目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第32話:お手本にしたい店


 Youtuberの私はアクセス解析の画面を見て愕然としていた……。




 ○●○




 Youtuberを始めて3年目……。ちょっとしたラッキーで登録者数が増えて収益化できた。




 名前も地味な本名から「岡里せしる」にして「せしるん」と呼ばれるようになった!




 でも、ツキはそこまでだった。元々人に馴染めないから高校でもボッチだった。未だに高校時代の同級生が私が「せしるん」だと分かってる人はいないみたい。誰からも連絡ない。




 登録者数は増えた。ところが、元々私自身面白い人間でもなければ、人を惹きつけるぶっ壊れた一面もない。




 登録者数が多いけど、数回動画を見たらだいぶ早めに離脱していくみたい。何とか引き留めようと色々と企画を考えたけどダメみたい。登録者数が解除しないのはそれすらも面倒だからかも……。




 あのね、ホントに一旦は収益化したの! 動画を上げれば10万再生、20万再生って。収益は簡単な計算でいけば再生数✕0.1。多分、もっと複雑な計算なんだけど、そんなのどうでもよかった。私としては、動画を作れば1万円、2万円になってたってこと。毎日アップすれば月に30万円を超える収益になってた。




 ピークの月は50万円になった。……でも、それは一瞬。後は落ちるばかり。あんまり無駄遣いしないし、お金は少しだけ貯まった。でも、全然一生食べていける金額じゃない。




 不安を感じでまずは住むところって感じで見つけたのが「糸より村」の無料住宅。5年間住んだら家がもらえる。こちらこそよろしくって感じ。




 単に家をもらえるからって行ったのに、村のPRとか重たいことを任されてしまった。事務所に所属したプロYouTuberじゃなくて、個人勢の私にはかなり重荷。




 ○●○




 そして、今。




 アクセス解析の表示を見たらヤバいことになってた!




 まずPVがめちゃくちゃ多い! 糸より村の紹介サイトと動画。こんな数見たことない。ユニークも多い! つまり、今回初めてアクセスされたってこと!




 何? どこからアクセスが流れ込んできたの!? 何かの動画がバズったとか!? いや、不適切発言があった!? どこ!?




 全てはリンク元を見たら分かった。どこから私のサイトにアクセスがあるかってこと。




 そして、それは「くまくまみゅー」さんのサイトからだった。つまり、私はコバンザメ。くまくまみゅーさんのおこぼれをもらってるってこと。




 でも、私は……私の器なんてこんなもの。私はできるだけくまくまみゅーさんが人気になるように立ち居振る舞いをするだけ。




 今日はお礼メッセしてお菓子持ってこ。






 □□□ 善福熊五郎




 なんか大変なことになった。娘達の発案で糸より村の道の駅「いとより」でのイベントをすることになったことなったらしい。いや、教えてよ。




 コンニャクはお姉ちゃん主体で作った。1日使ってできたのは100ほど。どれくらいの人が来るか分からない。




 この数は余るのか。全然足りないのか。俺も、娘達も未経験のことがらであることから情報が足りない。




 そこで俺はその辺のプロの人を探し、力になってもらえないかと相談したいと思っていた。いれば……だけど。




 野菜の直売所などを経営していて一から立ち上げ経験がある人。俺の方から相手に何かしらのメリットを出せる状態。できればお金以外。売上が上がったら、利益の何割……ってのはこっちは楽だけど、やってくれる方としては面倒でしかないだろう。




 この村の道の駅に参入したい人なんていない。だって客は来ないし、地域の特産品が置かれてないのだから。




 県内の福岡県内の道の駅の数は17件。繁盛しているところや話題になっているところはあったけど、なんか違う。全部見て回ったけど、俺がお願いしたい駅は見つからなかった。その道の駅のノウハウをそのまま糸より村の道の駅に導入でにないのだ。




 そこで俺は途中にあった野菜の直売所も候補に入れた。まあ、道の駅を回ってる最中に見つけたところに入っていっただけだけど。




 そこで店に入ったら、頭がパンパカパーンって鳴った! ここだ! ここを真似よう! ここの人に話を聞きたい! そんな直売所だった。




 そこは福岡市内からも離れている。周辺に何かあるかと言えば特にない。敷いて言えばJAの建物の近く。農家の人がJAに野菜を持込んで弾かれた野菜とかをその直売所に売りに来るのだとか。




 そんなことがメリットなのかと感じられないほどお客さんが来ていた。平日の昼間だってのにだだっ広い駐車場が車で埋まってる。あり得ない。普通の道の駅の数倍の広さがある駐車場にだ!




