レベル1、村のことを知ってもらう。レベル2、村に来てもらう……ここまでは順調だった。
月に1回程度は直売所のイベントをしているのが人気の秘密だろう。狭間さんの「朝市」は毎週大きなイベントをやっているらしいし、平日は平日で小さなイベントをしていて毎日楽しいらしいので、糸より村はまだまだ伸びしろがあると思われる。
そして、レベル3!
『レベル3:村に泊まって体験する』
レベル2の段階で、必要にかられて前倒しになったのだけれど、家に泊まってもらうことを考えた。
村には住めない家がたくさんある。現在は村民が2000人強と言ったところだけど、昔はもっとたくさん住んでいたらしい。
だから、家だけはある。問題はその多くが老朽化していて、そのままでは住めないこと。ここは自分でリフォームするのと、村に住みたい人の助けをもらうことで何とかカバーしている。ここは時間経過と共に充実していくだろう。逆に言うと、早くするのは難しい。
一応、業者さんにも見積もりを取っているので、あまり進捗が良くない時は業者さんが入ることも視野に入っている。
それよりも、もっと直接的に村に来てもらって泊まってもらう方法もあった。
それは、キャンピングカー。
土地は余っていた。例の空き地も駐車場に整備されつつある。そこに、水と電気を整備すればキャンピングカーを受け入れられることが分かった。
キャンピングカーのお客さんに聞いたところ、意外と駐車する場所がないらしいのだ。高速道路のサービスエリアとかに停めているとクレームが来ることがあるのだとか。安心して停められていない、と。
そして、何も無い山の中とか、そこらの公園とか停めればいいじゃないか、と思ったら水が無い。電気が無い。トイレが無い、と快適ではないらしい。
そこで、俺は無料のWi-fiも整備したら完璧……と思ったら、全国をキャンピングカーとか改造もしていない自動車で移動している人は独自にwi-fiを持っていることが判明。それよりも、水、電気、そして、トイレが必要らしかった。
俺はトイレに加え、シャワー設備も準備した。そしたら、SNSと口コミで徐々に人が集まってきている。
その成功に気を良くした俺は、近くにキャンプ場とバーベキュー場を作った。あまり整備されていない、自然を生かしたキャンプ場なのだけど、それがウケた。
バイク、自転車、自動車、キャンピングカーが集まる場所になったのだ。
〇●〇
「お父さん、バーベキュー動画を撮りたいんですけど」
ある日、せしるんからの依頼だった。俺が家のリビングで村のホームページをタカタカとキーボードを叩いて作っていたときに話しかけてきた。なんか、いつのまにか普通にせしるんがうちにいるぞ!?
お腹がすいたのか、はたまた動画のネタにしたいのか。
「YouTuberの女の子3人がバーベキューしてたら、そこに行くと思わない?」
お姉ちゃんも参戦してきた。先にそんな話になっていたのかな。
「肉」
智恵理、いつの間にか単語しかしゃべらないんだけど……。これが世の噂に聞く反抗期か!?
「じゃあ、今度の週末にバーベキューするか。肉と野菜のほかに、海産物も調達してみるよ」
三人がサムズアップしたグータッチしてた。仲良しだな、おい。
○●○
早速週末。俺達は直売所裏の駐車場に来た。俺達だけでは何なので、村長さんの家族、霞取さんにも声をかけた。
村長さんの家族7人、霞取さん、うち4人で大所帯のバーベキューになってしまった。それなりの量が必要だった。
野菜は直売所から仕入れてきた。肉は「朝市」に行ったときについでに買ってきた。なんでも、専門の肉屋さんが入っているのだとか。
魚屋さんも入ってた。まだまだ「朝市」にはまたまだ全然追いつけない。あそこはやっぱり単なる直売所じゃなくて、食のテーマパークみたいなとこだな。
その「朝市」から「バーベキュー用肉セット」を買ってきた。カルビ、ロース、ホルモン、タンなど定番の部位が全部入っている欲張りセットだ。
「あ! お肉がこんなに! ありがとうお父さん!」
自然な感じでお礼を言ってくれて、逆に俺を喜ばせてくれるのはお姉ちゃんだ。誰に似たんだか。
「これは……三角カルビ。希少部位。お父さん、グッジョブ!」
智恵理は言ってることがいつも職人みたいなんだよ。妙なとこに詳しいし。誰に似たんだか。
「お父さん、野菜用にレモンダレも準備しましょうか?」
今度はせしるんか。確かに人によってはレモンダレがほしい人もいるだろう。
「よろしく頼むよ」
「はいっ!」
せしるん意外に……って言ったら失礼になるけど、かなり気が利くな。気遣い屋なんだろうな。気疲れしてしまわなければいいけど。
こっちが頼みごとをしたのに嬉しそうに返事して……。全く、誰に似たん……。違う! せしるんはうちの娘じゃなーーーい! さっきもナチュラルにうちのメンバーにカウントしてた!
いかんいかん。あまりに自然に溶け込んでいたから、娘の一人と思うところだった。俺は急いで意識を戻した。
「朝市」で買ってきた肉はタレで下味が付いているのも嬉しい。あ、タンは塩で。
焼肉といえば、タレが大変で市販の焼肉のタレはやっぱりどこかお店とは違う。ところが、このセットには「お肉屋さんが本気で作ったタレ」が付いている。
この名前からだけでも良いもんだと思えるので、狭間さんが言ってた「価値を作り出す方法」として「名前をつける」ってのは有効だった。
ついでに、糸より村の港から海産物も仕入れてきた。ウニ、アワビ、イカ、エビなんかがある。これも名前を付ければ価値が上がりそうだ。
……ブランド化!
テレビとかで言ってるのはこういうことか! 俺に「ブランド化しましょう」なんて言われてたら、全然理解できなくて直売所の話は実現しなかっただろう。
狭間さん……いや、この場合は美人オーナーさんの方か? やっぱりやり手だな。
「じゃあ、焼いちゃうねー!」
こんなときに率先してホスト役を買って出るのはお姉ちゃん。
鍋なら「鍋奉行」だろうけど、バーベキューの場合は「バーベキュー奉行」だろうか?
もくもくと煙が上がる。それでも外だし、田舎で広いし、誰からもクレームなんて来ない! いいな、糸より村。
「善福さん、じゃあ乾杯の音頭を頼む」
村長さんから缶ビールを手渡された。