帰宅部。
それは部活じゃないようで、部活してるようで、やっぱり部活じゃない。
でも部室があって、スライドショーまである時点で、もう立派な部活じゃないのか。
そして俺はまだその帰宅部に正式に入っていない。なのに、今日も部室に来てしまっている。
なぜかって?
昨日、副部長からLINEでこんなメッセージが届いたからだ。
【緊急帰宅部召集】
明日は“自由な制服の日”です♡
各自、自分の思う“制服”で登校してください!
なお、報告内容は“制服で起きたトラブル”縛りでお願いします!
以上、副部長より♡
……もう意味が分からない。
「制服って普通、学校指定のやつだろ!?」
と叫んでも誰も耳を貸してはくれず、翌朝、俺は恐る恐る教室のドアを開けた。
「おはよー!」
「おはよう、にゃふっ♡」
「おい」
俺の目に飛び込んできたのは、セーラー服(明らかにサイズ合ってない)を着た女子……ではなく、猫山みけ。
「その制服、どこから持ってきたんだ」
「フリマアプリでポチッと。ネコ科はセーラーが似合うって古事記にも書いてあるよ?」
「書いてねぇよ!! 古代の書物を勝手に捏造するな!!」
さらに後ろからは、
「ドーモ、センセイ、帰宅部ノ一員デス」
と日本語怪しい感じのテンションで登場した、山田ゴンザレス。
いや、どう見てもただの忍者コスプレだ。しかも完全武装。
「それ“制服”じゃなくて“変装”だからな!?」
「ふふふ……我が一族ではこの服装が正装。帰宅とは即ち、生還。すなわち生きる戦だ」
「出席すらバトル扱いしてんじゃねぇ!」
そして最後に現れたのは――
「待たせたな……ッ!」
「……お前は何なんだよ、副部長・風間ルイ!!」
彼が着ていたのは、なぜか**警察の制服(本物っぽい)**だった。
なんでだ。なぜそこまで“制服”に命かけた。
「帰宅とは、秩序を守り抜いた者への報酬……つまり、俺は帰宅警察だ!」
「何それ怖い!! 全校生徒を職質する気かお前!!」
副部長はキメ顔で敬礼してみせる。
「本日、帰宅部活動報告は【制服トラブル縛り】で行います!」
部室に集まり、再び始まる謎の儀式。
スライド、光、コメント、ツッコミ、そして精神の削り合い。
【一人目:猫山みけ】
スライド1:鏡に向かって猫耳を調整する自撮り
スライド2:小学生に「ねこおばけだー!」と叫ばれた写真(ブレてる)
スライド3:交番前で職質されてる場面(顔だけ笑顔)
「通報されたにゃ♡」
「そりゃそうだ!! 不審者通報の模範例だよ!!」
「でもお巡りさん、猫缶くれたにゃ。帰宅とは、優しさの引き寄せ合い」
「その理屈、犬にも通じるのか!? ゴンザレス、次お前!」
【二人目:山田ゴンザレス】
スライド1:駅前でキセルを疑われる(忍者装束のせい)
スライド2:風のように逃げる姿(背後に謎の爆煙)
スライド3:「忍法・家まで無音帰宅!」の文字と共に玄関前で正座する自撮り
「生きて帰れた……それが一番の報告だ」
「無音帰宅って何だよ!? 音を消す必要あったか!? てか正座の意味は!?」
「母に怒られた」
「お前が悪い!!」
【三人目:風間ルイ】
スライド1:校門前で実際に本物の警察官に挨拶してる(通報されかけてる)
スライド2:教室で『なんで警察?』っていうクラスメイトの冷たい目線
スライド3:職員室で校長に呼び出されるシーン
「うん、今日は手応えあったよ。校長先生に“これは君の制服じゃないよね?”って穏やかに言われた」
「穏やかじゃないんだよ!! 校長レベルで出動させてんじゃねぇよ!」
そして、まさかの。
「では最後、翔太くん!」
「俺はまともな制服で来た! 制服トラブルなんて――」
と、言いかけて止まる。
昨日、制服を洗濯し忘れてて、妹の中学時代のブレザーを代わりに着てきた俺。
「……ありました。制服トラブル」
「おお~~!」
「嘘だろこの盛り上がり!? ていうか俺、今ブレザーのボタン閉まらないんだけど、地味にきついの!」
報告会が終わるころ、またしても副部長が一枚の封筒を取り出した。
「今日も部長からメッセージが届いてるよ」
部長。姿を見せないまま、指示だけを送りつけてくる謎の存在。
今日の手紙には、こう書いてあった。
『制服とは心の自由を着こなすもの。今日も帰宅部は自由でした。次回テーマは“帰宅中のアクシデント”。君たちならきっと、ドラマを生むだろう。P.S. 翔太くんのブレザー、似合ってましたよ』
「なぜ見てる!!??」
「部長はいつでも見てるよ……どこかで、静かに、じっと」
「だから怖いって言ってんだよ!!」