目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第15話:家のリフォーム開始!

「糸より村」のYoutuber、岡里セシル(推定20)、通称「せしるん」が村内で配信を始めた。自分の家の中の紹介、村内の動画、近所の動画。「家一軒無料企画」で家をもらったことも話題になり、ネットニュースに取り上げられ、登録者数も30万人から45万人にステップアップしていた。


 そして、次の段階として村の「名物」を紹介しようとしたら、特にないことが分かった。それでは、と「特産物」について紹介するも、特に特徴が無く紹介のしかたに困る結果に……。


 頑張れ! せしるん!



 〇●〇



 60代の老夫婦、桑木野夫妻が熱を出した。連日慣れない農作業で無理が祟ったらしい。田舎で病気をしたら一大事なのだ。近所の人が次々お見舞いに来ていた。家の中を荒らしたりはしないのだが、奥さんに代わって、別の家の奥さんが来て、掃除をしていったり、料理をしていったり……。


 桑木野夫妻は都会育ち。他人が家に入って来ることにストレスを感じる性格だった。気を使うので、次々訪問する客のせいで頭がおかしくなりつつあった。


 誰かが来るたびに奥さんは布団から起きてお礼を言うのだが、そろって村民は「いいから、いいから。調子悪い時は横になってて!」と気遣いの発言をする。


 桑木野夫妻も少し不安は感じるものの、調子が悪いのも事実。正直、助かっていた。


 ただ、これらはある意味「借り」であり、有事の際には返す必要があるのだ。


 田舎において「貸し」や「借り」という概念はないものの「困ったときはお互い様」的な精神に取りつかれており、親切を受けることで桑野木夫妻も徐々にこの精神に染まりつつあるのだった。



 〇●〇 善福熊五郎の場合


 家の中を何とかしないといけなかった。1階は主にリビング。壁紙はボロボロで剥がれかけている。その上、古い家なので断熱がほとんどない。壁と柱の間に隙間ができ始めていて、簡単に言うと隙間風が吹きこむ。今の時期ならまだ大丈夫だが、冬場にこれだと九州でも死ぬかもしれない。


 2階はもっとひどくて、昔ボヤがあったらしい。比較的早めに鎮火できたらしいが、壁が焦げているし、畳は腐っていて使い物にならない。家が古いのは1階と同じなので、「ボロい」だけじゃなく「ひどい」も追加されているのが2階と言えようか。


とりあえず、「不動明王様」に手を合わせることから1日は始まる。娘達も一緒に手を合わせた。


「おとうさん、どこからやるの?」


 ひどい室内を見て、お姉ちゃんが当然リフォームするものとして、訊いてきた。俺としても当然リフォームをしようと考えていた。セオリー的な順番で言えば、2階から始めるのがぴ王道だろう。


 2階は明らかに壁をやり直したりするので、ゴミやホコリが出る。1階を先にやってしまうと、きれいになった1階をゴミやホコリが通るので、掃除をもう一回余計にする必要がある。その他、資材を入れる時もきれいにした1階を通る時に傷や汚れさせてしまう可能性もあるのだ。


 しかし、俺は娘2人にこんなボロボロのリビングで生活させるわけにはいかないと思っていた。そこで、俺のプランとしては1階からリフォームすることにした。もちろん、DIYで!


「1階からだな!」

「1階? ふーん。分かった。当然私達も一緒にやるから」


 お姉ちゃんがインパクトドライバーのレバーを引いてウインウインとドライバをまわして見せた。彼女はやる気だ。


「動画撮った方がいい」


 妹智恵理が謎の提案をしてきた。


「動画?」

「んーーーーー、確認とか?」


 なぜ、提案者が訊く?


「私、動画撮るから作業量減るかも」

「それは問題ない。手伝ってくれるだけで助かる。そうじゃなければ、1人でやるつもりだったから」


 俺←メインのリフォーム人

 お姉ちゃん←その助手

 妹ちゃん←助手兼カメラマン(?)


 リフォーム作業にカメラマンが必要なのか、謎ではあったが良しとした。


 リフォーム自体は自分たちでもできる。多少の知識があれば。そして、最近ではその知識もリフォーム関連の動画がYouTubeで見ることができる。


 1階のリフォーム内容を確認してみた。問題は壁と柱の、間に隙間がある。カメムシくらいなら入ってくるレベル。ボロ屋だからな。


 俺は家を一から建て直すほどの力はない。あくまで今の家を直すだけ。だから、この隙間のある壁を壊すところまではできなかった。


「お父さん、この家の柱って……!」


 お姉ちゃんが驚いている。俺も見たときに驚いたのだ。


「太さの話かな?」

「うん、そう。5寸? 普通の家より太くない!?」


 そうなのだ。これは柱の太さの話。最近の家は3.5寸と約10センチの幅の柱か4寸って約12センチ幅の柱が使われる。


 2階建ての家は4寸かな。


 ところが、この家は5寸なのだ。うーんと、約15センチ。


「多分、古い家だからしっかりした柱を使っていたのだと思う。今、この家を建てようとしたら結構な費用がかかるはず」

「ラッキーだね♪」


 まあ、考えようによってはラッキーか。妹は俺達の会話もスマホで撮影してるみたい。カメラテストかな? ここはあまり気にしない。


「とにかく、まず隙間を埋めよう。コーキングみたいな充てん材を流し込んで隙間を埋めよう」


 プラントしては、まずは壁と柱の隙間を埋める。次に壁に「間柱」と呼ばれる角材を等間隔に固定して、間に断熱材を入れて、その前に石膏ボードを貼る。そして、壁紙を貼ることを考えた。要するに、今の壁の前にもう一つ壁を作る作戦だ。


 確かに部屋は「第2の壁」の厚さ分狭くなるのだが、この家は古い作りだ。元々が広かったのでほとんど気にならない。それよりも「第2の壁」を作ることで電気工事の配線などが格段にやりやすくなるのだ。


 資材を考えると、一番大きいのは石膏ボード。うちの軽では運べない。しかし、ホームセンターの軽トラ貸出しサービスを利用すれば運送費もかからない。


 幸い仕事は辞めてる。若干だがお金もある。俺は娘達とこの家をリフォームすることに集中することにした。


 ■■■ 善福清美(離婚済、手続きが面倒で旧姓に戻してない)


 うちに誰もいない。娘達もいない。2日に1回お手伝いさんが来るけど、事務的に掃除をして冷蔵庫に作り置きの料理を入れていく。


 料理をしてる間に後ろから話しかけてもあまり会話は弾まない。むしろ、迷惑になってるかも。


 彼は週末はゴルフ。接待って言ってた。その後は中洲に繰り出す。中洲は福岡の繁華街。夜のお店が集まってるところ。


 運転手がいるから車で行っても普通にお酒が飲めるのか。お金持ちってすごい。


 あまりにも退屈だから働きたいって彼に言った。そしたら、「欲しいものがあったらカードを渡してるだろ」って言われた。


 働かないで欲しいらしい。暇すぎて習い事に行こうと思った。でも、虚しい。何を習って、誰に何をするの?


 ご飯を作っても彼はうちでほとんどご飯を食べない。帰ってこない日も多い。また他に女がいるのかも。


 前の家では騒がしかったけど、今思えば楽しかったなぁ。充実してた。それが分からないほど忙しかったけど。それでも、今より100倍はマシ。


 あの人は私を自由にしてくれた。料理をしなかったら、あの人がしてくれたし。掃除をサボったら、掃除もしてくれた。


 声が聞きたいな。電話したらダメかな? ダメだよね? 裏切って不倫したんだし。私から離婚したんだし……。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?