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第10話 雪女、現代に降り立つ3

1. 直也の困惑する日常


お雪が居候を始めてから数日が経った。

彼女の行動に最初は戸惑っていた直也も、少しずつそのペースに慣れてきた……つもりだったが、やはり予測不能な彼女の行動には毎日振り回されっぱなしだ。


この日も、朝からお雪は家の中を探検していた。直也がキッチンでコーヒーを淹れていると、背後から彼女の声が響く。


「直也よ、この箱は何じゃ?」


振り向くと、そこには冷蔵庫の扉を開け閉めしながら首を傾げるお雪の姿があった。


「それ、冷蔵庫。食べ物を冷やして保存するんだよ。だから開けっ放しにするな!」


「ふむ、これは魔力で冷たさを保っておるのか?」


「だから、魔力じゃなくて電気だってば!もう何回説明させるんだよ……」


冷蔵庫の前を離れたと思えば、今度は電子レンジに目をつけたお雪。


「ほう、これは何をするものじゃ?」


「電子レンジ。食べ物を温めるんだよ。でも、勝手に触るなよ!爆発するかもしれないから!」


「爆発……?ふむ、それなら試してみる価値があるな!」


「絶対やめろ!」



---


2. 現代文化への興味と適応


家の中で新しいものを見つけては直也に質問を浴びせるお雪だったが、その興味は現代のサブカルチャーにも広がっていた。


テレビの虜になるお雪

ある日の夜、直也がソファでテレビを見ていると、お雪が隣に座り、リモコンを奪うように手に取った。


「直也よ、この箱の中に映る者たちは、どのようにしてここに来るのじゃ?」


「だから、テレビの画面に映ってるだけだって。実際にいるわけじゃないから。」


「ふむ……では、この“アニメ”とやらは実際にそなたの世界には存在せぬのか?」


「存在しないけど……まあ、ファンタジーってやつだな。」


お雪は目を輝かせながら画面に釘付けになり、放送されている魔法少女アニメを夢中で見始めた。


「これが魔法少女というやつか!妾もこのように変身できぬものか?」


「無理に決まってるだろ!お前は雪女なんだから!」


「むぅ……雪女ではダメなのか。残念じゃ……」



---


3. 事件:お風呂での騒動


その夜、お風呂が空いたことを知らせるアラーム音が鳴り、直也はリビングの隅でアニメ雑誌を眺めているお雪に声をかけた。


「お雪、風呂が空いたから入れよ。外にいたし、冷えてるだろ。」


「ふむ、風呂とな?妾はあまり好きではないが、部屋の主たる直也が言うならば従うぞよ。」


そう言いながら、彼女は浴室へと向かっていった。


直也はホッと一息つき、ソファに戻る。しかし、何気なく思い出してしまったのは、昔話で聞いた「雪女はお湯で溶ける」という話だった。


「……いや、まさかな。」


一度は否定してみたものの、心配が頭から離れない。お雪の声が聞こえないことに焦りを感じた直也は、意を決して浴室の扉を勢いよく開けた。


「お雪!」


そこには湯船に浸かり、のんびりと肩まで浸かるお雪の姿があった。彼女はリラックスした表情で直也を見つめる。


「これはまた、大胆なのぞきじゃな。」


「いや、違う!お前が溶けて消えるんじゃないかって心配で……!」


お雪は首を傾げながら答える。


「妾が溶ける?何を馬鹿なことを言うのじゃ。妾は雪女であって、雪そのものではないぞ。」


「だって、昔話でそんな話を聞いたことがあるんだよ!」


「むぅ……それならば、そのような愚かな話を信じたそなたの方が恥ずべきではないか?」


直也が真っ赤な顔で言い返そうとしたその時、お雪がふと呟く。


「たしかに、妾には似合わぬ台詞じゃな……それならば、直也よ、一緒に入るか?」


「はああああ!?」


直也は完全に混乱し、その場から逃げるように浴室の扉を閉めた。リビングに戻った彼はソファに倒れ込み、大きくため息をつく。


「……本当に、あいつには振り回されっぱなしだ……」


その頃、浴室の中ではお雪が湯船に浸かりながら、満足そうに笑みを浮かべていた。


「湯船というものも悪くないのう。次は直也も誘ってやるか……ふふ。」



---


4. 日常に馴染むお雪


翌朝、リビングでテレビの前に正座するお雪の姿を見て、直也は苦笑いする。


「お前、もうすっかりこの家に馴染んでるよな。」


「当たり前じゃ。妾は居候として日々を楽しんでおるのじゃ。」


「いや、楽しむのはいいけど、俺の生活ペースが崩れるんだよな……」


直也はコーヒーを飲みながら、これからも続くであろう騒々しい日常に思いを馳せた。



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