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第40話:問題の見える化

 次々面倒ごとが舞い込む祭が始まってしまった。トラブルが起こるときは次々起こるのは、どこかのあるあるだろうか。


 人間2つも3つもトラブルが起きたときには対応できないもんだよ。


 医療機器の営業のときも次々トラブルが起きたことがあった。そんなときは、俺では頭の中で整理できないって自分で分かってる。


 だから、そんなときは俺は問題を箇条書きにしてた。


 ・元嫁からの再構築依頼に対する返事

 ・道の駅賃料10倍

 ・裁判所からの封筒

 ・カザマさんからの電話


 封筒は開けたらすぐ内容が分かるはず。そういった意味では、まずは封筒を開けないと……。


「後見人選任について」と書かれていた。「後見人」、「選任」……。短い言葉なのに全く分からないから。


 内容を見て俺は愕然とした。


 これまでに役所で何回か話が出たのは「後見人」ってやつ。母の痴呆が進んでいて自分のことが自分で判断つかなくなってきている。


 要するに、財産があったとしてボケて闇雲に使ったり、誰彼構わずお金をあげたりしないように誰かが判断を代行するような制度があるらしい。


 役所でも「後見人」を立てたらどうかと言われたこともあるだけど、2つの問題があった。


 1つはお金の問題。書類作成を行政書士に頼むと10万円前後かかるってこと。ボケ具合の判断が必要で医師に依頼する必要があり、これがまた10万円くらいかかること。


 付随した手間の問題もある。お金を惜しめば書類自体は自分で書ける。それでも、手続きをすると色々の書類を準備して提出までに半年くらいかかるらしい。


 もう1つは、役所などでの手続きができなくなること。今は区役所に行って母の保険証を俺が取ったり、銀行口座を作ったりした。これらの手続きができなくなる。……というのも後見人はほぼ家族はなれない。特定の誰かに有利になるからだ。普通は裁判所が選任した弁護士がなるらしい。


 これは似た話で、区役所や年金事務所では「DV登録」ってのがあった。これをすると母関係の書類について夫であっても俺の父親、清司でも変更の手続きができなくなる。


 その代わり、本人以外の全ての手続き代行ができなくなるので俺も手が出せなくなる。俺こそが正義だと主張する根拠がないのだ。


 普通なら本人が「息子に頼みました」と言ったり、書類で証明するんだろうけど、本人は痴呆が進んでる。俺が「母に頼まれた」と本当の事を言ったとしても、その頃には母は頼んだことすら覚えていない可能性があるのだ。


 まあ、そんなこんなで証明書関係と生活保護と年金関係が終わったら後見人の申請とDV登録をするつもりだった。


 そう、今回、成年後見人の申し立てをしたのは善福清司、俺の父親だ。後見人候補として上げてきたのは、俺のいとこ。


 昔、清司が面倒をみたことがあるとかで、事実上の清司の傀儡だ。書類の複雑さから手続きは以前俺に連絡してきたポンコツ弁護士が動いたのかもしれない。


 後見人については簡単には言ったけど、実際は本人の痴呆の具合によって、「後見」「補佐」「補助」の3パターンあるらしい。俺の母は一番痴呆が進んだ「後見」にあたるらしい。


 ……ややこしい。そして、今回来た手紙は、「清司が提案の俺のいとこに後見人になってもらいたいって申し出があったけど、文句はないか」という内容の裁判所からの手紙らしい。


 当然、「そんなことしたら母が生活できない。最悪殺される」って答えないといけないけど、その書類を書く必要がある。


 厄介ごとの一つとしてラインナップするだけに十分な厄介ごとだった。


 ・元嫁からの再構築依頼に対する返事

 ・道の駅賃料10倍

 ・裁判所への返事

 ・カザマさんからの電話


 こんなとこか。


 俺は変なテンションになってる。


 見知らぬ「カザマさんからの電話」もはっきりさせたくなっていた。状況を把握して問題の大きさを判断したい。


「はーーーっ」


 俺は食後のコーヒーを飲みながら、大きくため息をついた。ドラマとかマンガだと問題は一つ一つやってくる。ところが、現実的には悪いことは立て続けに起きるもんだ。頭が痛いし、気分が重い。


「お父さん、大丈夫?」


 お姉ちゃんが俺の顔をのぞき込んで心配してくれていた。


「ありがと……」


 俺はもう1つ残ってる、「電話」をすることにして、スマホを取り出した。


(テトテトテトテン)


 こういうのは構えたらダメだ。すぐに動くことが大事だ。


(ガチャ)『はい、狭間です』


 ハザマ? カザマじゃなくて? 俺の聞き違いか? それとも、お姉ちゃんの聞き違い?


「えっと……善福熊五郎といいます。焼酎みたいな名前ですが本名です。お電話頂いたみたいで折り返しです」

「あ、ご丁寧に。私どもの『朝市』にお訪ね頂いたそうで……」


 思い出した! 「朝市」行った! 野菜の直売所だ! あの美人秘書さんのところ。


 電話の相手は男性だけど、物腰柔らかそうだ。


「実は、うちの村の道の駅の売上げを上げたくて力と知恵をお借りしたくて……」


 ああ、俺はバカだ。電話でいきなりそんなことを言って「はい、そうですか。分かりました。助けます」なんて言う人がいるわけがない。


 しかも、こっちはお願いばかりで相手の旨味が全く無い話。つっけんどんな人ならガチャ切り案件だ。


『詳しくお話をうかがいたいんですけど、近々お時間取れませんか? そちらまで伺います』


 よく考えたら、既にそれどこじゃなくなってた。ただ、あの美人秘書さんにもう一度会いたい。


 めちゃくちゃ印象がよかった。最初、邪険にされたのかと思ったけど、それはあの社長さんの身体を気遣ってのことだった。


 色々ぶん投げて、俺は電話の男性と会う約束をしたのだった。



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