ大きく振りかざして、目の前のゴブリンの斧槍を弾き飛ばす。


 茨の槍が一気に伸び、ゴブリンの胸を貫くと、その場で大きな音を立てて倒れた。


 合間を縫って、すぐに別のゴブリンが斧槍を持ち、無慈悲に突進してきたのを、ツタの束を蛇のように伸ばし、強引にねじ伏せる。

 そのまま獲物を刺し貫くと、槍が爆ぜた。


 いや、槍から茨が飛び出して、内部からずたずたに引き裂いたのだ。ゴブリンが断末魔を上げる。


 ディーと呼ばれたボブカットの娘は、薄く笑うと謡うように、詠唱する。


「もちろんよ、ダム。 ……静かに絡め取り、逃さない。それが茨の美学」


 ディーの棘槍から魔術式が展開される。空間から、茨の束が地面をはい回り、ゴブリンらの脚を絡め取り転倒させると、すかさずダムが止めを刺しにかかる。


 姉妹の連携は隙がなく、息の合った動きだ。

 だが、目立つ双子は常に狙われている。とっさにダムは叫んだ。


「ディー、危ない!」


 瞬間、ゴブリンの構える銃口から、火花と共に弾丸が空気を裂き、ディーの顔のすぐ横を掠めた。


 頬から出血しながら、ディーは飛び上がり、掲げられた斧槍の隙間を縫うように移動する。


 双子姉妹の陣形が崩れたのを見て、群れが殺到、二人の周囲を取り囲んだ。

 彼女たちは無数の斧槍と銃弾の嵐にさらされ、身をよじりながら切り抜けていく。


 それを支援するのは、双子の姉妹と揃えたように豪華なゴシックドレスに身を包んだ異形の女だ。

 陰から戦うその女の動きを、リューファスの鍛えられた眼は見逃さなかった。


 背中から蜘蛛の足を生やし、森の闇に紛れ、淡々と陰から、密かに敵を仕留める。

 その目は冷静かつ無感情だが、動きは俊敏かつ致命的。捕食者の在り様だった。


「糸で絡めてからぁ――」


 低く茂みをかき分け、地面を這いまわると、数本の蜘蛛の糸が飛ぶ。


 強大な力を込めて放たれたそれは、鋼鉄如き強度を有し、ゴブリンたちの身体をへし折っていく。絡めるのではなく、食いちぎるような有様だ。


 力なく引き寄せられた、ゴブリンは鋭い脚でその喉を踏みつけられてしまった。

 淡々とした表情で、次の標的を探す。


「でも、どれもマズそうよね」


 だが、ゴブリンの数は膨大だ。


 マスケット銃の弾が飛び交い、アラクネの周りでも弾丸が木々を裂いて飛び散る。

 彼女は一瞬の隙を突かれ、肩に銃弾を受け出血するが、それを無視して戦闘を継続した。


 彼女たち冒険者パーティの中心にいるのは、神官服に身を包んだ銀髪銀眼の美女だった。


 作り物めいた造型の浮世離れした女は、ゴブリンにとって危険すぎるものだった。


 銀髪の女は、己の存在自身に権能を宿した回路を張り巡らせ、さながら結界のような防護力場を生成していた。

 さらに、メンバーのいずれかが致命傷を負うと、銀髪の女は手を翳して、こう宣言するのだ。


「残り、蘇生回数は5回です。 あまり、ご無理なさらないよう。 ……黄金の法則が織りなす生命の螺旋。意識の海に漂う断片を紡ぎ、空虚を編み、汝の真なる姿を呼び覚ませ」


 声と共に、光の渦の中に膨大な数式が瞬間的に展開。


 黄金比に基づく螺旋状のパターンから、連鎖的に組み合わさって図形へと変化し、最終的に人物の輪郭を形作る基盤が形成された。

 その光に照らされると同時に、負傷していた冒険者に欠損していた血肉が集まり、時間を逆転させるかのように、正常な肉体が再生していった。


 それを見たリューファスは思わず顔をしかめた。


「――なんだ、あの力は」


 回復も蘇生も、知る限りそこまで便利な力ではない。等しく、相応の対価が要求されるものだ。


 だが、今はそれを考える時間ではない。リューファスは剣を構えて加勢に出ることにした。


「メッツァ、魔術で援護しろ!」

「だから、僕は戦闘員じゃないんだって! 研究者なの!」


 メッツァが抗議するが、聞く耳は持ってくれない。


「わかった、わかったよ!やればいいんでしょ、やれば!」


 「もう、バカじゃないのか。本当にバカじゃないのか」と、誰に向けたともわからないような罵倒を繰り返しながら、メッツァは眼鏡に指を添えて操作を開始。


 解析レンズを使って、再び、ゴブリンの位置を測定し始める。


 複数人の乱戦状態なので、先ほどよりもはるかに難易度が高かった。

 事前に設定しない限りは、『魔術に敵味方の区別など存在しない』ので、誤射の危険性が非常に上がる。


 傲慢にも、当然のようにリューファスは命令だけをすると、戦場に走っていった。

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