謝りあった翌朝、風の谷の空はどこまでも澄んでいた。木々の葉は陽の光を受けて銀色に光り、道の端には朝露が輝いていた。
「なんだか、昨日より風がやさしい気がするね」
かなこがそう言うと、まなみがそっと目を閉じて頷いた。
「うん。きっとね、谷も笑ってるんだと思うよ」
その言葉に、ゆうきが「谷に感情あんの!?」と茶々を入れるが、もう誰も怒ったりしない。むしろ、その冗談が気持ちをほぐしてくれるのが分かっていた。
そうやって和やかに進んでいたそのとき――
ズボッ。
地面が突然抜けて、誰かが見事なまでに穴に落ちた。
「うわああああっっっ!!!」
叫び声が上がり、皆が反射的に駆け寄る。
「かなこ!? だいじょうぶ!?」
「……うぅ……あたし、落とし穴に落ちた……」
穴の底で泥まみれになっていたのは、案の定かなこだった。
「助ける! ロープ――あ、使っちゃってたんだった!」
慌てるゆうきの後ろで、だんごがまたしてもぴったりの長さのロープをスッと差し出した。手際の良さにもう誰も驚かない。
泥だらけのかなこを引き上げた瞬間、あたりに沈黙が流れる。
顔から髪までべったり泥。ズボンの膝は破れ、リュックの中からなぜかパンが飛び出ていた。
しかし――。
「……ぷっ……」
まなみが笑った。
「……なんで、こんなときにパン出てくるの?」
続いて凪が小さく噴き出し、えいじが眼鏡を外して目を伏せながら肩を震わせる。
「やめてよお……みんな……笑わないでよぉ……」
そう言いながら、かなこ自身が、真っ先に大きく笑った。
「でも……うん、なんかおかしいね……私、ほんと、よく落ちるなぁ!」
それをきっかけに、七人はその場に座り込むようにして、心から笑った。
泥まみれ、汗まみれ、でも笑いに包まれるひととき。
その時、穴の側に置かれた石板がひとりでに光り出した。
【第四の誓い】
“失敗を笑いに変えること”
笑いは、恐れの影を小さくする。
「……そうか。これも、谷の仕掛けだったんだな」
悠誠が地面に手をつき、ぽんぽんとたたいた。
「うまいことやるね、風の谷さん」
ゆうきがにやりと笑うと、また皆がくすくすと笑い出す。
「でも、かなこのパンは何で出てきたんだろう……?」
凪が小さく首をかしげると、まなみがぽつり。
「それはきっと、谷が“今日の笑い”を選んだんだよ」
「そんなに笑わせる気だったの!?」
叫ぶかなこに、ピッピ(かなこのリュックに乗っていた小鳥)までが「ピィ!」と鳴いて応じる。
こうして、“失敗を笑いに変える”第四の鍵も、風の音とともに開かれていった。