道の駅の土地の賃料が10倍になるって話を村長さんに相談に行ってみた。そしたら、やっぱり村長さんのところにも霞取さんは来たらしく、同じ話をして行ったそうだ。村長さんは頭を抱えていた。
そして、各農家さんに貸している畑の賃料も値上げになる話はすぐに村内に轟いたらしい。俺が村長さんのところに相談に来たときには既に村の人達が村長さんと俺にクレームを入れに来た後だったらしい。
「俺のせいですいません……」
「いや、あんたのせいじゃないよ。少なくとも道の駅をあんなん盛り上げれる人はこの村には他におらん」
「そう言っていただけると……」
「しかし、土地は霞取さんのもんやから……」
かなり難しい問題になってしまった。とりあえず、俺は野菜を提供してくれている農家さんのところを回って、変わらず出してもらえるようお願い周りをした。
結果は予想通りほとんどの農家さんが怒っていて、野菜は道の駅に出さないと言い始めた。当然と言えば当然か……。
○●○
1日かけて村中を駆け回って帰ってきた俺は疲れ果てていた。1日怒られて、不満を言われて……。
「……ただいま」
医療機器の営業で怒られるのは慣れていたけど、やっぱり心の方に来るな……。
「お父さん、おかえりー」
家に帰るとお姉ちゃんの笑顔が眩しかった。
「今日は村長さんの奥さんが来てじゃがいもとニンジンをくれたから、肉じゃがにしたよ」
美味しそうな肉じゃがができていた。本来、高校生はこんなに料理が上手でなくていいんだけどなぁ……。
「糸コンニャクはお姉ちゃんのコンニャクだから」
「その『お姉ちゃんのコンニャク』ってのやめてよね!」
「だーって、お姉ちゃんが作ったんじゃんー」
お姉ちゃんと智絵里の「プロレス」も今日は心地いい。二人は俺が帰るとすぐに夕食が食べられるようにしてくれていた。
「道の駅の仕事……ダメになるかも……」
二人も頑張ってくれていたし、一応早めに話を入れておいた。
「そうなの? せっかくいい感じだったのにね。あの霞取って人?」
「まあ、そうなるね……」
お姉ちゃんも少し残念そう。
「お姉ちゃんのコンニャクはネット通販始めたよ」
「はぁ?」
「だから、『お姉ちゃんのコンニャク』って言わないで!」
ネット通販!? いくら娘でも、そんなことできるのか!?
「ちょっと待って。ネット通販って?」
「んー、これ」
智絵里がスマホで販売ページを表示させた。トップページにはコンニャクがでかでかと表示されており、作っているところの動画も埋め込まれている。コンニャクばぁのモモエさんと顔を隠したお姉ちゃんも載ってた。
「これどうなってんだ!?」
決済ページに行くと、銀行振込、各種クレジットカードが使えるようになってる。
「え!? これどういうこと!?」
いくら娘達でもクレカの会社との契約は無理だ。道の駅では現金の他にいくつかのコード決済はできるんだけど、それをサイトに適用するのは難しいだろうに。
「決済のこと? そういうプラットフォームを使っただけだけど……」
「待て待て。お父さんにも分かるように説明してくれ」
えーと、と二人の娘が考えながら説明してくれた。何この通訳をしてもらっているみたいな感じ。
「まずは、サイトは……ホームページは私が作った」
「え!? そんなことできるの!?」
智絵里はまだ中学生。そんなの学校で習うのか!?
「ワードプレス……うーんと、難しいのは既に作ってあるプログラムに、コンテンツ……内容だけ書くの。あと、画像とか入れて」
「ふんふん」
智絵里の言うことはなんとか分かる。
「決済ページもそういうのを専門にしてるサービスを使って支払いできるようにして、商品が売れたら手元にメールが来るように設定したの」
「なんと!」
いや、業者だろそれ。
「1日2回午前中と午後にメールチェックして、入金確認できたらお客さんに商品を送るの」
「通販じゃん!」
「通販だよ」
いや、そんなの個人でできるのかよ。
「見てみて。ここ。ポチッと押すと……」
智絵里がサイトの中のお姉ちゃんの画像をタップした。
『私のコンニャク買ってください』
お姉ちゃんの声が流れた。
「だから、それやめてって言ってるでしょ!」
「これでコンニャクが飛ぶように売れてるんだから。コンニャクばぁちゃんなんて毎日フル生産だって」
いや、やめてやれ。
「うー……すごい。すごいけど……コンニャクだけ売れても……」
「え? 野菜も出せるよ?」
智絵里が何でもないことのように言った。
「ちぃちゃん、そうじゃなくて……」
お姉ちゃんは分かったらしい。さすが買い物担当。
「お野菜は普通、スーパーとかで買うじゃない? キャベツが1個300円として、送料が600円としたら……」
「そんな高い野菜なんか買わないよ」
「でしょ?」
そうなのだ。普通の野菜は通販にしにくいのだ。
「あ、そうだ。あと、電話があったよ?」
「誰から?」
もう今日はお腹いっぱいなんだけど……。こんなときは神頼みしかない。視線を動かして我が家の不動明王様にお願いする。トラブルはあっても然るべきなので、せめてもう少しペースを落としてもらえるとか……。
「えっとね、カザマさん……だったかな。電話番号も聞いてる。携帯の」
うわー、また新しい名前だ。時間はまだ夜の7時ごろ。今日電話してみるか……。
「あと、なんかヤバそうな手紙が来てた」
今度は智絵里が茶色いA4サイズくらいの封筒を出した。
その封筒には「福岡家庭裁判所」と記載があった。これまた絶対面倒なやつ……。