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第16話 雪女、現代に降り立つ9

1. 突然の提案


ある静かな夜。直也がリビングでテレビを見ながらリラックスしていると、隣でアニメ雑誌を読んでいたお雪が、ふと直也に視線を向けた。


「直也よ、妾は決心したぞ。」


「……何が?」


唐突な一言に、直也は少しだけ身構えた。彼女の「決心」はいつもろくでもないことが多いからだ。


「そなたと婚姻を結ぼうと思う。」


「……はあっ!?」


あまりにも突拍子もない言葉に、直也は思わず声を張り上げた。


「ちょ、ちょっと待て!婚姻って……結婚のことか?」


「そうじゃ。妾とそなたが結ばれるのは自然な流れではないか?」


「自然な流れって、何を言ってんだよ!俺たち、ただの同居人だろ?」


お雪は直也の言葉に首を傾げ、不思議そうな顔をする。


「むぅ……そなたは妾では不足と申すのか?」


「いや、そういう問題じゃなくて!」


直也が慌てふためく中、お雪は少し眉をひそめてため息をついた。


「そなた、人間の風習では、男が女に申し込むのが普通であろう?しかし、そなたがまったくその気配を見せぬゆえ、妾が恥を忍んで先に提案しておるのじゃぞ。」


「いやいや、俺はまだそんなこと考えてないし!」


「ふむ……そなた、優柔不断な男じゃな。」


お雪の天然すぎる発言に、直也はますます困惑していた。



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2. 条件付きのプロポーズ(?)


その後も、お雪は自分の提案が正当であることを一生懸命主張し続けた。


「妾とそなたが結ばれることで、人間界と雪女の共存の可能性が高まるのではないか?」


「いやいや、そんな使命感で結婚なんかするもんじゃないから!」


「ではそなたの考える条件とは何じゃ?妾はそれに合わせよう。」


「条件とかじゃなくて、もっと……そういうのは自然に流れでなるもんなんだよ。」


「むぅ……自然の流れか。では、妾が直也をもっとその気にさせれば良いのじゃな?」


「ちょっと待て、それは違う!」


直也の必死な否定にも、お雪はどこ吹く風といった様子でさらに続ける。


「妾はすでに準備を進めておるぞ。これを見よ。」


そう言いながら、お雪はリビングテーブルの上に一枚の紙を広げた。それは――婚姻届だった。


「ちょっと待て!お前、どこでこれ手に入れたんだよ!」


「人間のくせに知らんのか?近くの役所で頼めば、誰でも、何枚でもくれるぞ。しかも無料じゃ。」


「いや、動きすぎだろ!なんで役所の人も簡単に渡すんだよ!」


「結婚しない男女が増えて深刻な状況があるからであろう。きっとBLや百合が増加してる弊害であろうな。」


「確かに結婚離れは深刻かもしれないが、原因はそこではない!」


直也は頭を抱えながら、ため息をついた。



---


3. 話は平行線のまま


それでもお雪は一歩も引かない。


「直也、妾はそなたと良い家庭を築きたいと思っておるのじゃぞ。」


「いや、だからなんでそんなに急なんだよ。」


「そなたとなら、良い子をなせる気がするのじゃ。そなたもそのように思わぬか?」


「思わない!というか、まだ早すぎるから!」


直也が声を荒げると、お雪は少し不満そうに唇を尖らせた。


「むぅ……そなた、据え膳を食わぬとは、男の恥というものを知らぬのか?」


「いや、そんな時代錯誤な理屈通じないから!」


お雪はそれでも諦めない。


「妾は雪女として300年を生きてきたが、こうして心から結ばれたいと思う者に出会えたのは初めてじゃ。」


その言葉に、直也は思わず口を閉ざした。彼女が本気でそう思っているのだと気づいたからだ。しかし、どうしても素直に受け入れることはできなかった。


「……お前が本気なのはわかった。でも、俺にはもう少し時間が必要だ。」


「時間……か。」


お雪は少し寂しそうに呟いたが、やがて頷いた。


「良かろう。妾は300年待ってきたのじゃ。あと数年くらい、待てぬことはない。」


「数年どころか、1000年くらい待たせそうだけどな……」


「むぅ、それは困る。式場のキャンセル料が発生してしまうからのう。」


「式場!? お前、どこまで準備してるんだよ!」



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4. 冗談まじりの和解


結局、その夜はプロポーズ問題が解決することはなかった。しかし、二人の間にはどこか温かい空気が流れていた。


お雪は笑いながら言う。


「直也よ、そなたがその気になる日が来るのを、妾は楽しみにしておるぞ。」


「……俺がその気になる日なんて来るのかな。」


「むふふ、その時が来れば、妾がすぐに気づいてやる。」


直也はそんな彼女の自信満々な態度に苦笑しながら、ソファに体を沈めた。


「ほんと、お前には振り回されっぱなしだよ……」


お雪はその言葉を聞いて嬉しそうに微笑み、隣に座った。


「それで良いではないか。妾は、そなたといる時間がとても楽しいのじゃ。」


直也はその言葉に、何も言い返すことができなかった。ただ、どこか穏やかな気持ちになったのを感じていた。

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