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第6話 序・男子健康診断、カイトの分析

 今日は登校の時から咲良の様子がおかしい。昨日の体力測定でのヘマで凹んでいるのかな? それとも今日の健康診断で何か不安なところでもあるのかな? こういうデリケートな部分を刺激すると咲良は怒るからヘタにさわれないんだよなぁ。


 さて今日は朝から健康診断。新学期の授業開始前の最後のイベントだ。健康診断はそんなに時間かからないし、午前で今日の学校は終わり!

 さっさと寮に戻って電子工作で試したいことがあったんだよね。咲良も今日は帰ったら大好きな恋愛小説を読み耽るのかな。


 男子は美術室で、女子は家庭科実習室で、それぞれ5人ずつ出席番号順に呼ばれて健康診断を受ける流れだ。

 主に、視力検査、聴力検査、内科検診。そして歯科検診に尿検査。レントゲン検査は職員用駐車場の横に止まっていた、戸澤病院の検査用バスで行われる。


   ◯


 ぼくは普段の生活で特に不安な点もないので流れ作業のように各種検査をうけた。視力も両目1.5と良好!! 電子工作が捗るな。

 山田も一通り検査を回ってきたみたいだ。ん? 紙コップを持って近づいてきた……。


「!!」

「タケルぅ。ほれ! 俺のニョウ!! わはははは!」

「うわ、見せんな! さっさと担当者に渡してこい」

「へーい」


 尿検査を忘れてた。あれは順番に番号で呼ばれる他の検査と違って、各々が紙コップを受け取ってトイレで取ってくる形式だからなあ。しっかし、黄色いなあ。また筋トレしてたのかな?


(カイトの思考ロジック:山田の尿の色から診断開始――)


「――診断完了。山田くんの尿の色は非常に濃く、恐らく昨晩に非常に激しく筋肉トレーニングをした結果と判定。中学二年生における筋肉トレーニングは、成長を促進する上でもスポーツでの怪我の防止にもつながる良いものではあるものの、過度なそれはあまり好ましくないので注意したい」


「……カイト……。 山田の尿を分析しちゃったのか……。うへぇ」

「あ、山田が戻ってきた」

「では山田くんに診断結果を――」

「マテ!」ぼくはとっさにカイトを制止した。また面倒くさい事になりそうだし。


「おーい、タケル! そういや歯科検診どうだった? おれ、今回も虫歯も一本もなしだったぜ!」

「いいなあ、ぼくは親知らずが斜めに生えてきているから今度歯医者で抜かなくちゃいけないんだ……」

「それはお気の毒に」山田めぇ、またそうやって茶化す。

「そういやカイトって歯はどうなってんだ?」

「そういえば体力測定の時、女子にアピールしていたけど白い歯がキラっと光ってたような……」

「な・ん・だ・と!? ちょっと見せろ!」

 山田がカイトに詰め寄った。カイトは無表情で口をニィィと横に開いて見せた。ちょっと不気味。


 ――ぴかぁぁぁぁっ


「おぉぉぉ? なんだそりゃあぁぁ」

「すごいな、パールホワイトの車みたいな光沢」と、ぼくが言うと山田は、「しかも、歯並びがすごい。そろいすぎててきもい」と言い放った。おいおい。

「これは人が実際に装着している、差し歯やインプラント等に使われている素材と、まったく同じものです。僕がこうやって実証試験をする事で、実際に使われる際の消耗や、強度の検証にもなっています」


「へぇ――」

「へぇ――」

 山田とハモってしまった(苦笑)。


   ◯


「そういやカイトも健康診断していたようだが、もう終わったのか?」

 山田がカイトにそう聞くと、カイトは淡々と説明しだした。

「いえこれからです。僕がどれ程までに人間らしいか、実際に人間の医師による診察も、今回の検証には含まれています。さまざまな人間が『汎用人型人工知能ユニット』を観察し、それをどれだけ人間と認識するかも大切な要素です」

「人間の……医師? ロボットだろ? マシーンだろ?」

「これは……極秘事項という訳でもないのですが、特に湯川学園の生徒には積極的に開示すべきという方針もありますので説明をしましょうか?」

「説明しませんでいいです!!」

「ぷっ、山田ぁぁ……」吹いた!


 そして看護師のおねーさんがカイトの腕に血圧計を巻いて測定した。え? ほんとにやってる!!

「センセー! ちょっとこれ見てください! 血圧ありますぅぅぅ」

「はぁぁぁ? ちょっとまて。そういえば医療研究チームから、人と同じ様に人型ユニットも診察しろって通達があったが……」

 聴診器を当てる医師……「!! 聞こえる!! 聞こえるぞ!?」

「よし! 心電図もやってみよう! キミ、準備してくれ」

「はい、センセー」


 驚愕の結果がでた。

「んーいい波が出ているなぁ、問題ナシ!」

「そうですね、センセー……って、ちょっとこれすごくないですか?」

「いや、きっと人間を模倣してシミュレートしているだけだろう」

「そうなのかなぁ?」


 ぼくと山田は、興味深く医師と看護師の漫才を眺めていた。

 カイトは相変わらず無表情だったが。


   ◯


 さあこれで健康診断も終わったし、咲良をさそって下校しよう。

 男子チームはこんな調子でカイトには振り回されっぱなしだったけど、女子たちはどうだったのかな。やっぱりカイトみたくナギも……。咲良どうしてるかな……。さすがに女子たちがいる家庭科実習室の前まで行くのはちょっと気が引ける。


          ―― 第7話へ つづく  ――

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