屋上。
真夏だが、風が心地よい。
飛び降り抑止のためか、フェンスが巻かれている。
こっそり持ち込んだサボテンさんと、折り畳み式のパイプ椅子がある以外、打ちっぱなしのコンクリートが丸見えの、殺風景な場所。
だが、自分には、ここがオアシスだった。唯一の避難所。
何もいない、、、。ん?
猫?どうやって入ってきた?
鮮やかな、シルバーホワイトの、毛づやのいい猫が、毛繕いして、待っていた。
近づくと。慣れた猫なのか、逃げない。
そのまま抱き抱え、あやすように遊ぼうと。
すると、威厳ある声が響いてきた。
「おい、、、。」
「えっ?」
「お前、、、。」
「猫がしゃべった?」
「我の名は、ポチと言う。」
「ポチ?あっ、お前が?」
「そうだ、よく来たな」
何がどうなっている?幻覚幻聴妄想の類いか?
ついにお迎えか?ついに終わりか?
猫?は悟ったように告げた。
「ふむ。まあいい。お前のような者を探していた。この世に未練はあるか?」
お互いに値踏みするようなにらみを利かせ。
「そうか。あるんだったな。
やり残したことだらけだもんな。
我と契約書を交わそう。
悪い話ではない」
1枚の紙とペンを差しだし、サインするよう促してきた。
悩む余地などなかった。
うんざりだった。
ペンを走らせた。
「これで契約書は成立した」
そう言って、猫?は勢いで屋上から飛び降りると、跡形もなく消え失せた。