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第11話 雪女、現代に降り立つ4

1. 秋祭りへの誘い


秋の夜風が肌寒く感じられる日、直也は近所で秋祭りが開催されることを知った。

夕方のニュースで祭りの様子が紹介され、出店の映像や花火の予告が流れているのを見て、ふと思い立つ。


「そうだ、お雪を連れて行ったらどうなるんだろう……」


直也はソファでくつろぐお雪に声をかけた。


「お雪、今夜暇だろ?近くで祭りがあるんだけど、行ってみるか?」


お雪は雑誌を閉じ、興味津々な目で直也を見た。


「祭りとは何じゃ?」


「簡単に言えば、出店がいっぱい並んでて、食べ物やゲームが楽しめるイベントだよ。あと最後には花火も上がるんだ。」


「ほう!人間界にはそんな行事があるのか。妾も行ってみたいのう!」


お雪が目を輝かせながら即答するのを見て、直也は微笑む。彼女を連れて行けば何かしら騒動が起こりそうな予感がしたが、興味を持つ姿を見ると断る理由もなかった。



---


2. 屋台巡り


日が沈む頃、直也とお雪は祭り会場に到着した。色とりどりの提灯が並ぶ中、人々の笑い声や呼び込みの声が響いている。お雪は初めて見る光景に目を輝かせていた。


「直也よ、これはなんとにぎやかな場所じゃ!」


「まあ、祭りだからな。ほら、いろんな屋台があるぞ。」


まずお雪が興味を示したのは、りんご飴の屋台だった。赤く輝くりんご飴を見つめながら、じっと動かない。


「これは……宝石か?それとも魔法で固めた果実か?」


「りんご飴だよ。りんごを飴でコーティングしたお菓子だ。」


「ほう!妾に一つ買ってくれるか?」


「いいけど、もっといろいろ回りたいから早めに食べろよ。」


直也がりんご飴を渡すと、お雪はそれを大事そうに抱えながら嬉しそうに頷いた。


次に彼女が立ち止まったのは、綿菓子の屋台。ふわふわとした綿菓子を見つめながら、一言。


「これは……雲を捕まえたものか?」


「いや、それは砂糖を固めたお菓子だよ。」


「砂糖がこんな形になるのか!妾も食べてみたい!」


綿菓子を手にしたお雪は、一口食べると顔をほころばせた。


「これは……妾がこれまで食べた中で最も不思議な食べ物じゃ!」


「お前、ほんと何でも楽しむな……」


その後も、お雪はたこ焼きやお好み焼き、チョコバナナなど、次々と屋台の食べ物に手を伸ばし、直也にせがんで買わせた。


「これも欲しい!あれも食べたい!」


両手が食べ物でいっぱいになったお雪を見て、直也は苦笑いする。


「ちょっと落ち着けよ。俺の財布が空っぽになるぞ。」


「むぅ、ならば妾が次の支払いをしよう!」


「お前、持ってるのか?」


「ない。」


「ないんかい!」



---


3. ゲーム屋台での騒動


食べ物を堪能した後、射的や金魚すくいのゲーム屋台を見つけたお雪は、再び興奮気味に直也を引っ張った。


「これは何をするものじゃ?」


「射的はこの銃で的を狙って倒すゲームだよ。金魚すくいはポイっていう道具で金魚をすくうんだ。」


「ほう……妾も挑戦してみるぞ!」


お雪が最初に挑んだのは射的だった。真剣な表情で銃を構え、的に向かって引き金を引く。


しかし――。


「当たらぬのう!」


「お前、力入れすぎだって。もっとリラックスしろよ。」


直也がアドバイスするものの、結果は散々だった。


「むぅ、妾は弓なら得意なのに、この道具は扱いが難しいのう……」


次に挑戦した金魚すくいでは、あっという間にポイを破ってしまい、悔しそうな顔をする。


「妾にはこの遊びも難しい……妾が水を操れれば、もっと楽に捕まえられるのじゃが……」


「そんなのズルだろ!」


直也がツッコミを入れると、お雪は頬を膨らませて反論する。


「そなた、人間界の遊びは妾には向いておらぬと言いたいのか?」


「いや、楽しめばそれでいいんだよ。」


「ふむ……ならばもう一度挑戦するぞ!」



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4. 秋の夜空に打ち上がる花火


祭りも終盤に差し掛かり、夜空には花火が打ち上がるというアナウンスが流れた。二人は少し離れた丘の上に向かい、花火がよく見える場所を探した。


「花火って何じゃ?」


「簡単に言えば、火薬で作った光のショーだよ。見れば分かる。」


お雪が首をかしげながら夜空を見上げていると、大きな音と共に最初の花火が打ち上がった。


「おお……!」


暗闇に咲く色とりどりの光に、お雪は目を輝かせている。


「これは……何という美しさじゃ!人間界にはこんなに素晴らしいものがあるとは!」


「気に入ったか?」


「うむ!妾の魔力でもこんな光を作ることはできぬ。この文化、素晴らしいのう!」


お雪の横顔を見ながら、直也はふと心が和らぐのを感じた。


「お前、ほんと楽しそうだな。」


「当然じゃ。そなたも楽しめておるか?」


「まあ……悪くないかな。」


二人はしばらく無言で花火を眺め続けた。その時間は、どこか心地よく感じられた。



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5. 帰り道


祭りが終わり、帰り道を歩く二人。手にはたくさんの屋台の戦利品が抱えられている。


「今日は楽しかったのう。直也、感謝するぞ!」


「お前が楽しんでくれたならいいけど……財布がだいぶ軽くなったよ。」


「むぅ、それは妾にケチをつけておるのか?」


「いや、そんなつもりじゃないけど……」


お雪は満足そうに笑みを浮かべると、直也をじっと見つめた。


「妾は、この祭りというものを気に入ったぞ。また来年もそなたと行きたいのう。」


「勝手に決めるなよ……でもまあ、また一緒に行けたらいいな。」


「ふふ、そうじゃな。」


二人は秋の冷たい風に吹かれながら、穏やかな夜を楽しむのだった。





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