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第10話

透き通った氷のひつぎの中に、ひとつの焼け焦げ、見るも無残な遺骨が丁寧に組み直され、静かに横たわっていた。


軒轅翊ケンエンヨクはその姿をじっと見つめ、まるで生前の陸依霜リクイソウが穏やかに眠っているかのように、静かに視線を這わせていた。


彼女はもう、二度と目を覚まさない。あの頑なでまっすぐな瞳で、自分を見つめることもない。


胸を突き刺すような痛みと喪失感は、かつて陸青儀リクセイギが他人に嫁いだ時よりも、はるかに激しかった。


――かつて、彼にとって陸依霜はただ怒りをぶつけるための存在に過ぎなかった。


いつからだろう。彼の心の中で、彼女の存在がこんなにも大きくなっていたのは。


軒轅翊自身にも、それはわからなかった。


だが今、彼はただひたすらに願っていた。今この瞬間、彼女が生きて戻り、目の前に現れてくれればと――

たとえ怒りに満ちた目で睨まれようとも、こんな無言の骸よりは、どれほどましだったか。


けれど、それは叶わない。


彼は深く、絶望の底へ沈み、声もなく悲しみに暮れていた。


そこへ李公公が震える声で入ってきた。


「陛下……儲秀宮チョシュウキュウの火災、つい先ほど調査を終えました。

誰かが陸依霜お嬢様を故意に傷つけた形跡は、ございません。これは……これは……」


言葉に詰まり、真実を口に出すことができず、彼は苦しそうに顔をゆがめた。


軒轅翊の眼光が鋭くなる。


「どういうことだ。言えぬのなら、その首を刎ねるぞ!」


李公公は震えながら死を覚悟し、言葉を搾り出した。


「……依霜お嬢様ご自身が……火を放たれました。誰の手によるものでもなく、ましてや外へ出る姿を見た者もおりません。

あれは……自ら命を絶たれたのです……!」


その瞬間、軒轅翊の心臓は鈍器で殴られたかのように激しく痛み、呼吸が止まった。


「自ら死を選んだ……だと?」

彼は自嘲するように笑った。


「朕が彼女に、そんなにも酷く接したとでも? それほどまでに、朕の元を離れたかったのか……?」


「自由以外、何を奪った? 何を粗末に扱った?

朕から逃れるために、自ら命を投げ捨てるとは……!」


その胸は、無数の刃でかき回されるような激痛に苛まれた。


その目尻からは、一滴の鮮血のような涙がこぼれ、氷の棺に滴った。

真紅のそれは、白き氷の中に鮮烈な色を落とし、視界を焼いた。


康海コウカイはそっとうつむき、深く息を吐いた。


「陛下……わらわが、僭越ながら申し上げます」


「依霜様は、元来とても頑固なお方でございました。

あの件も、彼女が原因ではなく、彼女の父親に巻き込まれたもの。

ここに入ったのも彼女の本意ではなく、望まれたものではございません。

この五年間、どれほどの罰を受け、どれほど苦しみに耐えてこられたか……皆、知っておりました。

年季が明け、宮を出られる日をひたすらに待っておられたのです」


「もし宮中での暮らしがほんの少しでも心安らぐものであれば、きっとご自分の意思で残られたでしょう。

しかし、ここ数日の仕打ちは、彼女にとって……生きるよりも死の方が救いだったのかもしれません」


「陛下……もし彼女を想うお気持ちがあったのであれば、もっと他の道があったはず。

想っておられなかったのなら、なぜ自由にして差し上げなかったのですか?

なぜ、あれほどまでに閉じ込めてしまわれたのですか……」


康海の言葉に、軒轅翊の脳裏には、ここ数日の出来事が鮮やかによみがえった。


――彼女が罰を受ける姿、泣きもせず耐え抜く横顔、痛みに唇を噛みしめる背中。


彼は、唇を強く結び、瞳は暗く沈んでいた。


長い沈黙の後、彼は喉の奥からかすれた声を絞り出す。


「朕は……彼女を気にかけてなどいない! 死のうが、生きようが、朕には関係ない!」


「彼女が自ら死を選んだだと? そんなはずはない。

朕は信じぬ! 必ず誰かが、彼女に何かをしたのだ! 朕の目の届くところで、よくもそんな真似を――!」


「引き続き調べよ! この数日、陸依霜に接触した者全員を尋問せよ!

彼女が自ら命を絶ったとは、朕は断じて信じぬ!」


その目は怒りに燃え、呼吸も荒かった。


康海は無念を抱えながらも、深くうなずいて退こうとした。


その時――


陸青儀の侍女が現れ、面会を願い出た。


「陛下……どうか、わたくしの王妃のために正義をお示しくださいませ!

王妃様に毒を盛った者がすでに捕まり、自供しております。依霜お嬢様に買収されたと……!」


「証拠も揃っております。

彼女は、王妃様を殺そうとしたのです。それほどの悪意を持ちながら、王妃様はお優しく、姉妹としてかばっておられます。

一時の過ちとして咎めるつもりはないと……ですが、わたくしには耐えられません!」


「どうか陛下、依霜お嬢様を罰し、王妃様の清き名誉をお守りくださいませ! 世間に対しても、説明が必要でございます!」


侍女は嗚咽混じりに叫びながら、地面にひざまずき、何度も頭を打ちつけ、すぐに額から血が流れ始めた。


李公公の顔色はさらに沈み、軒轅翊の表情は墨を流したように暗くなった。


彼は黙って侍女の前へ進み出た。

その黒い瞳には、底知れぬ怒気が渦巻いていた。


どん、と重い音を立てて――


軒轅翊は侍女を蹴り飛ばした。


「説明だと? 陸依霜が毒を盛ったと、誰が証明した?

彼女は、もう……死んでいるのだ!」


侍女は遠くまで吹き飛ばされ、壁に激しくぶつかり、血を吐き、信じられないという表情で軒轅翊を見た。


「ど、どうして……」

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