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第69話:糸より村、村民倍増計画 レベル2

 糸より村、村民倍増計画 レベル2だ。


『レベル2:村に来て体験する』


 レベル1は、動画など自宅や学校、会社でも糸より村のことを知ってもらうためのコンテンツ作りだった。。そして、レベル2は、糸より村に遊びに来る人をターゲットにしている。


 せっかくいいなと思って来てくれたのに、直売所しかなかったら、それはそれでがっかりする。また来ようとは思わないのだ。


 俺が考えたのは、村の中に「自転車のコースを作る」ってこと。


 田舎道なので、車は少ない。村の中を車でドライブしているだけで景色はかなりいいので、自転車ならもっと楽しめると思ったのだ。幸い道路はある。ちゃんと舗装された道路だ。


 そこで、例の道の駅に喫茶店を作ることにした。あと、レンタサイクルのポートも。レンタサイクルは、いわゆる「ママチャリ」と、本格的な「ロードバイク」、もう少し難易度の低い「クロスバイク」を準備している。


 ママチャリの説明は不要だと思うけど、ロードバイクはドロップハンドルって呼ばれる独特の形状のハンドルの自転車。ただ、無駄なものはどんどん外していくし、車体自体も軽い素材でできている。ママチャリとは別の乗り物だと言っていい。自転車ガチ勢のための乗り物だ。


 クロスバイクは、ロードバイクのハンドルが横一文字のハンドルに変わったもの……と言っておこう。実際はサドルの高さとか違うし、それに合わせてフレームも違うんだけど、それは専門的な考え。ここでは置いておく。


 初心者でも少し乗りやすくなったロードバイク……程度の認識で良いかと思う。


 駐車場は腐るほどあるので、車を止めて自転車を借りて、村にいくつか作ったコースを走るのだ。


 ここで、「ママチャリとロードバイクが同じ道を走ったら危ないんじゃないの!? これだから素人は!」って思った?


 別に制限しなくても、ママチャリは平地を走り、ロードバイクとクロスバイクの人達は糸より村の数少ない名所「白糸の滝」に向かうため舗装された山道を登っていくのだ。割と急で「激坂」と言っていい。それがロード乗りにはたまらないのだとか。


 白糸の滝のすぐ近くにも喫茶店を設置。ついでに、そうめん流しとヤマメ釣りの場所を作った。週末だけの営業だけど割と繁盛している。


 水がきれいなので、本当は手打ちそばを出す店も作りたいところだけど、職人がいない。村に移住してきた人の中にそばうちに興味がある人がいれば、将来的には実現できるかもしれない。


 そうめん流しとヤマメ釣りはインスタに写真がアップされているのでSNSでの拡散にも一役買っている。山からの景色や滝の画像も多いので写真を撮るためだけに来る人もいるようだ。


 一般の人用に道の駅内に作った喫茶店も繁盛している。喫茶店、自転車レンタル、野菜の直売所の3つの業務をやっているので、週末は1人では運営できず、3人体制、5人体制と雇用が増えている。



 こうして遊びに来る人がいると、欲しくなるのが宿泊施設だ。


 村には民宿、ホテルなどが一切なかった。


 人が来ない過疎の村にそんなものがあるはずがなかったのだ。


 しかし、村長さんと霞取さんには貸すための家がたくさんあった。老朽化した古い家が。中にはもう、家かどうか微妙なところまで朽ちたものだってあった。


 それを俺と、せしるんでリフォームして回っているのだ。もちろん、動画のネタとして。


 動画を撮りながら、リフォームするので動画を見た人が、そこに泊まりたいと言って来るのだ。大きな規模になってきたら、旅館とかホテルみたいに経営したらいいんだろうけど、まだ建物を貸すだけの「民泊」だ。


 おかげさまでシステムは既にあるので、村としてはそれに乗っかってるだけ。


 お客さんはネットで予約できるし、鍵も家の前でキーボックスから取り出す。村としては人手がかからない。


 実は、ここは人手不足だった。泊まりたいという人は一定数いてくれるのだけど、泊まる宿は数軒しかない。俺とせしるんでリフォームを進めたいのだけど、比較的きれいな家でもリフォームするとなると2~3か月はかかる。普通ので半年くらいだろうか。


 そこで俺が苦肉の策で考えたのは「タダで泊まれる代わりに、リフォームを手伝ってくれる人」を募集したのだ。手伝うのは1日だけでもOK。1週間でもOK。週末だけでも平日だけでもOKなのだ。


 そしたら、せしるんに会いたい人と、リフォームが好きな人と、全国を旅してまわっている人が応募してきてくれた。中には内装をやっていたけど、都会の生活に疲れてしまって現在失業中の人もいた。


 村の家のリフォームは仕事ではないので、その人は失業保険をもらいつつ村で生活してくれることになった。本職がいるのは心強かった。


「サイクリングコース」


「糸より村の民泊」


「リフォーム作業付き無料宿泊所」


 この3つを準備したのだけど、予定外に「5年間以上必ず住むので家が欲しい!」と小さな子供さんがいる夫婦が糸より村に引っ越してきたいと申し出があった。


 村長さんとしては、元々そういった募集をしていたけど1年を待たずして帰っていってしまう人が後を絶たなかったので、タダで応募があったのはチャンスと家を貸すことになった。


 その人は、旦那さんが自分でリフォームするらしい。


「DIY初心者のために、俺と二人の姉妹がコンサルとしてどんなふうにリフォームしたらかっこいいかを一緒に考えるサービス」も発案した。


 最後に、週末だけ糸より村で過ごす「別荘」というプランも作った。……というのも、一度は挫折して都会に帰っていった、60代の桑木野(くわきの)夫妻がまた戻ってきたのだ。糸より村の噂をネットやテレビで見たらしかった。


 そして、いよいよレベル3に進む。


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