1. 突然の提案
ある静かな夜。直也がリビングでテレビを見ながらリラックスしていると、隣でアニメ雑誌を読んでいたお雪が、ふと直也に視線を向けた。
「直也よ、妾は決心したぞ。」
「……何が?」
唐突な一言に、直也は少しだけ身構えた。彼女の「決心」はいつもろくでもないことが多いからだ。
「そなたと婚姻を結ぼうと思う。」
「……はあっ!?」
あまりにも突拍子もない言葉に、直也は思わず声を張り上げた。
「ちょ、ちょっと待て!婚姻って……結婚のことか?」
「そうじゃ。妾とそなたが結ばれるのは自然な流れではないか?」
「自然な流れって、何を言ってんだよ!俺たち、ただの同居人だろ?」
お雪は直也の言葉に首を傾げ、不思議そうな顔をする。
「むぅ……そなたは妾では不足と申すのか?」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
直也が慌てふためく中、お雪は少し眉をひそめてため息をついた。
「そなた、人間の風習では、男が女に申し込むのが普通であろう?しかし、そなたがまったくその気配を見せぬゆえ、妾が恥を忍んで先に提案しておるのじゃぞ。」
「いやいや、俺はまだそんなこと考えてないし!」
「ふむ……そなた、優柔不断な男じゃな。」
お雪の天然すぎる発言に、直也はますます困惑していた。
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2. 条件付きのプロポーズ(?)
その後も、お雪は自分の提案が正当であることを一生懸命主張し続けた。
「妾とそなたが結ばれることで、人間界と雪女の共存の可能性が高まるのではないか?」
「いやいや、そんな使命感で結婚なんかするもんじゃないから!」
「ではそなたの考える条件とは何じゃ?妾はそれに合わせよう。」
「条件とかじゃなくて、もっと……そういうのは自然に流れでなるもんなんだよ。」
「むぅ……自然の流れか。では、妾が直也をもっとその気にさせれば良いのじゃな?」
「ちょっと待て、それは違う!」
直也の必死な否定にも、お雪はどこ吹く風といった様子でさらに続ける。
「妾はすでに準備を進めておるぞ。これを見よ。」
そう言いながら、お雪はリビングテーブルの上に一枚の紙を広げた。それは――婚姻届だった。
「ちょっと待て!お前、どこでこれ手に入れたんだよ!」
「人間のくせに知らんのか?近くの役所で頼めば、誰でも、何枚でもくれるぞ。しかも無料じゃ。」
「いや、動きすぎだろ!なんで役所の人も簡単に渡すんだよ!」
「結婚しない男女が増えて深刻な状況があるからであろう。きっとBLや百合が増加してる弊害であろうな。」
「確かに結婚離れは深刻かもしれないが、原因はそこではない!」
直也は頭を抱えながら、ため息をついた。
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3. 話は平行線のまま
それでもお雪は一歩も引かない。
「直也、妾はそなたと良い家庭を築きたいと思っておるのじゃぞ。」
「いや、だからなんでそんなに急なんだよ。」
「そなたとなら、良い子をなせる気がするのじゃ。そなたもそのように思わぬか?」
「思わない!というか、まだ早すぎるから!」
直也が声を荒げると、お雪は少し不満そうに唇を尖らせた。
「むぅ……そなた、据え膳を食わぬとは、男の恥というものを知らぬのか?」
「いや、そんな時代錯誤な理屈通じないから!」
お雪はそれでも諦めない。
「妾は雪女として300年を生きてきたが、こうして心から結ばれたいと思う者に出会えたのは初めてじゃ。」
その言葉に、直也は思わず口を閉ざした。彼女が本気でそう思っているのだと気づいたからだ。しかし、どうしても素直に受け入れることはできなかった。
「……お前が本気なのはわかった。でも、俺にはもう少し時間が必要だ。」
「時間……か。」
お雪は少し寂しそうに呟いたが、やがて頷いた。
「良かろう。妾は300年待ってきたのじゃ。あと数年くらい、待てぬことはない。」
「数年どころか、1000年くらい待たせそうだけどな……」
「むぅ、それは困る。式場のキャンセル料が発生してしまうからのう。」
「式場!? お前、どこまで準備してるんだよ!」
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4. 冗談まじりの和解
結局、その夜はプロポーズ問題が解決することはなかった。しかし、二人の間にはどこか温かい空気が流れていた。
お雪は笑いながら言う。
「直也よ、そなたがその気になる日が来るのを、妾は楽しみにしておるぞ。」
「……俺がその気になる日なんて来るのかな。」
「むふふ、その時が来れば、妾がすぐに気づいてやる。」
直也はそんな彼女の自信満々な態度に苦笑しながら、ソファに体を沈めた。
「ほんと、お前には振り回されっぱなしだよ……」
お雪はその言葉を聞いて嬉しそうに微笑み、隣に座った。
「それで良いではないか。妾は、そなたといる時間がとても楽しいのじゃ。」
直也はその言葉に、何も言い返すことができなかった。ただ、どこか穏やかな気持ちになったのを感じていた。