四王の屋敷で、
理由もなく、胸にぽっかりと穴が開いたような虚しさが広がる。何か、大切なものを喪ったような気がした。
──錯覚だ。
彼は
静かに眠る彼女の姿を見て、ふと、宮中に残してきた
彼女は眠る時いつも体を小さく丸めて、眉を寄せていた。
まるで数えきれないほどの不安や苦悩を一人で抱えているかのように。
突然、陸青儀のまつげが微かに揺れ、ゆっくりと目を開いた。
彼女の視線が軒轅翊の姿を捉えた瞬間、瞳が喜びで輝いた。
「陛下……お救いに来てくださったのですね? 本当に痛くて、怖くて……もう、このまま死んでしまって、陛下に会えずに終わってしまうかと思いました……お嫁に行くこともできずに……」
最後の言葉は言い切らなかったが、軒轅翊には十分に伝わっていた。
彼は冷たく、よそよそしく立ち上がると、淡々と言った。
「解毒に支障がなければそれでよい。朕は用事がある。戻る」
陸青儀は慌てて起き上がり、大胆にも彼の垂れた手を取った。
「陛下……少しだけ、ここにいてくださいませんか? 今回の毒は、偶然ではないと思うのです。
あの日……妹が陛下に罰せられたのを恨み、人を使って私に毒を盛ったのだと思います」
「これまで屋敷で恨みを買ったことはありません。私を憎むとしたら、妹しかいません。
あの日、私は彼女に罪を認めるよう説得しました。でも彼女はかたくなに拒み、脅してきたのです。
“もし再び陛下の寵愛を受けたなら、必ず復讐してやる”と……」
「まさか、こんなに早く復讐されるとは思いませんでした……」
そう言って、彼女は弱々しく口元をハンカチで押さえ、咳き込んだ。
ハンカチには、まだ解毒しきれず滲み出した黒い血が染みていた。彼女の体はふらつき、今にも倒れそうだった。
軒轅翊はその様子を見つめながらも、冷たい目を細め、ためらいなく言い放った。
「彼女の仕業ではない。あの女は臆病で、そんな策を巡らすことも、実行する勇気もない」
その言葉に、陸青儀はぎりっと歯を食いしばり、瞳に一瞬、獣のような光が走った。そして、静かに言い換えた。
「……そう、かもしれませんね。私がたまたま運が悪くて毒にあたっただけかもしれません。
でも、もし私が死んでしまえば……妹が寵愛を受けることになるのでしょうね。彼女にとって、それが幸せかもしれません」
「朕が調べさせる」
軒轅翊は心を揺さぶられ、結局、陸青儀の言葉を受け入れた。
宮中へ戻る道すがら、夕暮れが空を染めていた。
李公公が青ざめた顔で彼を迎え、声を震わせながら告げた。
「陛下……依霜お嬢様のご在所、
「いかなる手を尽くしても、火の勢いは止められず……」
「依霜様は……お亡くなりになりました!」
その報に、軒轅翊は雷に打たれたかのようにその場に立ち尽くし、長く動けなかった。
視界が真っ暗になり、耳鳴りが止まらなかった。
今の言葉が幻であってほしいと、心の底で願った。
ようやく声を絞り出す。
「
「貴様は陸依霜と朕を欺いているのではないか?
彼女を密かに宮の外へ逃がしたのだろう?! 貴様、よくもそんな真似を――!」
軒轅翊は康海の首を締め上げ、今にも息の根を止めんばかりだった。
その目は真紅に染まり、まるで嵐の前の静けさのような、張りつめた殺気に満ちていた。
それでも康海は罪を認めず、ただ必死に許しを乞うばかりだった。
「陛下……わらわは、本当に何も……どうか、儲秀宮をご確認くださいませ……どうかお怒りをお鎮めください……」