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第19話

その言葉を聞き、陸依霜の息が詰まった。

涙で視界が滲み、全身が恐怖に震えて止まらなかった。


「夜隠、奴の手に捕まりたくない…二度と、あの苦しみを味わいたくない…」


三年が過ぎた今も、宮中での日々は深く脳裏に刻まれ、決して消えることはなかった。

あの日、二人は宮を抜け出し、潜伏を繰り返し、変装面を何度も替えながら、ようやく都を遠く離れたのだ。


今この瞬間、初めて陸依霜は、後から押し寄せる恐怖と、途方に暮れる思いに気づいた。

彼女は寵愛されない側室の娘として、苦しい生活を送ってはいたが、独りで外の世界を生き抜く経験など、まったくなかった。


成人の儀を終えるとすぐに宮中へ送られ、人の世話をする身分となり、数多の傷を負いながらも、少なくとも衣食に困ることはなかった。

自由は手に入れたが、行くあてもなかった。


そこで陸依霜は、しがみつくようにして夜隠にまとわりついた。

彼を抱きしめて放さず、彼の行く先々に付いていった。


逃亡の道中、夜隠がほとんど彼女を抱えて運び、毎日決まった時間に食べ物や飲み物を与えていたせいか、彼女が側にいることに慣れてしまい、彼は彼女を追い払おうとはしなかった。

それは、美しいペットを飼うようなものだった。


やがて時が経つにつれ、陸依霜は次第に自立し、夜隠から多くの武術を学んだ。

手元に残されたわずかな金と、かつて身につけた些細な技術、そして商売の知恵を駆使して、生きる手段を築いていった。


夜隠は時折任務に出かけ、傷を負って戻るとしばらく彼女の傍で療養し、彼女のために変装用の面を作った。


長い時間が流れるうちに、人々は二人を夫婦だと思うようになり、陸依霜もそれを否定しなかった。

なにしろ、家庭を持った女性の方が商売をしやすかったからだ。


夜隠もそれを聞いて、何も言わずに受け入れていた。


ある時、夜隠が毒を盛られ、薬の効果を弱めるために泉に浸かっていた。

そのときが、陸依霜が初めて彼の真の姿を目にし、自分が彼に抱く気持ちをはっきりと自覚した瞬間だった。


彼女は大胆にも想いを告げた。

たとえ夜隠が、いつ命を落とすか分からない身であり、彼女と白髪が生えるまで添い遂げる保証ができないと語っても、彼女は気にしなかった。


結局のところ、二人の命はすでに一つに結ばれていた。

もし夜隠がいなければ、彼女はすぐに軒轅翊に見つかり、おぞましい末路を辿っていたに違いなかった。


最後に、夜隠は彼女の想いを受け入れ、二人だけの盛大な婚礼を執り行った。


たった三年の幸せな日々を、なぜ軒轅翊は壊そうとするのか?

陸依霜の心は怒りと憎しみで満ちていた。


そのままの思いを、彼女は口にした。


「夜隠……辺境の十二城(じゅうにじょう)はとっくに奪還された。

軒轅翊と陸青儀を阻む者など、もう何もないはず。

奴が奴女を皇后に迎えようと、誰も止められやしない……それなのに、なぜ私を探すのか、分からない!」


「二人で好きなだけ絡まり合っていればいいのに。なぜわざわざ私を苦しめるの?

いったい……私は何をしたっていうの?」


夜隠は優しく彼女の髪を撫でながら、わずかに眉をひそめた。


「なぜなら……軒轅翊は狂人だからだ。」


「お前が去ったあと、奴は陸青儀を殺し、道士(どうし)に頼んでお前の魂を呼び戻そうとした。

だが呼び戻せないと分かると、手段を選ばずにお前を探し始めた。

自分の行動が愛だと信じ込んでいるだけにすぎない。」


「……お前は、奴と行くつもりか?」


淡々とした口調ではあったが、その声には明らかな緊張が滲んでいた。


陸依霜は彼を強く抱きしめ、爪先立ちになって彼の唇に口づけた。


「夜隠……私は彼を好きじゃない。ましてや、奴と行くなんてありえない! 私は彼を憎んでる!」


「彼が私を愛しているなんて……そんなの嘘よ。以前は陸青儀だけを愛していた。

今になって私を愛してるなんて思い込むのは、滑稽でしかない!

愛しているのなら、どうしてあんなに傷つけるの? 私には理解できない。

ただ……私が惜しいと思うのは、お前が傷つくことだけ。」


夜隠はその口づけを深め、互いの吐息を交わしながら、低く荒い声を漏らした。


「俺も同じだ……」


長い口づけが終わっても、陸依霜は激しい息遣いのまま、彼の胸にぐったりと身を預け、立つこともできなかった。



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