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第44話 劉備軍団

 益州を攻撃しようとしている劉備軍団は、赤壁の戦いの頃とは変貌している。

 あの頃の劉備はわずか一万の軍勢しか所有しておらず、人材は孔明、関羽、張飛、趙雲、簡雍、麋竺、糜芳、孫乾くらいしかいなかった。

 いまは孔明、龐統、馬良らが行政手腕を発揮して荊州を富ませ、五万の兵力を有するようになっている。

 人材も充実してきた。


 軍師 孔明 龐統

 武官 関羽 張飛 趙雲 黄忠 魏延 馬謖 劉封 関平 張苞

 文官 簡雍 麋竺 糜芳 孫乾 馬良 伊籍


 伊籍は劉表に仕えていた人物で、劉備とは新野時代から付き合いがあった。

 弁舌巧みで外交の才がある。

 劉備が荊州南部を制覇した後、彼の配下に加わり、孫乾とともに外交や各地の情勢分析などを担当している。


 関平と張苞はそれぞれ関羽と張飛の実子で、父譲りの剛勇を持っている。

 新世代の才能も育ちつつあった。


 この他、法正が劉璋との連絡係となって、劉備のもとにとどまっている。

 劉備を益州の主に迎え入れるつもりの法正は、ほとんど部下のようなものだった。

 張松も劉備に仕える気でいたが、益州の首府成都へ帰還している。


 劉備は孔明、龐統と益州攻略の陣容について相談した。

「誰を従軍させようか。まず言っておくが、おれが総大将をつとめる。劉璋殿の依頼を受ける形での進軍になる。おれが行かねば格好がつかん」と劉備は言った。

「殿が行くとなれば、私が随行します」と孔明はすぐに言い、「私も行きます」と龐統も表明した。

「どちらかひとりは荊州にとどまってくれ。この地を守ってもらわねばならん」

「龐統殿、荊州をよろしくお願いします」

「いやいや、諸葛亮殿でなければ、この地は治まりません」

 ふたりとも益州攻撃の軍師役をやりたがった。劉備は「うーむ」とうなった。


「孔明、先輩軍師として、ここはひとつ譲ってやったらどうだ?」

「殿、私は不要なのですか?」

「いや、おまえのことは頼りにしている。龐統が言うとおり、おまえがいなければ、荊州の統治が滞ると思ったのだ」

「殿がそうおっしゃるなら、仕方ありませんね」

 孔明が譲り、随行軍師は龐統になった。

「命を賭けて、殿に貢献いたします」

 龐統は張り切っていた。大役を任されると、素直に全力を尽くす男だった。

 彼らは会議をつづけ、益州攻略軍の陣容を決めていった。


 劉備は軍議を招集した。幹部を全員集め、法正も呼んだ。

「おれは益州牧の劉璋殿に頼まれて、漢中郡の張魯を征伐することになった」と劉備は告げた。

 真の目的は益州攻略なのだが、それはまだ味方にも明かさない秘密である。

 それを知る者はこの時点では、劉備、孔明、龐統、法正、張松だけだった。


「漢中郡攻略ですか」関羽は身を乗り出した。

「腕が鳴るぜ!」と張飛は叫び、「お供します」と趙雲も言った。

 劉備は苦笑した。

「悪いが、そなたらは荊州を守っていてくれ。今回は、新たに加わってくれた者たちに功名の機会を与えようと思っている」

 関羽、張飛、趙雲は愕然として、言葉を失った。


「軍師は龐統だ」と劉備は最初に言った。それから他の従軍する者の名を告げていった。

「黄忠と魏延、漢中攻略の将軍に任ずる。しっかりと働いてくれ」

「おお、お任せくだされ」黄忠は喜んだ。

「殿、この命を捧げます」魏延は感激していた。


「馬謖、劉封、関平、張苞、将校として従軍せよ。関平と張苞には、おれの護衛も頼む」

 若い男たちは、「はい!」と声を揃えた。

「関平、しっかりと兄者をお守りせよ」と関羽は言い、「ぐぬぬ、張苞、おれにかわって命懸けで兄貴を守れ」と張飛はうめいた。


「馬良、占領した土地の行政を担当せよ。伊籍には外交交渉が必要なときに働いてもらう。法正殿、漢中郡への道案内をよろしく頼む」

 三人の文官たちは、静かにうなずいた。

「孔明、荊州の留守を頼む」

「はい」

 孔明は荊州統治を任された。従軍する龐統よりも、責任重大な任務であると見ることもできる。

「二万の軍を率いていく。三万の兵を荊州に残す。荊州守備軍の指揮は、関羽に任せる」

「承知しました」

 関羽にも大きな任務が託された。

 もし劉備の留守中に曹操が攻めてきたら、彼が防がねばならない。


 任命が済み、劉備は軍議を終えようとした。

 そのとき、会議室に駆け込んできた者がいた。

「玄徳様、わたしも行きます!」

 孫尚香だった。

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