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第13話

陸家が陸依霜りくいそうを宮中に送り込んできた当初、軒轅翊は確かに、積もった怒りを彼女にぶつけていた。

しかし、彼が彼女を陸青儀りくせいぎと見間違え、寵愛したあの日から――全てが変わった。

彼だけが知っている。その夜、自分は完全に意識を失っていたわけではないと。

途中で正気に戻った。それでも、彼は続けることを選んだ。


その後、寵愛を重ねるたびに、軒轅翊の心は深く沈むと同時に、恐ろしくなった。

理性は叫んだ――陸依霜など、これ以上気にかけるべきではないと。

だが、心はそれを許さなかった。

五年間の寵愛。彼はそれに溺れた。

なのに、陸依霜だけはいつも醒めていた。いつも離れようとした。

なぜ、この五年以上もの間、彼女は自分に、少しも気をかけてくれなかったのか?


軒轅翊は悔しかった。同時に、そんな彼女を想う自分を嗤った。

辺境の十二城を奪還することはほぼ確実だったが、いつの間にか、彼は陸青儀を宮中に奪い戻すことなど考えていなかった。

陸青儀への想いは消えていた。だが、今の彼は陸依霜を手放せなかった!

『ふっ…馬鹿げている。俺は…単なる憂さ晴らしの道具に、心を奪われてしまったのか?』

軒轅翊の心に言えない感情が渦巻いた。

彼は短剣の柄を握りしめ、一瞬の迷いもなく、自らの胸へと刃を押し込んだ。


「ぐっ…!」

心臓を切られるような激痛。意識が遠のきそうになるのを、歯を食いしばって耐えた。

「陸依霜…いつか…戻ってきたら…この償い…必ずさせてやるからな…!」

かすれた息を吐きながら、彼は呟いた。心臓から滴る血が一滴、器に落ちた瞬間、皇帝の顔は一気に青ざめた。

医者たちが慌てて駆け寄り、手当てを始めた。


一方、康海はすでに、陸依霜が養心殿ようしんでん(皇帝の宮殿)に残した肌着を手に入れていた。

小さな衣が灰になるのを見つめながら、軒轅翊は唇を固く結んだ。しかし、心の底には不安が消えなかった。

「こんな方法で…本当に彼女は生き返るのか?」

だが、他に方法はなかった。


軒轅翊は侍従たちに支えられながら養心殿へ戻り、差し出された滋養強壮のスープを口にした。

一口味わうと、彼は思わず顔をしかめ、碗を脇へ置いた。

「…まずい。陸依霜、残りはお前が飲め。」

冷たく言おうとした声は、弱々しかった。


しばらく沈黙が流れた後、一人の宮女が恐る恐る言った。

「陛下…あの…依霜様は…もう亡くなっておられますが…このお吸い物、私がいただいても?」

「…っ!」

軒轅翊は一瞬、ぽかんとした。次の瞬間、怒鳴った。

「下がれ!」

宮女は震えながら退いた。皇帝は、冷めかけたスープの碗を虚な目で見つめた。


陸依霜が、おとなしくスープを飲む姿が目に浮かんだ。

思わず手を伸ばしたが、触れたのは冷たい器の縁だけだった。

『もしかすると…陸依霜は…朕の心の中で、思っていたよりずっと大切だったのかもしれない…』

そう思い、軒轅翊は無言で残りのスープを全て飲み干した。


夜が深まった――

身の回りは空っぽで、冷たかった。どうやっても温まらない。

まるで、陸依霜が初めからいなかったかのように。

目を閉じれば、陸依霜の顔ばかりが浮かぶ。

彼女は彼の前では決して嬉しそうではなく、いつも不満そうで、いやいや従っているように見えた。

どんな宮女や宦官にも笑顔を見せたのに、彼の前では、ほとんど笑わなかった。

「何度思ったか…朕に一度笑うのが、そんなに難しいのか?」

「もし笑ってくれれば…もっと優しくできたかもしれないのに…願いを一つ叶えてやれたかもしれないのに…」

しかし結局、彼女が望んだのは「去ること」だけだった。


「くっ…!」

軒轅翊の胸に怒りが湧き上がった。しかし、その怒りをぶつける相手は、もういない。

どんな感情も、今は意味がない。彼女には届かない。

皇帝は一睡もできず、夜を明かした。冷たい玉座の上で、たった一人で。



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