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第17話 雪女、現代に降り立つ10


1. 再び訪れる「結婚」の話題


平穏な日常が戻ったかと思われたある朝、直也が仕事へ出かける準備をしていると、お雪がリビングで何やら不穏な空気を漂わせていた。彼女は例によってテレビをつけ、深夜アニメの再放送を見ながら、何かを考え込んでいる様子だ。


「お雪、朝ごはんぐらい片付けろよ。俺、出かけるからな。」


直也が声をかけると、お雪は振り返り、唐突に言い放った。


「直也よ、そなたに言いたいことがある。」


「また何だよ……嫌な予感しかしない。」


「妾は、極論に基づいた新たな作戦を考えたぞ。」


「極論?……お前、まさか。」


直也の不安そうな顔をよそに、お雪は得意げに胸を張る。


「そなたと妾が結ばれるための、最も効率的な方法を見つけたのじゃ。」


「またその話かよ!何が効率的だよ……」


「聞けば納得するであろう。」


お雪は立ち上がり、リビングの中央に直也を座らせると、自信満々な顔で語り始めた。



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2. お雪の「極論」


「妾は昨夜、人間界の結婚事情について徹底的に調べたのじゃ。そしてわかったことがある。」


「わかったことって……何だよ。」


「現代の人間界では、結婚をためらう理由が多く存在する。しかし、その中で最も重大なのは“きっかけ”が不足していることじゃ。」


「まあ、そうかもしれないけど……」


「つまり、そなたと妾にはきっかけが必要なのじゃ。そして、そのきっかけを作るために最も効果的な手段は何か、妾は考えた。」


「いや、考えなくていいから!」


直也が焦る中、お雪はまったく気にせず、さらに話を進めた。


「結論として、妾は無理やりそなたの記憶を改ざんし、すでに妾と結婚していると思わせる手段が最も有効と判断した。」


「はあああ!? 記憶を改ざん!?」


「うむ、妾の魔力を使えば容易いことじゃ。そしてそなたが目覚めた時には、妾と子を成し、家庭を築いているという未来が待っておるのじゃ!」


「ちょっと待て待て待て!それはやりすぎだろ!」


お雪の大胆すぎる発言に、直也は全力で否定した。



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3. 直也の必死の説得


「お前、それが極論ってやつか?普通に話し合おうとか、そういう選択肢はないのかよ!」


「普通に話し合った結果、そなたがのらりくらりと妾をかわしておるのが現状ではないか。」


「いや、俺だってちゃんと考えたいんだよ。でも、記憶を改ざんするとか、それはやりすぎだろ!」


直也は必死に訴えるが、お雪は少し考え込むように顎に手を当てた。


「ふむ、確かに妾も記憶をいじるのは最終手段と考えておった。では、他の極論を提案しても良いか?」


「いや、極論はやめろ!普通の提案をしろ!」


「むぅ、そなたは妾の努力を全否定するつもりか?」


「努力の方向性がおかしいんだよ!」


直也のツッコミに、お雪は不満そうな顔をしながらも、次の案を口にした。



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4. 新たな「極論」案


「ではこうしよう。妾がそなたの職場に乗り込み、そなたが妾と結婚しない限り職場を凍結する、と宣言するのじゃ。」


「やめろ!職場の人たちに迷惑だろ!」


「むぅ、それならば次の案はどうじゃ?」


「次!? まだあるのかよ!」


「そなたの家の周りを雪で埋め尽くし、外界から隔離する。そして二人きりで過ごすことで、自然と愛が芽生えるという作戦じゃ。」


「お前、それ完全に監禁だろ!」


「むぅ、そなたがこうも反対するとは……妾の案が受け入れられぬのは残念じゃ。」


お雪はしばらく考え込んだ後、ふと直也の顔をじっと見つめた。


「ならば、そなたが“妾と結婚したくなる理由”を教えよ。」


「えっ……いや、そういうのはもっと自然にだな……」


「自然に、というのは曖昧すぎる。具体的に言え。」


直也は頭を抱えながら、ため息をついた。



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5. 二人の小さな進展


「お雪……お前、本気で俺のことを考えてくれてるのはわかるよ。でも、俺にはまだ準備ができてないんだ。」


直也は少し真剣な顔で話し始めた。


「結婚っていうのはさ、人生の一大事なんだよ。俺たちは同居人としてはうまくやれてるけど、結婚ってなるとまた別の話だろ?」


「ふむ……つまり、妾がそなたと結婚したいと思う気持ちは軽すぎると申すのか?」


「いや、軽いとかそういうことじゃなくて……お前が本気で考えてくれてるのは嬉しいけど、俺にも時間が必要なんだよ。」


お雪はその言葉を聞いて、少し考え込んだ。やがて静かに頷く。


「良かろう。そなたがそう申すならば、妾はもう少し待つとしよう。」


「お、お前がそんな素直に納得するなんて……」


「ただし!」


お雪が勢いよく指を立てる。


「そなたが時間を欲するならば、妾はその時間を無駄にせぬよう努力するのじゃ。」


「努力って、また極論とかじゃないよな?」


「ふむ、そなたに迷惑をかけぬ程度に頑張るとしよう。」


直也はその言葉にほっとしつつも、少しだけ不安を覚えた。お雪が「迷惑をかけぬ程度」という言葉をどう解釈するのか、それがまったく想像できなかったからだ。



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6. 夜の静寂と新たな決意


その夜、直也が眠りにつくと、お雪はリビングで一人、窓の外の夜空を見上げていた。


「直也よ……そなたと妾が結ばれるその日が、必ず来ると信じておるぞ。」


静かな月明かりが彼女の顔を照らしている。その表情は、どこか穏やかで、どこか切なげでもあった。


「極論に頼らずとも、妾の気持ちをそなたに届ける術が、きっとあるはずじゃ。」


お雪はそう呟き、テレビのリモコンを手に取る。画面に映し出されたのは、また新しいラブコメアニメだった。


「まずはこれで勉強するのじゃ……」


彼女の真剣な眼差しが、月明かりの中で静かに輝いていた。



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