 中に入ったら、新鮮な野菜がたくさんあった。特産物……というかおこわとか炊き込みご飯とか、魚を焼いたやつとか本当に色々。




 野菜は次々とお客の籠に入れられていく。そして、空になった棚には野菜が次々補充されていた。




 道の駅といえば年配者が来るものってイメージだったけど、そこにはメイド喫茶が併設されていた。野菜直売所にメイド喫茶!?




 店名は「異世界の森」。異世界をコンセプトにしたメイド喫茶? コンセプトカフェ? そんな感じだ。




 俺は恥ずかしさを抑えてその店にも入ってみた。




「しゃっせー。ご主人様、お一人でのお帰りっすスかー?」




 バイト敬語! 目の前の無表情っぽいメイドさんがバイト敬語! 新しい! でも、これはこの野菜直売所の人気の秘密ではない。このメイドさんに話が聞けたら……。




 とりあえず、俺は席についた。




「ご主人様ー、こんなお店は初めてスかー?」




 ここは、どっかの場末のスナックか!?




「あ、はい……。勝手が分からないのでよろしくお願いします……」




 娘程の年齢のメイド娘に頭をペコペコ下げた。




「メイドの光ッスー。『光ちゃん』って呼んでくださいッスー」




 メイドの光ちゃんがペコリと頭を下げた。無表情なのはこの子の通常運転なのか!?




「これはご丁寧に。俺は善福熊五郎です。焼酎みたいな名前ですが本名です」


「ぷっ……。くっくっくっ。よろしくっスー。熊ちゃん」


「く、くまちゃん……」




 店内はいわゆるメイドカフェなんだけど。若くてかわいい子が多い。ここが東京ならそれも分かる。福岡市内でも俺は納得しただろう。でも、なんだここ。福岡市内からも離れてるし、野菜の直売所なのに若い子が集まってる!




 何人かメイドさんを見ていたら、背の低い金髪メイドさんもいた。何だあれ。え、エルフ!? 髪の毛は染めたのとは違うきれいな金髪。でも、しょ、小学生!? ここは来てはいけないところだったのでは!?




「あ、熊ちゃん。メニュー決まったっスかー?」




 若くてかわいい子が多くて、俺みたいなおっさんは居心地が悪いのだが、この光ちゃんがいてくれたらなんだか安心する。このバイト敬語も悪くないと感じ始めてしまった。




「こ、コーヒーを1つ」


「りょーかいっスーーー」




 光ちゃんは近くの別のメイドさんにオーダーを言うと、俺のテーブルの向かいの席に座った。




 んん? 少しニヤけてる? この子は中々掴みどころがない。




「熊ちゃんはこの直売所の秘密を探しに来たんしょー?」


「え!? な、なぜそれを!?」




 いきなり言い当てられて俺はどっと汗が吹き出した。いや、元々店に入ったときから変な汗はかいていたのが、タオルで拭かないと追いつかないくらい汗が出てた。




「ここは不思議なとこっスー。でも、オーナーとその右腕、左腕の人が流行るべくしてしかけたお店ッスー」


「そ、そうなんですか!?」




 俺の聞きたいことズバリを語り始めた。一介のメイドさんが。いや、メイドさんに「一介」があるのか!? いやいや、今はそんなことはどうでもいい。




「そ、その人を紹介してもらえないでしょうか!?」


「いっスよー」




 あっさりだな! ホントかよ!?




「でも、今はせんむーは出張してるし、東ヶ崎さんは月末でバタバタしてるし……さやかさんスかねー」




 よく分からないけど、3番手の人かな?




「その方が右腕か左腕の方です……か?」


「あ、さやかさんはここのオーナーさんっス」




 ボスだったー! どうなってんだこの子。話の調子が掴めない。本当に掴みどころがない。それなのに気になる。ホントに不思議な子だ。




「そ、その『さやかさん』を紹介してください!」


「いっスよー。今呼ぶッスねー。来るまでコーヒー飲んで待っててくださいッスー。」




 ちょうどその頃、注文したコーヒーが届いた。




「あ、ども……」




 反射的にコーヒーカップを手に取り一口飲んだ。




「うまっ……」




 コーヒー美味い。正直、メイド喫茶をバカにしていた。コーヒーなんてインスタントでも出せばいいって思ってたのだ。だって、メインはメイドの女の子なのだから。




 そして、コーヒーを飲み終わるころ、店にスーツをまとった一人の女性が現れた。かわいいときれいを併せ持つ反則みたいな美人。モデル? 女優さん? まだ若い。娘達より少し上か……? 20代は間違いない。俺は彼女が目の前に来ただけでコーヒーカップをガチャガチャとソーサーに置き騒がしてしまった。




 その女性はさっきのメイドさんに案内される、俺の席の近くまで歩いてきた。




「こんにちは、高鳥さやかと申します」




 俺はたったその一言に圧倒され、声が出なくなった。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?