その日からだった。
本を読めば読むほど、頭の中に、するする入ってきた。
ダイエット講座?糖質制限ダイエット?なるほど、こうやるのか。
おからがいいのか。これをパスタで和えて。
iPad?字も読めるし、意味がわかるぞ。
iPadは、給料前借りして、買った。
なぜか輝いて見える。
そんな調子で、みるみる痩せ細り、仕事もバリバリ覚えた。
まずは相手を見て、聞く姿勢を見せて。肯定的な提案を繰り返す。
そうか、わかってきたぞ。
なんか楽しくなってしまった。
ああ。
生きてるなあ。
ひざも楽になったなあ。
そしてまた、本を読むことができる。
すばらしい!
しかし、くるべき事態は起きた。
初めての恋愛、そして失恋。
それなりに、モテたが、
いかんせん足腰が弱かった。
若いやつらに勝てるわけなかった。
こんな初老の男は、はじめから眼中になかったのだ。
くそぅ、こんな契約書のせいで、
下らない毎日を、楽しんでしまったじゃないか。
「やってられねえ、」
ビリビリビリビリ!
契約書を破ったら、文字が光った。
音がぐわんぐわんする。
そして光の渦に飲まれ、意識を失ないかけてゆく。
ああ。
やっとだ。やっと人生が終わるんだ。
やったー!
こんなふざけた人生にはおさらばして。
とっとと巻く引きできる。
そして、すべて闇に包まれた。