俺たちは、部長を探すため、ついに禁断の手を使った。
「いや普通、顧問の先生に部員の住所聞かんて。個人情報どこいった」
なんて、常識人の俺――翔太はツッコミつつも、結局ノってしまっているあたり、自分でも救いようがないと思ってる。
「やっばーい♡こんなことしてバレたら停学かもよ〜?」
「セキュリティガバガバかよ、この学校……」
「うっさいな〜、小野田先生が『部長のことは頼むぞ』って言ってくれたんだから、もう任務公認ってことでしょ!」
「いや、それどう考えても責任放棄だろ」
とかなんとか言いつつ、俺たちは電車を乗り継ぎ、やってきたのは東京都・目黒区。
街を歩く人々はどこか洗練されていて、コンビニの前に止めてあるチャリですら高級感がある。コンビニのパンがオシャレ。ロー◯ンのくせにバゲット売ってた。バゲット。
「ここが部長の家……ってか、マンションじゃん。めっちゃ高級そうだにゃ……!」
猫山が目を輝かせて見上げるのは、モダンなデザイナーズマンション。白と黒の直線的な外観、エントランスの自動ドア、そして……。
「ちょ、見てあれ。オートロックのくせに“故障中”って張り紙してある」
「セキュリティガバガバかよ、このマンション……」
「やば〜、部長ってこんなとこ住んでるの?マジで何者? 令嬢? 吸血鬼の末裔? 実は王族?」
それはそれで興奮するけども、目的は忘れてない。
部長――本名不明、年齢不詳、言動は常に謎。
謎が謎を呼ぶ存在、だが部のカリスマ。俺たちの活動は、いつもこの人の鶴の一声から始まる。
それでいて、連絡は一切つかない。LINEのIDすらわからない。
「部長、今日も来てないのかー」
「いないなー」
「幽霊かよ」
そんな状況が続いたため、俺たちはついに動いた。部長、確保作戦。
「さぁさぁ〜! 作戦開始だよー! 目指せインターホン♡」
「「「目指せインターホン!!!」」」
うわ、ノリノリだなみんな。声デカいし、近所迷惑もいいとこだぞ。
あと、こんなところで伏線回収するな。
「……というわけで、作戦開始!」
「作戦って、インターホン押すだけじゃん」
「いやいや、大事なのは誰が押すかでしょ!」
まぴが言うと、全員の視線がゴンザレスに集まる。
「ピンポンは……ゴンザレス、君に決めた!」
「ゴンッゴンゴンゴンッ!ゴンゴンッゴンゴンッ!!(おお、ポ◯モン風だね! 拙者、ピンポン任務、全力で遂行いたす!!)」
「だからノるなっつってんだよ……」
しかしもう止まらない。
ゴンザレスは真っ直ぐにインターホンへ向かい、まるで戦国時代の忍者のように正座した。
「ゴンッゴンゴンッ!!!(ごめんくださーいでござる!!!)」
ぴんぽーん。
……少しの沈黙。
「はーい」
女性の声が、インターホンから返ってきた。
柔らかく、それでいてどこか“仕組まれた感”のある声音。
「なにごと?」
思わず俺は声を漏らした。
その瞬間、ドアが開いた。重厚な音と共に、現れたのは――
「こんにちは~。
黒髪のロングストレート。紺色のワンピース。瞳は琥珀色。
年齢不詳。中学生にも、大学生にも見えるが、絶対にただ者ではない雰囲気。
「え、ええと……部長のクラスメイトの、翔太と申します……あの、こちらにいらっしゃるかと……」
「……あらあら、彰人。ふふ、来客だって。珍しいわね」
「え? え、どこ?」
返事がない。
いや、明らかにこっち向いて言ったよね? 誰に? どこに?
まぴが小声で言った。
「……ねえ、今の声、誰に話してた?」
「わからん。でも……空間に誰かいるみたいだった」
まぴも真顔になる。俺もなんとなく感じる。誰かに見られてるような、ヒリヒリとした空気。
「ごめんなさいね。彰人、今日はお休み中なの。よかったら……お茶、でも飲んでいく?」
「……いえ、そ、それはまた改めて……!」
黒川がやたら早口で断った。冷静ぶってたやつが一番ビビってるじゃねーか。
「そう、残念ね。あ、でもこれ、彰人から。何かあったら渡してって」
彼女はそっと、俺の手に何かを押し付けてきた。
小さな……紅い封筒?
それは、まるで俺たちが来るのを予感していたかのように渡された。
宛名も、差出人も、何も書かれていない。
でも、たしかにそこには“部長”の気配がした。
「え、なにこれ、手紙?」
「さあ。中を開けてみて?」
俺たちが戸惑う中、彼女は微笑んだ。
「ふふ、びっくりすると思うわ」
カツン、とヒールの音を響かせて、彼女はドアを閉めた。
沈黙。
「……こっっわ……なに今の」
「おばけ……?」
「まさか……部長って、本当に“この世の者”じゃないのでは……」
それぞれが妙なことを呟き始める。
そして俺は、まだ封筒を開けられずにいた。