とりあえず、二人分のなめらかスダラマッシュを作った。
先の茹でマッシュの盛り付けを参考に、洒落たお皿に、ちょっと綺麗に盛り付けてみた。
チェシャ菜っ葉を飾り付けてと、うん、良い感じ。
ここは塩も砂糖も使って良いみたいだね。
まあ、マッシュスダラに砂糖使う事はないんだけど。
「味を見てえから、ここにちょっとよけろ」
「はい、わかりました」
フリッツさまの言う通りに少し、なめらかスダラマッシュを皿にとり分けた。
御領主さま用とお嬢様用のお皿を盛り付けた。
のっぽの人が配膳メイドを呼ぶとワゴンに乗せて運んで行った。
フリッツさまはなめらかスダラマッシュを口に含んで噛んでいた。
「ふむう、確かに食べた事無い感じだな。蒸すか、こんな滑らかな芋のペーストはねえなあ」
「なかなかいけますね、バターがふんわり掛かってる」
「親父と妹のリクエストだ、これからスダラマッシュはお前が作れ、わかったか」
「わかりました、フリッツさま」
とはいえ、毎食同じスダラマッシュでは芸がないなあ。
食材が自由に使えるなら、サラダにしたり、挽肉を入れて焼きマッシュとかも美味そうなんだが……。
どこまでやって良いか解らないから、手探りで徐々にやっていこう。
「食材はどこまで使っていいんですか」
「ああ、お前、肉とかハムとかソーセージとか使うつもりか?」
「あ、いえいえ、野菜を付け合わせにしたいと思いまして」
「野菜か、野菜は有る物を好きに使って良いぞ」
「ありがとうございます。フリッツさま」
「リュージよ、親父に気に入られてるからって、良い気になるんじゃねえぞ」
「はい、わきまえております」
フリッツさまはブツブツ言いながら控え室に入っていった。
若手のケハンさんが肩を竦めて微笑んだ。
――まあ、いろいろ大変だが、ガンバレよ、俺はなれなれしくしないけど、お前の事は嫌いじゃないからさ。
とでも言っているようだね。
それぞれの料理人はそれほど悪い人という訳ではないようだ。
とりあえず、掃除用具の場所を教えて貰い、厨房の清掃をしながら、道具を見たり、どんな素材があるか観察した。
ソバカスでジト目の若いメイドが俺を見ていた。
「なに?」
「床掃除はあたいらがやんよ。料理人は食器とテーブルの上だけでええんだよ」
「そうなんだ、ありがとう、ええと」
「マリラだよ、リュージさん」
「よろしくね、マリラさん」
マリラさんはモップで床を掃除しはじめた。
なかなか手際がいいね。
料理人は、晩餐の準備が始まる三時までは控え室で適当に時間を潰して良いらしい。
「領館のどこまで行っていいのかな?」
「料理人控え室、厨房、裏庭ぐらいだあねえ。他の所に行くと怒られるさ」
「ありがとう」
裏庭も良いのか。
というか、昼食は出ないのかな。
のっぽの人が厨房で簡単なサンドイッチを作ってマリラさんにも渡していた。
物欲しそうにしていたら、控え室の方をのっぽさんはうかがってから、俺の方にそっとハムサンドイッチの皿を押し出した。
「ありがとうございます」
のっぽさんは微笑んで黙って口に人差し指をあてた。
フリッツさまには内緒、という事らしい。
ありがたい。
厨房で立ってもそもそ食べていたら、マリラさんがお茶を入れてくれた。
おお、暖かいお茶はありがたいね。
「まあ、慣れるまで我慢しなよ。フリッツさまはアレだけど、役に立つって解ったら態度も変わるしさ」
「ありがとう、嬉しいよ」
マリラはジト目でこちらを睨んだ。
「あんたはなんかチャラ男だね」
「そんな事はねーよ」
「どうだか」
シャーロッテさまが厨房にやってきた。
「リュージさん、さすがだわ、滑らかですごく美味しかったわ」
「ありがとうございます」
「晩ご飯にもスダラマッシュをお願いね」
「かしこまりました」
シャーロッテさまは満面の笑顔を振りまいて帰っていった。
うんうん、カトリんちの水芋は美味しいからね。
大好物になってくれて嬉しいね。
晩ご飯のスダラマッシュには、もうちょっと野菜を付けるかなあ。
キュウリとか、人参の甘く煮た奴とか。
ああ、でも砂糖とか使って良い物か解らないな。
今日の所は生で使える菜っ葉系と、キュウリ系を添えるかな。
トマトとか使いたいんだけど、見当たらないんだよなあ。
まだ南米あたりから来てないのかもしれない。
というか、異世界だから南米に生えているかも解らない。
とりあえず、南米系作物のトマト、トウモロコシ、ジャガイモは無いようだ。
胡椒はある、青唐辛子もあるね、ただ、大豆系は無いようだ。
歴史的な欧州中世な感じの作物っぽい感じだよ。
領館に入った事で、塩とバターは好き放題つかえそうだ。
砂糖はフリッツさまに断らないと使えないっぽい。
胡椒も宝物っぽくフリッツさまが金庫に入れているな。
とりあえず、領館の厨房で色々と覚えたりしようではないか。