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第五話 俺様マッシュスダラを発明する

 さて父ちゃんから貰った岩塩が手に入って、俺の異世界グルメは再出発した。

 とはいえ、素材がなさ過ぎるなあ。

 とりあえずスダラ芋を蒸かして……。


 ええ、蒸し器が無いので、ザルから製作である。

 TOKIOか俺は。


 村を回って端材を拾って来た。

 木っ端一つも貴重な貧乏村だから探すのに苦労したぜ。

 家にあるナイフで削って、組み合わせて、なんとかザルっぽい物を自作した。

 見た目が悪いなあ。


 とりあえず、鍋の中に水、不細工なザル、皮を剥いたスダラ芋を並べ、その上に木の鉢を被せた。


「なんだい、この仕掛けは?」

「蒸すって調理法さ」

「変な事をするんだねえ」

「芋は芋だろお、兄ちゃん」


 ピカリは今日も縄をなっている。

 奴はまだ、機織り所に行くには小さいからね。


 兄貴達は畑だ。

 と言っても、草取りとかの雑事しか、この時期の仕事は無いけどな。

 明日は御領主様の麦畑に行って労働奉仕である。

 税金の代わりに労働をする訳だ。

 作業の終わりには美味しいご飯を振る舞ってくれるので結構人気がある。


 蒸かし蒸かし~~。

 おおスダラ芋なのに良い匂いがしてきたな。

 うぇひひひっ。


「良い匂いがする~~」

「本当だね」


 三十分ほどたった。

 木の枝を削って作った箸で芋を押してみる。

 お、すっと入るな。


「できあがりか! 兄ちゃんっ!!」

「まだまだっ!!」


 マッシュしてからが本番だ!!

 蒸かした芋を木の鉢に入れ、木のスプーンで潰す。

 潰す。

 潰す。


 ……、あるえええ?


 綺麗につぶれない、あちこちに玉が出来てる感じ。

 ちょっと食べて見る。


 もにゅもにゅ……。


 ……、なんだこの食感、カスカスだ。

 えーっ?


 ……、そうかっ、前世の日本の食品って品種改良で超美味しくなっていたんだった。

 まじか、こんな味にしかならないのか。


 とりあえず、山羊バターを入れて、宝の岩塩をナイフで削って少し入れて混ぜる。


 ぱくり。


 ……。

 だめだ、カスカスで不味い。

 なんだよ、この芋、全然駄目じゃん。

 なんだよなんだよ、これじゃあグルメとか、ありえねえじゃんっ。


「駄目だ……」


 俺はがっくりと肩を落とした。

 ボロボロと涙がこぼれ落ちた。


「駄目だったのかあ、兄ちゃん」

「まあ、また別の料理に挑戦すれば良いよ、失敗する事もあるさね」


 くそうくそう、グルメで成り上がる計画が再頓挫した。

 もうだめだ、うだつの上がらない小作おじさんとして一生俺は、この土地で暮らして行くしか無いのか。


「兄ちゃん、それくれ」

「失敗作だ、不味いぞ」

「不味くても、お腹は膨れる」


 ピカリは何と言う卑しん坊なのかっ!

 食欲魔神だなっ。


「まあ、良いよ、食え」

「ひゃっほうっ!!」


 ピカリは木のスプーンで、マッシュスダラ芋を掬って口に入れた。


 そして、そのまま硬直した。


 なあ、不味いだろ。

 あの食欲妹が動きを止めるぐらい不味い。

 魔豚に食べさせて動きを止める、狩りのお助け道具とかにはならないかな。


 と思ったら、ピカリの顔がほころび笑顔になった。


「なんだよっ!! にいちゃんっ!! これすげえ美味いぞっ!!」

「は?」


 俺はまさかと思ってマッシュスダラ芋を口に入れた。

 カスカスで不味い、よな?


「母ちゃん、母ちゃん、食ってみ、食ってみ」

「え、そんなにかい?」


 母ちゃんはピカリの出した匙からマッシュスダラ芋をパクリと食べた。

 そして硬直。

 五秒後、花開くように笑顔になった。


「これは美味しいわあ、すごいわよリュージ!!」

「はあ?」


 パクリ、むぐむぐ……。

 だめだ、前世のマッシュポテトとは比べものにならないぐらい……。


 あっ!


 前世の味と比較するから不味く感じるのであって、この世界の薄味シチューやすっぱい堅い黒パンとか食べている人間にとっては凄く美味いのか、もしかして?


「兄ちゃん、頭打って狂ったかと思ったけど、これなら天下とれるよっ!!」

「すごいわね、スダラ芋がこんなに美味しくなるなんて、晩ご飯に出して、お父さんにも食べて貰いましょう」

「お、おう……」


 ……。

 こいつらの舌って、馬鹿じゃねえのか?

 ひょっとしたら、塩味付いてれば天上の味覚じゃねえのか?

 グルメで成り上がろうと思ったけど、超楽勝なのかも。


 まあ、でも、ピカリと母ちゃんが幸せそうなら良いか。

 俺はマッシュスダラ芋を口に運んだ。

 もっきゅもっきゅ。


 不味い。


 もうちょっと滑らかさとか、無いもんかね。

 品種改良してえっ。

 でも百年ぐらいかかりそう。


 晩ご飯にマッシュスダラ芋を出した所、大好評であった。

 あの大兄ちゃんも顔をほころばせて、やったなリュージと褒めてくれた。

 父ちゃんも満足そうで嬉しかった。

 岩塩を貰った恩が少し返せたかな。


「よし、明日御領主さまに献上しよう」

「えっ、いや、さすがにそれは無理があるんじゃない?」

「平気だ、俺はこんなに美味しくなったスダラ芋を食った事が無い、御領主さまも同じだと思う。スダラ芋が美味しく食べられるのは地方にとって大発見だぞ」

「いやあ、無理じゃ無いかなあ」


 みんなに褒められて嬉しかったが、俺はそんなにマッシュスダラ芋が美味しいとは思えないのだが。

 お貴族様はもっと良いもの食ってるから、無礼者とか言われて父ちゃん斬られないかな。


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