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第7話 役人さまのイカサマを看破する俺

 立派な服を着た役人さんが我が家にやってきたので、親父もお袋も恐れ入り、お茶も出せないのを気の毒がってぺこぺこした。


「いやいや、気にするでないぞ、此度はリュウジに贈られた褒美の領収書類にサインを貰いにきただけじゃ」


 りゅうとした背広に身を包んだ髭の出納役人さまは意外にも温厚でニコニコしていた。

 褒美関係の書類を作りに来たらしい。


「ははあ、息子の為にありがとうございます。湯なり茶なりを出す事も出来ませんで申し訳ございません」

「本当に出納役人さまが直々に来ていただいて、お呼びになればこちらからお伺いいたしましたものを」

「いやいや、孝行息子のリュージの晴れ舞台じゃ、気にするでない、気にするでない」


 狭くて犬小屋みたいな我が家に役人が来たというので、窓の外は村人が見物に押し掛けて鈴なりになっていた。


「えー、このたび、リュウジの開発したレシピを金貨十枚で買い上げる、となっておるな、相違ないか?」

「買い取りの金貨は二十枚でございますが……」

「ぬう、こちらには十枚と書いてあるのう、これはどうした事か、金貨は二十枚下賜されたのだな」

「は、はあ」

「書類は十枚となっておる、御領主さまが間違えて多く出してしまったのかのう。その場合差分は返却ねがいたいが、いかがか」

「え、ええ、書類にそうなっておりますなら……」

「確かに料理のレシピに金貨二十枚は大盤振る舞いと、私どもも思っておりました、ははは」


 母ちゃんが引きつりながら笑った。


「ええと、書類見せてもらえますか?」

「なんだ、リュウジ」


 親父の手元にあった、羊皮紙の書類を見た。

 ふんふんふんふん。


「兄ちゃん、字が読めるのか?」


 ピカリがいぶかしげに俺を見た。


 あれ、そういえば、俺は字が読めるようになってるな。

 これはひょっとして転生ボーナスの【異世界言語理解】のスキルかなんかか?


「ここでは二十枚となっておりますが」


 俺が数字の部分を指さすと、出納役人さんの顔色が変わった。


「き、貴様、じ、字が読めるともうすか、農民の分際でっ!」

「あ、はい、その、教会で本を読んで教えてもらいまして、へへへ」

「ふうむむむ、た、確かに、二十枚となっておるな、そ、その、こちらの勘違いであったようだ、すまぬ、ゆるせ」

「いえいえ、誰でも間違いはございますからね」


 嘘だな。

 この役人、農民が字が読めないのにつけ込んで金貨十枚を返却してもらってポッケに入れるつもりだったのだろう。


 領収書類を丁寧に読み込んで、特に問題がなさそうなので、親父と俺が署名をした。


「うむ、リュウジお前はなかなかの人物だな、これからも励めよ」


 出納役人さんは照れ隠しのように大声で言い、羊皮紙の書類を振りながら去って行った。


「「「……」」」


 家族の視線が辛い。


「なんで字が読めるようになったんだ」

「なんでか知らないが、うん、読める」

「計算も出来るとか言うんじゃあないだろうね」


 計算。

 四則演算ぐらいは出来るな。

 うん。

 ちなみに農村で読み書き計算が出来るのはチートインテリだけだ。

 牧師さんか、村長一家ぐらいだな。


「すげー、兄ちゃんすげー、計算できるなら村長んちで帳簿の手伝いとか出来るぞ」

「おお、そうだな、あと読み書きが出来るなら代書の仕事とかなんでもできるな。でかしたぞリュージ」

「いやあ、えへへへ」


 ああ、読み書き計算でも転生チートになるんだなあ。

 というか、リアル農村のヘルモードっぷりよ。



 そんで、次の日に、村長自らやってきた。


「リュウジ、お前が読み書き計算が出来るとは本当の事であるか」

「ははあ、いささか出来ますでございます」

「寺子屋組にも来て無かったお前がなあ、だが、読み書きができるなら丁度良い、今度村の書類仕事を手伝え、日当は出そう」

「ありがとうございます、村長さま」

「良かったなリュウジ、村の事務仕事がやれるようになれば食いっぱぐれが無いぞ」

「いつの間にかリュウジがインテリになって、母ちゃんは嬉しいよ」


 実際、村役場での書類仕事は人が居なくて困っているらしい。

 寺子屋組という、村で勉強が出来る子供を集めた寄り合いがあるのだが、インテリ小僧が育って読み書きが出来るようになると領主の舘に就職したり、街の商館に丁稚に行ったりして、村には残らないようになっているんだな。

 というか、インテリは金が稼げるからな。


 村役場は村長とその家族がなんとか回しているらしく、書類仕事のヘルプを頼まれた。

 これはなかなか良い感じだ。

 俺が畑の番をしても、そんなにお金は稼げないが、村役場に行けば日当が出て現金収入が入る。


「なんだよ、いつリュウジは勉強が出来るようになったんだ」


 その晩の食卓で、小兄ちゃんがぼやいていた。

 小兄ちゃんは頭が良かったので、寺子屋に行ったのだが字を覚えられなくて帰ってきた組なんだよな。

 手先が器用だから、村の鍛冶屋に見習いに入っているな。


「頭打ったら、なんとなく」

「そんな事もあるのかー」


 というか、女神様の転生チートのオマケみたいな物だけどね。

 なかなかお得であるよ。

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