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第2話

「えーと、今日の依頼は……」


翌日、俺が向き合っているのは依頼が張り出されている掲示板。


この中から気になる依頼を選んで、受付に持っていけば正式に依頼を受けたことになる。


(今日もスライムやホワイトラビットの依頼にしようかな……)


このライナード国が冒険者と言われる所以ゆえん、それはやはり魔物が多いことだと思う。


しかし、魔物のいる地区は限られていて街の人はさほど困っていない。


落ち着いた雰囲気の市民街と狩猟区と呼ばれる冒険者しか入れない地区。


その両立が成り立っている不思議な国だった。


そしてもちろん危険度によりA〜Eに分かれていて、依頼を受けられるかは冒険者ランクに付随する。


またAの上にはギルドが個別に認めた冒険者のみがなれるSランクも存在する。


俺は手元にある自分の冒険者登録カードに目を向けた。


『ランクB』


三年目にしては高すぎるほどのランク。


この街でBランク以上の冒険者は二十人もいないだろう。


そのランクを持つ理由は……俺が焦りすぎていたからだと自信を持って言える。


ランクを上げるために危険なことも沢山したし、体力的に無理があるほどの依頼もこなした。


そして無理がたたったあの日、俺は休むことと無理をしないことの重要性を知った。


だからこそ……



『じゃあ、俺が書類を確認している間に寝ていていいですよ』


『たまには良いと思いますよ。それに俺はちょっとのズルは推奨派です』



ラナさんにそう言ったのは無理をしている人間が嫌いだからだと思う。


俺は人間は眠たい時に眠る幸せをもっと噛み締めるべきだと心から思っている。


目の前に貼られた沢山の紙には「ダンジョンの到達」や「Bランク以上しか受けられない依頼」も多くある。


 もちろん報酬だって段違いに高い。


なんならスライムなんて冒険者一日目に挑戦したくらいの低ランクの魔物だ。


それでも、もう俺は無理したくない。


だから依頼を受ける件数も最低限に……いや、依頼達成書類が一枚だとラナさんの仮眠が3分になってしまう。


だから俺は下級魔物の依頼を三件取り、受付を済ます。


今は朝なのでラナさんの列に並ぶ必要はない。


俺は今までよく並んでいた受付嬢の列が丁度空いていたのでそこに向かう。


「ジークさん、おはようございます。昨日は混んでいてごめんなさいね」


「全然。別の受付嬢も親切で助かりました」


「確かラナの列に並んでいたわよね。ラナは真面目で良い子だからそう言って頂けて嬉しいわ。またどの列で良いから空いている列に並んでね」


「はい」


「えーと、依頼を三件ね。今日は時間がある感じかしら?」


「ええ、そんな感じです」


ちょっとした世間会話をしながら依頼を受け終える。


受付を済ませた俺はその場で小さく「ふはっ」と吹き出してしまう。


(確かに受付嬢のお昼寝のために三件の依頼を取るのは初めてだな)


しかし、そんな自分が嫌いじゃなかった。



「よし、さっさと依頼を終わらせて午後イチで一番端のカウンターに並びますか」



俺は腕を伸ばしてから、冒険者ギルドの扉を開けた。


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