15日はそんなドタバタもありましたが、この日の、みかん散歩は平穏に終わりました。
散歩の距離は、とても長かったのですが、以前にも歩いたことのある散歩コースを歩いたので、お墓の入口には行きませんでしたし、きちんと家まで戻ってきたのです。
『13日のみかんの行動は、いったい…、何だったのだろうか?。』
そんな疑問を抱きながら、私は息子を除く家族と夕飯を食べていたのでした。
息子は新型コロナの罹患を避ける為に、しばらくの間は、私たちとの食事時間をずらす事にしているので、この措置はやむを得ないのです。
…これこそが、今年のお盆の悲劇でしたからね…。
◇
-その翌日-
16日は送り火ですから、ご先祖様をあの世へ送る日です。
だからこそ、やることが目白押しですし、夕刻になれば送り火を焚いて、お盆に来た先祖や色々な霊を送り出すのですが…。
もしも、送り火をキチンとやらなかった場合、悪霊の類も含めて、ここに居続けることになるでしょうから手は抜けません。
まして、きちんとした手順を踏まえておいて、迎え火も焚いておきながら、仏前に盆棚まで作っているのですから、送らないと大変な事態になるのは、火を見るよりも明らかですから。
朝になって、神棚や仏壇などに手を合わせた後に、水の子を作って最後の御霊供膳を供えて、一通りの作業を終えると、仕事に取りかかりました。
お昼なって、最後のそうめんを茹でて盆膳に供えると、夕刻の送り火まで仕事をすることに…。
今日は、5歳の娘のランドセルを見に行く日でもあったので、妻と娘は午後になって出掛けてしまいました。
送り火を焚く頃には、家に戻ると思うので、時間的に遅れるような心配していなかったのですが、夕刻になって仕事をしている最中に工場の外に出てみると、次第に雲行きが怪しい感じがします。
『まずい、土砂降りになる前に、送り火を焚かないとマズいことになる!』
こうなったら、妻や娘を抜きにしても送り火を焚かないとダメだと判断し、弟を呼んで送り火の準備をしようとすると、タイミング良く妻と娘が帰ってきました。
なお、新型コロナに罹患していない息子に関しては、新型コロナの感染防止の為に、今年の送り火を見送ることが確定しています。
息子は、お墓参りと仏壇に手を合わせた後は、部屋をノックする音などは全く聞こえてませんから、それで充分であるとの認識でして…。
妻と娘を呼びに行った時点で、雨がポツポツと降ってきました。
夕立のような感覚だから、いずれ雨が止むかも知れませんが、雨が上がるのが夜になってしまった場合は、送り火を焚くのが遅くなってしまいます。
まずは、仏壇の蝋燭に火をともして線香に火を付けて手を合わせると、盆棚に供えてある、お菓子や、お供え物を少し手にとりました。
そして、それらのお供え物を小さい
要するに、真菰にくるんだモノを、あの世に送り出すためのお土産とするのです。
お供え物をまとめた、真菰を手に持って外に出て、家の角まで行くと、その真菰を下に置いて、隣に火の付いた線香を置きました。
これで、先祖の霊に『お土産を持たせた』形にするのです。
本来なら、それらの品々を川に流すことが『精霊流し』をやるべきなのでしょうが、今は環境問題もあって、特定の地域以外で色々なモノを川に流すのは、とても難しいですから…。
これらのやり方は、宗派や地域性の違いが大きくあると思いますが、何らかの形で処理した上で、ゴミとして処分する家が多いかと思われます。
この時点で、ポツポツの雨が、さきほどよりも強くなってきた感じがしましたから、送り火を焚ける時間があまりありません。
その後に、『麻がら』を持って敷地の入口付近まで行って、それを燃やすことで『送り火』とする訳でして…。
ちなみに、麻がらが無い場合は、割り箸などで代用する家もありますから、このあたりは地域や家の風習に任せるところです。
真菰や麻がらに関しては、お盆に近づくと『お盆セット』などの名前で、ホームセンターやスーパーなどで売られているケースもありますから、無理矢理にネットショップを使わなくても大丈夫かと。
ポツポツと雨が降っているなか、急いで『麻がら』を燃やして、それが燃え尽きると、雨が土砂降りとなったので、送り火のタイミングとしては絶妙でした。
『…雨か…』
そういえば、父の葬儀は6月の梅雨時だったのですが、火葬や初七日などが終わって葬儀場から出ようとしたときに、激しい雨が降ってきたことを思い出しました。
そんな状況と似たような雨だと思いながら、私は急いで実家に入って、弟と盆棚の片付けを始めたのです。
◇
盆棚が片付いて、雨があがった日暮れ時に、私はみかんの散歩に行きました。
まだ、路面も慣れているし曇っているから、真夏の犬の散歩としては好条件です。
みかんは、家に出ると、迷う事なく13日の迎え火の時と同じ散歩ルートを歩いているじゃありませんか。
『これは、確実にお墓の入り口まで行くルートだ』
うちのお墓までは、数kmありますから、早歩きでも1時間は下らないのです。
みかんは、全く疲れを見せずに片道で1時間かかる道のりを歩きました。
そして、お墓の入り口の道が見える場所まで歩いたところで、来た道を引き返したのです。
『これは、お墓の近くまで父を送ったから帰るということか?』
新型コロナが快癒したとはいえ、まだ私の体力が回復していない事もあって、私はこの時点でスマホを手に取って妻に車で迎えに来てもらうように、連絡を取りました。
みかんも、妻の車が来るまでの間、歩いていますが、さすがにヘトヘトなのか、行きよりも歩みが遅くなっている気がします。
しばらく歩いていると妻の車が見えて、みかんは、丸い尻尾を振りながら車に乗り込みました。
『…こいつは、不思議な犬だ…。』
私たち家族は、こうして、ドタバタのお盆を過ごしていたのでした。