祭りの終盤に差し掛かり、広場はますます賑やかになっていた。出店の灯りが揺れ、提灯の明かりが暖かな雰囲気を作り出す中、人々の笑い声や興奮の声が響いていた。
「もうすぐ花火が上がるみたいだな。」
直也はお雪に声をかけた。彼女は祭りの中でも食べ物を楽しみ、ゲームを楽しみ、すっかり楽しんでいるようだが、どうやら一番楽しみにしているのは花火のようだった。
「花火、花火、花火……」
お雪は目を輝かせながら呟く。その表情は子どものように無邪気で、まるで初めて花火を見たかのようだ。直也はそんなお雪を見て、少し微笑んだ。
「どうだ、楽しみにしてるか?」
「もちろんじゃ。人間界には、こんなに美しいものがあったのか……妾は、ただ冷たい雪だけを見て生きてきたが、今はそのすべてを知りたくなった。」
お雪の言葉に直也は、少し胸が熱くなるのを感じた。彼女の感動を、間近で感じることができるなんて思ってもみなかった。
「そうか。じゃあ、ちゃんと見逃さないようにしような。」
「うむ、妾は絶対に見逃さぬぞ!」
直也はお雪の隣で笑い、二人は少し早めに花火を見るために、会場の片隅に向かって歩き出した。人々の喧騒から少し離れた場所には、花火をよく見ることができる小さな丘があり、そこを目指して歩くことにした。
丘の上に着くと、少し冷たい秋の風が吹き抜け、夜空はすでに暗く広がっている。周りには他の観客もいるが、ここは比較的空いており、花火をしっかりと見ることができる場所だ。
直也とお雪は隣同士で座り、しばらく無言で花火の開始を待った。お雪はじっと空を見上げ、目を輝かせながら期待に胸を膨らませている。直也もそんな彼女の様子を見て、自然と顔がほころんだ。
「お雪、花火、楽しみにしてるな。」
「楽しみすぎて、胸がドキドキしておるぞ!」
お雪は手を胸にあてて、興奮気味に言った。その仕草に、直也はまた少し照れ臭くなった。
「まあ、花火は確かにきれいだからな。」
「妾にとって、この世界に初めて出会ったことが、すべて新しい経験なのじゃ。花火だって、ただの光の塊ではなく、生命を感じるような美しさがある。」
お雪は何かに触れるように空を見つめ、その言葉に深い意味を込めているようだった。直也はその真剣な顔に、少し驚きながらも、心のどこかで温かい感情が湧き上がるのを感じた。
「お前、そういう風に考えるんだな……」
「ふむ、人間界にいるからには、学ぶべきことがたくさんあるのだろう。そなたの世界を知るために、妾はここにいる。」
その言葉に直也は少し胸が締め付けられるような気がした。普段は冗談を言って楽しんでいるお雪が、こんな真剣な顔をして話すことがあるなんて思ってもみなかったからだ。
その時、突然空が裂けるように大きな音が響き、最初の花火が打ち上がった。夜空に花が咲いたように、鮮やかな光が広がり、辺り一面を照らし出した。
「おお……!」
お雪は思わず声を上げ、その美しさに目を輝かせていた。直也もその光景に息を呑む。花火がどんどんと次々に打ち上がり、空に大輪の花が咲くように広がっていく。
「すごい……こんなに美しい光景を見たことがない。」
お雪は感嘆の声を上げながら、その美しさを全身で感じ取っている様子だった。直也はその隣で、彼女の嬉しそうな顔を見ながら、心の中で微笑んだ。
「本当にすごいよな……毎年見ても、やっぱり感動するもんだな。」
「この美しさは、何年経っても色あせることがないのじゃな。」
お雪の目には、どこか遠くを見つめるような深い感情が浮かんでいる。直也はその顔に、少しだけ戸惑いを感じながらも、自然と手を伸ばした。
そして、ふとお雪の手に触れると、彼女は驚いたように目を見開き、次の瞬間、顔を赤くして少しだけ下を向いた。
「……すまん。」
「いや、気にするな。」
直也は素早く手を引っ込めたが、お雪が少しだけ照れたように笑うと、なんだか不思議な空気が二人の間に漂った。
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花火が終わり、静けさが訪れた。その後、打ち上げられた花火が空に広がり、次々と鮮やかな光が咲いては消えていった。
「とても美しかったのう。」
お雪が静かに言うと、直也は深く頷いた。
「うん、ほんとに。」
「こんな美しいものを見たのは、久しぶりだ。妾は、ずっと雪と静けさの中で生きてきた。だから、この光がまるで温かい手のひらに包まれているように感じるのじゃ。」
「お前がそう思うなら、それが一番いいな。」
直也はお雪の言葉に少し驚きながらも、どこか胸が温かくなるのを感じた。そして、少し考えてから、彼女に言った。
「……俺も、花火っていうのは毎年見ても、飽きることはないんだ。そう思うと、人生って案外捨てたもんじゃないなって思う。」
お雪は一瞬黙り込んだが、その後、穏やかな声で答える。
「そなたと一緒にいられることが、私には最高の光景となりそうじゃな。」
直也はその言葉に胸が温かくなり、ふと目を逸らす。お雪の素直な言葉に、心が少しだけ揺れるような気がした。