1. サブカルとの出会い
お雪が現代文化に魅了されるきっかけは、ある日のテレビから始まった。
その日、直也がリビングで何気なくCS放送のアニメ専門チャンネルをつけていた時のこと。お雪はその画面に釘付けになった。
「……直也よ、この“アニメ”というものは何じゃ?」
「アニメって言うのは、漫画を動かしたもの……まあ、そういうものだよ。」
「ほう、漫画というのもわからぬが、これが“動く絵”というやつか!なんと素晴らしい技術じゃ!」
お雪は目を輝かせながら、ソファの前に正座し、じっと画面を見つめる。その真剣さに直也は思わず笑ってしまった。
「そんなに気に入ったのか?」
「妾が知っておるのは、雪山の静寂と古い物語ばかりじゃ。このような賑やかで、美しくも壮大な世界は初めてじゃ!」
「まあ、楽しめてるならいいけどな……」
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2. アニメ専門チャンネルに感動
それからお雪は毎日のようにアニメ専門チャンネルに夢中になった。直也が仕事に行っている間も、リモコンを握りしめてアニメを視聴し続ける。
「この局は、一日中アニメばかり放送しておるのか?」
帰宅した直也にお雪がそう尋ねると、彼は苦笑しながら答えた。
「そうだよ。ここはアニメ専門チャンネルだからな。」
「なに!それほど素晴らしい局が存在するのか!これこそ神局ではないか!」
「神局って……まあ、そうかもしれないけど。」
お雪はさらに身を乗り出して尋ねた。
「しかもこの局、そなたが教えてくれた“テレ東”が運営しておると言ったな?」
「ああ、そうだけど……なんでそんなに感動してるんだよ?」
「妾には見えるぞ。テレ東という神局が、地震があろうと台風が来ようと、アニメの放送を続ける姿が!いや、きっと世界が滅びるその日まで、この局はアニメを放送し続けるに違いない!」
直也はその熱弁に苦笑しながら首を振る。
「いや、そんな大げさなことじゃないって……」
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3. 深夜アニメの虜に
アニメ専門チャンネルだけでなく、深夜アニメにもお雪は興味を持ち始めた。直也が夜に何気なくつけたアニメを見て、お雪はさらに興奮を覚えたようだ。
「直也よ、この物語は何じゃ?なぜ普通の少女が、魔法の力を得て世界を救うのじゃ?」
「それが魔法少女モノってやつだよ。まあ、夢と希望の詰まったジャンルだな。」
「妾も魔法少女になれぬものか?」
「いやいや、雪女だろ、お前は。」
「むぅ……しかし、この変身シーンというやつは、どうして服が派手になり、武器まで手に入るのじゃ?妾にはその理屈がわからぬ!」
「それが“お約束”ってやつなんだよ。深く考えなくていいんだ。」
「ふむ、妾も変身できたら、直也を守れるかもしれぬのう……」
「そんなことしなくていいから、普通にしてくれ。」
お雪の真剣な様子に直也はため息をつきながらも、どこか笑みを浮かべていた。
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4. 薄い本の衝撃
ある日、直也が友人から貸された同人誌(いわゆる薄い本)を机に置いているのを見たお雪が、それに興味を持ち始めた。
「直也よ、これは何じゃ?」
「……それは、薄い本っていうやつだな。」
「薄い本?ただの本ではないのか?」
「まあ、いろいろと……その……普通の本とは違うんだよ。」
お雪はじっくりとそれを眺めた後、表紙の絵に目を輝かせた。
「ふむ、これもまた人間界の文化の一つか!妾にもっと詳しく教えよ!」
「いや、それは……あんまり深入りしない方がいいぞ……」
「どうしてじゃ?妾にはこれが、ただの美しい絵と物語の本に見えるが。」
「いや、そうなんだけど……いや、やっぱり説明するのはやめとく!」
お雪の天然な質問攻めに直也は言葉を詰まらせ、赤面しながらその場を逃げるように去った。
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5. BLと百合の衝撃
さらに数日後、アニメの中でBLや百合といったジャンルの存在に気づいたお雪は、また直也を質問攻めにした。
「直也よ、BLとは何じゃ?なぜ男同士が愛し合うのじゃ?」
「それは……そういうジャンルがあるんだよ。いろんな人が楽しめるようにってことだな。」
「ふむ、妾にはその理屈がよくわからぬが……なぜか興味をそそられるのう。」
「興味をそそられるな!」
さらに百合についても尋ねられる。
「直也、百合とは花のことではないのか?どうしてこの物語では女同士の恋愛を指しておるのじゃ?」
「……まあ、そういうことになってるんだよ。」
「むぅ……人間界は奥が深いのう。」
お雪はますますサブカルチャーに没頭し、直也はその都度困らされながらも、どこか楽しそうにその様子を見守っていた。
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6. 新たな日常
アニメやサブカルにどっぷりとはまったお雪は、現代生活に完全に溶け込みつつあった。直也の家には次々とアニメグッズが増え、お雪がそれらを熱心に集める姿に直也は呆れながらも苦笑を浮かべていた。
「お前、本当に現代人になりつつあるな。」
「当然じゃ。妾はそなたの世界を楽しむためにいるのだからな。」
お雪の無邪気な言葉に、直也は心の奥でほのかな温かさを感じるのだった。
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