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第6話 占いに振り回されて

途中休憩を取りながら歩き通し、日も落ちかけた頃。

その日はとうとう隣町近くの森の入り口で野宿となってしまった。

街はもう少しの所だが、無理をせず野宿に決めたのだ。

何より、サラを背負ってきたリュートが、すっかりくたびれてしまっていた。


「ああ、疲れた。俺は腕がもう動かん。」


小さな湧き水の流れで喉を潤し、倒れた木にドスンと座ってリュートが肩をほぐす。


「あら、なんとだらしのない騎士殿だこと。」


「なにい?お前さんはずっと背負われてただろうが!」


「だって、足が痛かったんですもの!仕方ないでしょ!」


突っかかる彼女をクイッと引いて、ファルーンが森を指さす。


「主様、暗くなる前に薪を拾いに行きましょう。日が暮れると真っ暗になりますよ。」


「あら、それは嫌だわ。そう言えば火はどうするの?ここには火種がないわ。」


「ええ、火は木をこすって起こすのです。」


「まあ、すごいわ。何もない所から火が出るの?魔法みたいね。」


「魔法か、そりゃあいいな。」


クスッと横でリュートが笑う。

火をおこすのがどれほど大変なのかも知らないのだろう。


「そう言えば食べ物は?あるの?」


「先ほどの街で買ってきたパンと干し肉もありますが、他にも森で探してみましょう。」


すっかりくたびれ果てたリュートをよそに、ファルーンとサラが森へと薪を取りに行く。

サラはすっかり野宿が楽しい様子ですべてが物珍しく、その後取った粗末な食事もあまり苦にならないようだった。


「ああ、なんだか、こんな物なのに今まで食べたどんな物より美味しかったわ。さぞ上等のパンなのね。」


「いいえ、普通の方が作った、ごく普通のパンです。

のどが渇けば、ただの水さえどんな美酒にも勝る。それと同じでございましょう。」


ファルーンが、ハープを取り出し弦をはじく。

すると横になってウトウトしていたリュートがヒョイと起きあがり、サッとそのハープを取り上げた。


「ふうん、特に変わった所はないようなのにな。ちょいと古くて装飾が上品だ。」


「ありがとうございます、お返し願えますか?」


ファルーンの差し出す小さな手を見て、ほくそ笑みながらハープを返す。ポロポロと奏で始めた彼に、リュートが身を乗り出してきた。


「そのハープ、譲っては貰えんだろうか?」


「な、なんですってえ!」


突然、彼女が立ち上がった。


「駄目よっ!そんな事絶対に許しません!」


「いや、君には言ってないんだけどね。」


「これはファルーンが持ってるけど、元々は私の物です!譲るなどあり得ないわ!」


「そんなに興奮しなくても良いじゃないか。それとも、何かいわれでも?」


うっとサラが詰まってファルーンの顔を見る。

「えーと……」考えて、ポンと手を打った。


「そうよ、これは大切なご先祖様からの家宝なの。弾き手を選ぶからこの子に貸しているのよ。」


これはウソじゃない。


「ふうん、家宝ねえ。」


しかし意に反して、彼の顔はますます怪訝に目を光らせる。


「何故、ハープをお探しですか?」


ポロンポロンと奏でながら、ファルーンが聞いた。

リュートがフッと笑いながら、その場にまた横になる。

満天の星空は、澄んで吸い寄せられるように美しい宝石箱のようだ。

星が一つ流れ、それを追いかけるようにもう一つ流れた。


「占いさ、それを求めると良い事があるとね。

だから、ずっと探して旅をしているんだ。」


ポロン、ポロポロポロ……ポロン


シンとした空気に、ハープの音が響き渡る

サラが、フッと力無くその場に座りそして横になった。


「占いって、何なのかしら。小さい頃から、それにずっと振り回されている気がするわ。

ああ、ハープの音色が風のささやきのよう。

美しいこの時間が、ずっと続けばよいのに……」


スウッとサラが眠りにはいる。

ファルーンは弾く手を止めて、背負ってきた袋から小さなブランケットを取り出し、彼女の身体にそっとかけた。


「占いは、人を導くきっかけに過ぎません。それに飲まれるは愚かなこと。

人の弱さは、人にしか乗り越えられないのですから。」


「フッ、お前から皆にそう言ってくれるかい?お嬢さんと同じく、振り回されるのはもう散々だ。」


ため息をつく彼にクスッと微笑み、ファルーンがハープを一つポロンと奏で、リュートを真っ直ぐに見つめる。

その眼は青い瞳に赤い炎をうつし、妖しげな雰囲気を醸していた。


「今こそ、転機を迎える準備をする時なのです。この旅は、あなたに大きな出会いをもたらした。」


突然の予言に、リュートがごくんと息を飲む。


「それは……」


起きあがり、正面にあぐらをかいて腰を据えた。

そうしなければ、何故かこの小さな少年に気圧される、そんな雰囲気が漂っている。


「それは、お前の占いか?お前は、何者だ?」


「ふふ、申し上げたはず、占いなどただのきっかけに過ぎません。このハープがそう申しております。」


「その、ハープは弾き手を選ぶと言ったな。子供ならば、お前と同じに弾くことが出来るのか?」


「さあ、このハープは気むずかしいですよ。機会が有れば試してみると良いでしょう。」


フフッと笑ってハープを枕元に置き、サラの足下に横になる。

怪訝な顔で、ため息をついてリュートも倒木にもたれた。

ファルーンの枕元のハープから視線が離れない。

大きくため息をつき、目を閉じた。



 辺りはしんと静まりかえり、ただ虫の声と星の瞬きだけが広がっている。

暫し時が過ぎ2人がすっかり寝入った頃、倒木にもたれて目を閉じていたリュートの背後から、かさりと忍ぶ足音が近づいた。

それに気が付いて、リュートが動かず目を開く。


「お前か……」


「ここに」


ささやく声に、リュートが身を起こす。

安心して眠る2人の寝顔をじっと見つめ、そして暗い空を見上げて目を閉じた。

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