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第8話 村役場でクララと一緒に仕事をする

 さっそく俺は次の日から村役場に呼ばれた。

 税金関係の帳簿の締め切りで大変らしい。

 村長の娘のクララもいた。

 いつものように俺にはツンツンしていた。


 クララは寺子屋組で、どっちかというと俺よりも小兄ちゃんとの方が仲が良い感じだ。

 村祭りではイチャイチャしていたので、さては小兄ちゃん村長の家に婿入りか、と我が家族は期待に胸を膨らましたものだが、小兄ちゃんが寺子屋を中退するとそんなほのかな交流は立ち消えになった。


「なんであんたなんかが書類の手伝いに来たのよ、足手まといにならないでよね」

「ああ、で、やる事は?」

「帳簿の数字のチェック、検算とかだけど、できんの?」

「それ、使って良いのか?」


 俺はクララの手元にあるピカピカのアバカスを指さした。

 あれだ、西洋ソロバン器だな。

 球数は上玉一の下玉四で日本式だな。


「使えるの?」

「まあ、一応」


 前世の学校でちょっとやったからな。

 帳簿を見ながら、アバカスで検算していく。

 ふむふむふむ。

 あ、ここ数値が違うな。


「ミスは赤ペンか?」

「え、赤いインクとかねーし」

「間違いが解らないとこまるし、黒で加筆すると帳簿がぐちゃぐちゃになるぞ」


 しょうが無いな、どうしようか。

 羊皮紙にインク書きだから、修正の時はナイフで削るのだが、あまり直すと羊皮紙に穴が開く。

 俺はハサミで羊皮紙の切れ端をカットして付箋をつくった。

 小麦粉の糊で一時的にひっつける。

 ああ、ポストイット欲しいな。

 赤ペンさえ在ればこんな事はしなくて良いのだが。


「は、早い、なんなのあんた」

「……」


 調子に乗って検算していたら、すぐ帳簿は終わってしまった。

 というか、中世の農村の税の書類ってそんなにも複雑じゃないんだな。

 前世の俺のお小遣い帳の方が歯ごたえがあったぞ。


 村長が来たので、修正点を説明した。


「こりゃあ、解りやすいな、それで、リュウジ、お前、手が早いなあ」

「まあね、赤いインクとか買って欲しいんだが」

「なににするんだ?」

「帳簿の横にミスのある所に赤字で印を入れておくとすぐ見つけられるんだよ」

「この糊でひっつけるやつで良いだろ」

「手間だし、糊だとズレたり落ちたりするからさ、だったら端っこに赤で印をして、修正のたびにそれを削り取ればいいじゃん」

「おお」

「おお」


 村長とクララが同時にぽんと手を打った。

 ここら辺親子だから仕草が似ているよな。


「なんだお前はリュウジ、領館の文官さんか、本式だなあ」

「こういうのは本式できっちりやった方が逆に早いんだよ」


 とはいえ、前世のバイトの経験であるんだけどね。

 読み書きソロバン、事務仕事と、小学校中学校でいろいろと教えて貰えてるんだよなあ。

 前世日本の教育がチートだよなあ。


「お父さんリュウジは読み書き出来てアバカスも使えるよ」

「それは凄いなあ、寺子屋の実績があれば、教会で坊さんになって貰う所だけどなあ」

「いやあ、坊さんは勘弁だよ」


 中世世界のインテリといえば、絶対的に教会の神父さんである。

 村の寺子屋も日曜日に教会の礼拝後に行われる。

 知能が高い子供達に、教典を使って読み書きを教えて、ちょっとした算数も教える、のが村の寺子屋の正体だ。


 魔法の使えるインテリの子供は領主さまに雇われて軍に入り、魔法師として戦う。

 治癒魔法が使える女子インテリは、尼さんになり、凄い魔法が使えると聖女さまになる。

 魔法が使えないインテリの子供は坊さんになって一生を勉学に費やし、教会組織の末端として、村々に派遣されて神父さん活動をするわけさ。

 そこからちょっと落ちるインテリは領館で文官に雇われたり街の商会に丁稚として貰われていったりするな。


 クララが丸い大きな目で俺をじっと見ていた。

 ふふ、俺に惚れるなよ、というか、チート能力は貰って無いけど、前世日本の記憶だけで相当チートだよな。

 俺は自分の記憶だけで成り上がる、と宣言したので、過去記憶チートはセーフなのである。

 うんうん。


 うひひ、夏祭りにはクララとイチャイチャして、将来は村長の家に婿入りか。

 まあ、それも良いが、俺はグルメで成り上がりたいなあ。

 どこかで料理修行をしたい物だけど。


「うおおおおおおんっ!!」


 急に大声の泣き声が聞こえた。


「な、なんだ?」

「なんだろう、庭みたい」

「なんじゃろうかの」


 村長と俺とクララで庭先に出てみると、村の貧農仲間のカトリが地面に突っ伏して号泣していた。


「ど、どうしたカトリ?」

「芋がっ、うちのスダラ芋がっ、全部水芋になっちまった~~!!」


 そう言うとカトリは地面を握りしめて号泣した。

 俺達は顔を見あわせた。


 水芋、それはヤベエ。


「そりゃいかん、カトリ畑に案内せい」

「うおおおおんっ、もうだめだああ、俺の家は潰れだあああっ!」


 俺達はカトリの家の畑に向かった。

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