目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第3話「スライドショーで下校報告?そして、伝説の部長からの挑戦状」

帰宅部——それは部活じゃないフリをした、もはやカルト。

俺、秋山翔太は、まだ断固としてその宗教に入信するつもりはない。ないったらない。断じて。


でも気づいたら、またあの部室にいた。


「秋山くん、来たねぇ〜♡」


出迎えたのは、風間ルイ。

副部長にして、謎のテンション担当。今日もアロハシャツ。六月の日本はまだ肌寒い。


「いやいやいや! 俺は入部届出してないからな!?ていうか誰!?前とメンツ違くない!?」


「いや〜前の人たちはねえ、役者さんなんだよ〜。少しでもまともに見せられるようにって!あと、安心して! 帰宅部には“入部意思”なんて不要なの♡」


「新興宗教か!ていうかまともじゃない自覚あったんだね!」


部室のソファ(なぜある)に投げ込まれた俺の隣に、また一人、奇妙な存在感の女子がちょこんと座っていた。


「にゃぁ……」


「猫語!?」


「猫山みけです。帰宅部では“自称・猫の気持ち代弁士”をやってます。きのうの帰り道では、電柱にスリスリしてる黒猫と会話して帰宅しました」


「怖いわ!! お前が電柱にスリスリしてたとかじゃないよな!?」


「にゃふっ(照れ)」

――なんだそのリアクションは。保健室に一度戻れ。


続いて現れたのは、ゴリラの化身かというぐらいのガタイの男、山田ゴンザレス(※日本人)。


「遅れてすまん! 今日も“背負い投げで帰宅”してきたぜ!!」


「……それ帰宅途中に戦闘イベントある前提だよな?」


「もちろんだ! 駅前で俺のライバル(近所の犬)と再戦してきた!」


「無駄なバトル展開いらねぇよ!」


……とまぁ、初参加ながら早速心が折れかけていたところで、副部長が唐突に叫ぶ。


「ではーー! 帰宅部! 今日も活動開始します!!!」


「活動しなくていいのが帰宅部の定義なんじゃないのか!?」


風間はにやりと笑い、スライドリモコン(そんなもんあるのか)を構えた。


「では、今日のトップバッター、猫山さん、よろしくどうぞ!」


照明が落ち、部室の壁にプロジェクター映像が浮かび上がる。


スライド1枚目——

《タイトル:にゃんこ的、月曜日の帰宅道》


「まずは、スズメちゃんに遭遇した話です。どうやら私に恋していたみたいで、木の上からチュンチュン鳴いてました」


「その被害妄想、そろそろ動物にも通報されるぞ……」


続くスライドは、空の写真、電柱の写真、そして“道路の小石”のドアップ。


「小石……?」


「にゃふ。これは踏んだ瞬間、語りかけてきた小石さん。『今日も一歩ずつ進めばいいんだよ』って」


「こいつ、帰宅中にRPGの村人NPCと会話してる……!」


次はゴンザレス。


《タイトル:汗と涙の帰宅ロード〜犬との戦い再び〜》


スライド1:筋肉の写真(※自撮り)

スライド2:犬の写真(※遠くからズーム)

スライド3:なぜか書道で“勝利”と書いた色紙


「犬との戦い、激戦だった……が、俺は勝った! 背後に回って無言の圧をかけたら、犬が吠えるのやめた!」


「それ勝ったんじゃなくて、怖がられただけだろ!?」


「ふふ……犬とは心で会話するものさ」


「そういうのは猫山さんの担当だろ!」


……そして、ついに俺の番が来た。


「翔太くん! 初報告いってみよう! スライドないだろうけど、言葉で語って!」


「スライドあったら逆に怖いわ!」


緊張の中、俺は立ち上がる。


「えーっと……昨日の帰り道、コンビニで肉まん買って……」


「いいね!」


「でも買った直後、落として……」


「悲劇!」


「そのまま3秒ルールで拾ったら、店員さんに『お客様、あの…』って言われて……」


「恥辱!!」


「なんなんだこのノリ!!」


報告会(?)は無事終了した。いや、してない。俺の精神は破壊されかけている。


そしてそのときだった。風間が、封筒を取り出した。


「これ、今日も部長から届いてたやつ。例の“メッセージ”だ」


部長。

俺はいまだその姿を見たことがない。

伝説のポ◯モンみたいな扱いのその存在からの手紙には、いつもこう書かれている。


『おつかれさま。今日の活動報告、スライドにハートが足りません。次回はもっと愛を込めて。あと、翔太くん、君のツッコミ力に期待してる。』

「なぜ俺の名前を!?」


「うちの部長は、見てるからね……どこかから……たぶん屋根裏とか」


「いや、やめろ! ホラーかよ!!」


こうして、俺はまた一歩、「入った覚えのない部活」に絡め取られていく。


でも、心のどこかで少しだけ、思ってしまったのだ。

「次は、もうちょっとマシな帰宅報告ができるようにしておこう」って。


そんな自分が、一番こわい。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?