軒轅翊はしばらくの沈黙ののち、深く息を吸い込むと康海を突き放し、全速力で儲秀宮へと駆けた。
***
火は丸一日燃え続け、儲秀宮の建物と庭はすべて灰と化していた。
空気には焦げ臭さが漂い、かつて朱塗りだった宮の壁は黒くすすけ、原形をとどめていなかった。
調度品のほとんどは焼け落ち、寝台のあった場所には、黒く焼け焦げた一体の遺体が、不自然に身を丸めた状態で横たわっていた。
まるで、死の間際まで激しい苦痛にのたうち回っていたかのようだった。
その光景を見た瞬間、軒轅翊の瞳孔が縮んだ。
心臓にぽっかりと空いた穴が、血を流すように痛んだ。
──陸依霜が……死んだ?
なぜだ? 昨夜までは元気だったではないか。
今夜、共に眠ると約束したばかりだったではないか――!
軒轅翊は拳を握りしめ、指から血が滴り、焼け焦げた地面を赤く染めた。
「儲秀宮の火災を徹底的に調べろ! 犯人が見つからなければ、貴様ら全員、首をはねる!」
怒声とともに、額に青筋が浮かぶ。
理性をほんの少しでも失えば、すぐに刀を抜いて斬り伏せていただろう。
周囲の者たちは皆、恐怖で震えあがった。
陛下がここまで怒り狂ったのは、陸家の令嬢が他家へ嫁いだ時以来だ。
今回は――それ以上だ。
重々しく命令が下されると、誰もが怯えながらも、即座に捜査へ動き出した。
天は曇り、雷が空を裂き、やがて激しい雨が降り出した。
焼け焦げた遺体のそばには、炭化した装飾品が散らばっていた。
かつて彼が贈ったものだ。
手首に残った腕輪。衣の切れ端。
どれも、遺体が陸依霜であることを示していた。疑いようがなかった。
たとえ帝王であっても、財宝を山のように持っていても、もう彼女を取り戻すことはできない。
胸をかきむしるような後悔が押し寄せ、軒轅翊は胸を押さえた。
だが痛みは止まらず、激しく全身に広がっていった。
「陸依霜……」
軒轅翊は、嗚咽をこらえながら名を呼んだ。
黒く焼け焦げた遺体が、今にも風で吹き飛びそうで、彼の手は震えて触れることさえできなかった。
もし触れてしまえば、彼女が粉々になってしまいそうで――
雨が容赦なく降りしきり、すべてを洗い流そうとしていた。
軒轅翊はついに冷静を装えなくなり、遺体を抱き上げようとした。
だが、焼け焦げすぎた遺体はもろく、骨が音を立てて地面に崩れ落ちた。
その瞬間、彼の動きが止まり、目には狂気を帯びた冷たい笑みが浮かんだ。
「陸依霜……言っただろう。お前は永遠に、俺から逃げられないと」
「死が解放だと思うか? そんなことはあり得ない」
「たとえ地の果てでも、黄泉の国だろうと、追いかけてやる。
お前を連れ戻し、俺のそばに閉じ込め、永遠に……苦しめてやる!」
彼は地に散らばった骨を、執念深く拾い集めながら、願った。
この身に溶け込ませて、永遠に共にあらんことを――。