1. 秋祭りへの誘い
秋の夜風が肌寒く感じられる日、直也は近所で秋祭りが開催されることを知った。
夕方のニュースで祭りの様子が紹介され、出店の映像や花火の予告が流れているのを見て、ふと思い立つ。
「そうだ、お雪を連れて行ったらどうなるんだろう……」
直也はソファでくつろぐお雪に声をかけた。
「お雪、今夜暇だろ?近くで祭りがあるんだけど、行ってみるか?」
お雪は雑誌を閉じ、興味津々な目で直也を見た。
「祭りとは何じゃ?」
「簡単に言えば、出店がいっぱい並んでて、食べ物やゲームが楽しめるイベントだよ。あと最後には花火も上がるんだ。」
「ほう!人間界にはそんな行事があるのか。妾も行ってみたいのう!」
お雪が目を輝かせながら即答するのを見て、直也は微笑む。彼女を連れて行けば何かしら騒動が起こりそうな予感がしたが、興味を持つ姿を見ると断る理由もなかった。
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2. 屋台巡り
日が沈む頃、直也とお雪は祭り会場に到着した。色とりどりの提灯が並ぶ中、人々の笑い声や呼び込みの声が響いている。お雪は初めて見る光景に目を輝かせていた。
「直也よ、これはなんとにぎやかな場所じゃ!」
「まあ、祭りだからな。ほら、いろんな屋台があるぞ。」
まずお雪が興味を示したのは、りんご飴の屋台だった。赤く輝くりんご飴を見つめながら、じっと動かない。
「これは……宝石か?それとも魔法で固めた果実か?」
「りんご飴だよ。りんごを飴でコーティングしたお菓子だ。」
「ほう!妾に一つ買ってくれるか?」
「いいけど、もっといろいろ回りたいから早めに食べろよ。」
直也がりんご飴を渡すと、お雪はそれを大事そうに抱えながら嬉しそうに頷いた。
次に彼女が立ち止まったのは、綿菓子の屋台。ふわふわとした綿菓子を見つめながら、一言。
「これは……雲を捕まえたものか?」
「いや、それは砂糖を固めたお菓子だよ。」
「砂糖がこんな形になるのか!妾も食べてみたい!」
綿菓子を手にしたお雪は、一口食べると顔をほころばせた。
「これは……妾がこれまで食べた中で最も不思議な食べ物じゃ!」
「お前、ほんと何でも楽しむな……」
その後も、お雪はたこ焼きやお好み焼き、チョコバナナなど、次々と屋台の食べ物に手を伸ばし、直也にせがんで買わせた。
「これも欲しい!あれも食べたい!」
両手が食べ物でいっぱいになったお雪を見て、直也は苦笑いする。
「ちょっと落ち着けよ。俺の財布が空っぽになるぞ。」
「むぅ、ならば妾が次の支払いをしよう!」
「お前、持ってるのか?」
「ない。」
「ないんかい!」
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3. ゲーム屋台での騒動
食べ物を堪能した後、射的や金魚すくいのゲーム屋台を見つけたお雪は、再び興奮気味に直也を引っ張った。
「これは何をするものじゃ?」
「射的はこの銃で的を狙って倒すゲームだよ。金魚すくいはポイっていう道具で金魚をすくうんだ。」
「ほう……妾も挑戦してみるぞ!」
お雪が最初に挑んだのは射的だった。真剣な表情で銃を構え、的に向かって引き金を引く。
しかし――。
「当たらぬのう!」
「お前、力入れすぎだって。もっとリラックスしろよ。」
直也がアドバイスするものの、結果は散々だった。
「むぅ、妾は弓なら得意なのに、この道具は扱いが難しいのう……」
次に挑戦した金魚すくいでは、あっという間にポイを破ってしまい、悔しそうな顔をする。
「妾にはこの遊びも難しい……妾が水を操れれば、もっと楽に捕まえられるのじゃが……」
「そんなのズルだろ!」
直也がツッコミを入れると、お雪は頬を膨らませて反論する。
「そなた、人間界の遊びは妾には向いておらぬと言いたいのか?」
「いや、楽しめばそれでいいんだよ。」
「ふむ……ならばもう一度挑戦するぞ!」
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4. 秋の夜空に打ち上がる花火
祭りも終盤に差し掛かり、夜空には花火が打ち上がるというアナウンスが流れた。二人は少し離れた丘の上に向かい、花火がよく見える場所を探した。
「花火って何じゃ?」
「簡単に言えば、火薬で作った光のショーだよ。見れば分かる。」
お雪が首をかしげながら夜空を見上げていると、大きな音と共に最初の花火が打ち上がった。
「おお……!」
暗闇に咲く色とりどりの光に、お雪は目を輝かせている。
「これは……何という美しさじゃ!人間界にはこんなに素晴らしいものがあるとは!」
「気に入ったか?」
「うむ!妾の魔力でもこんな光を作ることはできぬ。この文化、素晴らしいのう!」
お雪の横顔を見ながら、直也はふと心が和らぐのを感じた。
「お前、ほんと楽しそうだな。」
「当然じゃ。そなたも楽しめておるか?」
「まあ……悪くないかな。」
二人はしばらく無言で花火を眺め続けた。その時間は、どこか心地よく感じられた。
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5. 帰り道
祭りが終わり、帰り道を歩く二人。手にはたくさんの屋台の戦利品が抱えられている。
「今日は楽しかったのう。直也、感謝するぞ!」
「お前が楽しんでくれたならいいけど……財布がだいぶ軽くなったよ。」
「むぅ、それは妾にケチをつけておるのか?」
「いや、そんなつもりじゃないけど……」
お雪は満足そうに笑みを浮かべると、直也をじっと見つめた。
「妾は、この祭りというものを気に入ったぞ。また来年もそなたと行きたいのう。」
「勝手に決めるなよ……でもまあ、また一緒に行けたらいいな。」
「ふふ、そうじゃな。」
二人は秋の冷たい風に吹かれながら、穏やかな夜を楽しむのだった。