-例のお経が聞こえた2週間後-
私の気のせいかも知れませんが、人形に憑いていた悪霊が微かにいる気配がしてなりません。
全く対策を練らないのは嫌だったので、呪いの人形の悪霊が、お寺からはみ出してきた可能性を懸念して、玄関に『角大師』と呼ばれる護符を実家や私の家の玄関、会社の事務所や工場の入口に貼りました。
『角大師』は、天台宗に伝わる由緒正しき魔除けの護符でして、京都でよく見かける護符なのですが…。
天台宗のお寺なら、有名なお寺ではなくても、社務所で常にお守りやおふだが売っているような場所であれば、お守りやおふだを頂く感覚で角大師の護符を頂ける筈です。
この護符もお寺によって、価格も護符の効果もピンからキリまでありますが、個人的には『角大師』と『豆大師』がセットになっている護符のほうが効果があるかと思います。
500円程度で角大師と豆大師がセットになっている護符が頂ける、良心的なお寺もありまして、私は所用で妻の実家に行った時に、そのお寺の角大師と豆大師を玄関の内側に貼り付けました。
この角大師の護符…、そのお姿が怖いのは謂われがあるのですが、そこは、別のウンチク話で語るといたしまして…。
話を戻すと、それを貼っても、人形についていた悪霊が、まだ微かにいる気配が変わらずの状況でして、実家や家の中に、残りの悪霊がいる可能性を懸念していました。
これは、私が霊感体質があるのに関わらず、とても弱すぎる霊感で感じていることですから、『気のせい』と言ってしまえば、それまでのコトだと思っていたのです。
しかし、これが気のせいから、確信に変わった出来事がありました。
私は、毎日、神棚や仏壇に手を合わせることを欠かしていないのですが、近頃は願を掛けて祈っている最中に、お祈りの邪魔をされている感覚に襲われることが多くなったのです。
しかし、家族も自営している町工場も含めて、大きなトラブルや危害もありませんし、ゾッとするような怪奇現象も起きていません。
『何だか気味が悪いなぁ…。』
そのような不気味な感覚に襲われていた、ある日の事でした。
仕事の合間に弟と共に実家の片付けをしていると、2階の和室にある、子供の姿をした日本人形が私の目に留まりました。
この人形は、呪いの人形の騒動があった直後に確認をしましたが、違和感が感じられず、このまま飾っておいても大丈夫だと思っていたのですが…。
『ん???』
一瞬、その人形の目が動いたように見えました。
この日本人形の目は筆で描かれていますから、人形の目が動くなんて、絶対にあり得ません。
それならば、私に霊感がある影響で『人形に何か取り憑いているのが見えてしまった』のでしょう。
しかし、この時は、仕事が随分と詰まっていたし、私の気のせいである可能性も捨てきれなかったので、とりあえず、人形のそばにお守りを置いて、様子を見ることにしました。
◇
…それから3日後…。
やはり様子を見るだけではダメでした。
仕事の休憩中、事務所で椅子に座りながらリラックスをして、まぶたを閉じると、まぶたの裏に、あの子供の姿をした日本人形が目に浮かんできたのです。
…しかも、両目が赤くて、人形から瘴気を放っているのが分かるぐらい、怖い形相をしているのが分かりました。
これは一刻の猶予もありません。
恐らく、階段下収納から出てきた呪いの人形を取りだした際に、人形に取り憑いていた悪霊の一部が、この人形に入り込んだのでしょう。
私は、その人形を供養に出した張本人ですから、悪霊が取り憑いた人形から見れば、私が敵視されるのは当然です。
問題は、この時点で夕刻ですから、どこの寺社であっても、人形供養の持ち込みが時間的に不可能な状況だし、時間的な余裕ができるまで保管をするにしても、色々と対策が必要になるでしょう。
私は、事務所にいた妻に人形のことを話すと、すぐに実家の2階にある人形がある部屋に向かって、妻は部屋に入って辺りを見渡して、暫くしてから、私に率直な感想をぶつけました。
「わたしがこの部屋に入っても、なんだか嫌な感じがあるわ。あの酷い人形よりズッとマシだけど、なんかモワッとしたような嫌な感じがあるのよ。こんなの、この間まで、なかったわよ。」
そこで、妻と弟とも相談した結果、宅急便で人形供養を受付可能な神社に供養をお願いすることにしたのです。
幸いにも、怨霊はこの前の呪いの人形ほどの力はもっていないし、まだ弱い部類だと考えられるので、供養を躊躇っている状況ではないと判断をしました。
これを放置すると、人形に入った怨霊が再び時間をかけて力を蓄えて、再び私たちに災いを及ぼすことは間違いないと思われますから。
階段下収納から出てきた人形にあった強い怨霊の一部でしょうし、現実に怪奇現象を起こすような瘴気を発することは無理でも、最後は私や家族に抵抗をしてくる可能性がありますから、油断ができません。
私は工場の物置場から段ボールを持ってきて、問題の人形を梱包することにしました。
『ごめんな、…成仏してくれ。呪うなら他の誰でもなく俺を呪ってくれ。俺が呪いをはね除けて、お前を成仏させてやる。』
そう思いつつ、人形を梱包していると、激しい頭痛に見舞われました。
『そうか、人形に憑いていた悪霊が俺に入ろうとしているか?』
それなら望むところです。
私にはそのような悪霊を即座に祓うことは難しいですが、最低でも、この怨霊の余波によって、家族や誰かに迷惑をかけずに済みますから、内心はホッとしました。
自分に憑いた悪霊なら、定期的に寺社に足を運んで時間をかけて落とせば良いわけです。
そう思いつつ、梱包を終えて、人形供養を宅急便で受け付けてくれる神社に宅急便で発送をしたのですが…。
宅急便で人形供養の発送を終えた後に、再び激しい頭痛が襲ってきたので、私はそのまま仕事を弟に任せて頭痛薬を飲み、家に帰って寝ることにしました。
当然、こうなると、私に憑いた人形の悪霊の残りに関しては、霊媒師を呼んで祓って頂くか、寺社に行って祓うしかないのですが、日が落ちて辺りが暗くなっているから当然の如く無理です。
無論、前話でも書いたとおり、頼れる霊媒師もいませんし、この時間になって祓えそうな寺社に駆け込むのは、余計に変なモノを連れてくるリスクが高まるばかりですから、絶対に避けなければいけません。
こういう場合は、何をやってもダメなので、大人しく寝ていた自分がいました。