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第19話:床のリフォーム

 家のリフォームは面白い。一番心配だった壁はやり直した。天井は最初にすべきだったのだろうが、比較的状態が良くて特に大きな修繕は必要なかった。問題は床だ。フローリング……というよりは板張りなのだが、歩くと所々きしむのだ。いつか抜けてしまうかもしれない。これでは安心して歩けない。


 俺は板張りを剥がしてみた。床下は基礎があって、その上に根太(ねだ)という横に渡した木がある。そこに断熱材があって、その上に板が貼ってある。畳の部屋ならその上に畳がある。通常はそんな構造になっていた。


 この家は木の板が2重に貼ってあった。断熱材がなく、だから、カビ臭かった。しかも、基礎がいい加減な上に、根太の木が腐っていた。昔、白アリがいたのかもしれない。スカスカのボロボロだ。


 俺はとにかく床を全部剥がした。今日はどこでご飯を食べようか迷うが、いい加減な修繕ではまたやり直しが必要になる。やるからにはしっかりと!


 これが夏場でよかった。冬だったら夜には大後悔していたことだろう。


 3人でやれば15畳くらいの床板を剥がすことなんか造作もない。俺達は床にコンクリートを流し込んでいった。これがなかなかに大変な作業。


 1人が外でコンクリートを練る。ホームセンターに売られている「インスタントコンクリート」を買って来て、水と混ぜる。これは一般的なコンクリートのポルトランドセメントに乾いた砂と乾いた砂利が適量で混合されたもので、適量の水を混ぜるだけでコンクリートになるのだ。


 ただね、重たい! 何が重たいのかって、コンクリート自体が重いのだ。粘土っぽい砂と乾いた砂と砂利、それに水。どれも重たいのだから、混ぜても当然重たい。運ぶのも重たい。混ぜるだけでも重労働なのだ。


 ひーこら言いながら俺が混ぜると、娘達がバケツに入れて家の中に運ぶ。全部って訳じゃないけど、主要な部分だけとはいえ、15畳の下に敷こうと思ったらすごい量ですごい重さなのだ。それなのに、娘達は15リットルのバケツを両方に持って、次々と運んでいく。もちろん、バケツは満タンじゃない。でも、コンクリートの比重から考えたら10リットルくらいで15キロくらいはある。それを考えたらたくましい。二人とも細いのにどこにそんな力があるっていうんだよ。


 コンクリートは通常2週間とか3週間置いておかないと乾かないんだけど、このインスタントセメントは24時間で固まるのだ。今日は全員、壁がヤバい2階で寝ることになりそうだけど、みんなで作業をすると充実感がある。ちなみに、硬化時間30分とか、60分とかのインスタントセメントもあるけど、この場合にそれを使うと練ってるそばから塗っていかないと次々固まってしまって大変なことになる。


 速ければいいという訳じゃないのさ。


 一応、2日間空けて次は、床下の柱みたいな役目の「束柱」を補修した。一部はシロアリに食われてスカスカだった。新しいものに交換して固定した。土台と大引きで縦横に木材を渡す。ここら辺が床の重さを支える部分だ。横に渡す「根太」をはったところで、俺は床に防水シートを敷いた。その上に乾燥剤の粒を撒き、床下の湿気を防止した。各木材にはシロアリ防止の塗料も塗った。再びシロアリに食われたらシャレにならない。


 その上で断熱を敷いて床板を打ち付けた。そして、これが一番高い買い物だった「フローリング板」!


 きれいに並べて、組み合わせていく感じ。これも3人なので作業はスムーズに進んだ。一人だったと考えたらぞっとする。


 フローリングは最後の1列だけ幅を調整しないといけないので多少手間だが、電動丸ノコを持っていたので、木材を正確に真っすぐ切ることができた。俺が楽しく切っていると、お姉ちゃんが「私もやりたい!」と参入。妹はなぜかその様子をスマホで撮影していた。最近の子の考えることはよく分からん。


 そして、壁の一番下に「巾木」って板を貼って1階のリフォームが完成した。


「「「かんせー!」」」


 何だこの連帯感! 何だこの達成感!! 何だこの満足感!!!


 娘二人と共にハイタッチして完成を喜んだ。自分たちが住む家を自分たちでリフォームする。時間とお金はかかったけど、どの業者に頼むよりも安くて、最高の満足感を得られたと思う。


「今日は庭でバーベキューでもするか!」

「いいねーっ!」

「肉!」


 近所にスーパーが無いから少し遠出して道の駅で適当な肉を買い、野菜も買った。通常、道の駅にはブランドイチゴとか、名物になるような物が置いてある。ところが、糸より村の道の駅は、地味な食材が多かった。もっとも地味だと思ったのは「コンニャク」だった。何種類か置いてあるから特産物と言えば特産物なのかもしれない。


「おとうさん、これも買ってみよう?」


 お姉ちゃんがコンニャクを手に取った。


「えーーー、コンニャクーーー!? 肉がいいーーー」


 露骨に嫌がる智恵理。コンニャクのバーベキュー……やったことないな。肉と野菜を買ったついでにコンニャクも買ってみるのだった。


 □□□ 母の近況


 今日、警察署から電話があった。俺のスマホは発信元の番号から、それが誰か案内するアプリを入れていたので、取る前に「警察署」と表示があり、なにかと思った。


『今日、善福清司さんが警察署に来られていまして。妻が連れ去られたと言っているので、それをしたという息子さんにお電話している次第です』



 弁護士の次は警察か……。あのアホ、次々と色々考えて来る。また面倒なことだとため息をついた。


 そして、気を取り直して警察の問いに答えることにした。


「母はそこにいる父からDVを受けていました。DVからの避難なのでどこにいるか知らせていないだけです。ケアマネジャーさんが協力してくれています。その他、財産を取り上げたりして経済的なDVは現在も続いています。先日まで入院していた病院でも大騒ぎして見舞い禁止にされてますし、そのことで市にも相談しています」

「あー……そうですか。なんとなく納得しました」


 目の前にいる父親の様子が変だと分かったのだろう。俺の言うことの方が筋が通っているのだと。


「念のため、ケアマネさんと病院がどちらか教えていただけますか?」

「はい、分かりました。ケアマネさんが……。病院は……」

「最後に、現在お母さんがどちらにおられるのか教えていただけますか?」


 俺は伝えるのに躊躇したが、発信元は間違いなく警察署だったので一応確認して知らせることにした。


「DVからの避難なので、絶対に父親に伝えないでくださいね?」

「私は警察官ですし、絶対に知らせません。今、電話の近くにも本人おりません」

「分かりました。現在は老健の……」

「承知しました。大変失礼しました」

「いえ、こちらこそ」


 もはや異常者の部類だろうに、そんな父親の相手をしないといけないとか警察も大変な仕事だ。



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