二人が店の片付けを終え、早じまいして家に戻ると――
花びらが舞い散る庭先に、天から与えられたような威厳を漂わせる男が冷たい顔で、泣き叫ぶ幼子を抱いていた。
その手つきは不慣れで、無様なほどぎこちなかった。
子供の顔は精悍で可愛らしかったが、激しく泣きわめいている。
軒轅翊の姿を目にした瞬間、陸依霜の全身の血が凍りついた。
顔面は一瞬で青ざめ、恐怖に震えが止まらなかった。
なぜここに? それに私の息子を抱いているなんて?
彼女は我が子を抱えて逃げ出したい衝動に駆られながらも、必死に踏みとどまった。
「窈娘(ようにゃん)、大丈夫か?」
夜隠(やいん)は平静を装いながら、彼女を支えるように腕を取り、何事もなかったように庭へと導いた。
「旦那様、私共の子供をお降ろし願えませんか? 泣き喚いておりますので。
知らぬ人に抱かれるのを、大変嫌がる性質でして。」
陸依霜も、激しく高鳴る胸を必死に抑えながら、声色を変えて応じた。
「さようでございます。安安(あんあん)は人見知りが激しく、このままでは喉を潰してしまいますゆえ……どうか、私にお返しくださいませ。」
「ふん、人見知りだと?」
軒轅翊は嘲笑を漏らした。
心の中では怒涛のような感情が渦巻いていたが、顔には静かで危うい影を滲ませていた。
「この子にとって、朕は半ば父同然ではないか? なぜ人見知りする? そうだろう、陸依霜?」
「旦那様、何をおっしゃいます? 私には夫が一人いるだけでございます。陸依霜などという者は存じ上げません。人違いでございましょう。」
陸依霜は表情を固く保ち、決して認めようとはしなかった。
夜隠は、これ以上この男と議論を続けるのは無意味だと悟り、すぐさま前へ出た。
「安安はお前を好まぬ。これ以上触れるな。」
そう言い放つと、掌底を軒轅翊の胸元に叩き込み、素早く子供を取り戻した。
安安は父の腕の中に戻ると、ぴたりと泣き止み、大人しく身を寄せた。
軒轅翊は無造作に、唇の端に滲む血を拭った。
この光景に、怒りが爆発寸前だった。
「陸依霜、お前の息子はお前にそっくりだな? それほどまでに朕を嫌うか?
かつて朕がお前に注いだ好意を、一片たりとも覚えてはいないのか?
朕を捨てた上に、なぜ他の男との子を宿す?」
「忘れたか? お前は朕のものだと、朕が宣言したことを。
たとえ天の果て、地の果てまで逃げようとも、必ず連れ戻すと!」
「たとえ他人の子であろうと、朕は構わぬ。お前が共に戻ってくれるなら、それで良い。
過去のすべては水に流してやる。この子もわが子同然に育てよう。
即座に朕は退位し、この子を帝位につけてもよい。
お前が望むものは何でも与える。富も、権力も、地位も――あるいは穏やかな暮らしすらも!」
軒轅翊は、目を充血させながら、陸依霜の手首を決して離さぬ力で握り締めた。
肌が触れただけでも、彼の心は歓喜に震えていた。
彼の肉体は視覚に先駆けて、すでに彼女が誰であるかを見抜いていた。
五年前、彼女と交わった日々。
その時、触れた肌のぬくもり、骨のかたち、すべてが脳裏に刻まれていた。
彼が陸依霜を自らの胸元に引き寄せようとした刹那、
彼女は全身全霊の力を込めて、その手を振り払った。
水鳥のように身をひらりとかわし、さらに掌底を彼の顔面へ叩きつけた。
「軒轅翊、正気に返れ! 私は陸青儀(りくせいぎ)ではない!
狂いたいなら、あの女を探すのね!
結局、お前が本当に愛したのは、あの人だけだったはずでしょう!」
軒轅翊の口元に、危うく歪んだ笑みが浮かんだ。
「依霜――嫉妬か? 朕はもう、陸青儀を好んでなどいない。
お前のために、あの女は始末した。夜隠はお前に伝えなかったのか?」
「正直に言えば、朕はとっくに陸青儀への愛を失っていた。
ただ、己の本心に気づかぬまま、お前を無駄に手放してしまったのだ。
今、お前が朕を打とうと、罰しようと構わぬ。
ただ――共に戻ってくれさえすれば! 朕のすべてを、お前に捧げよう!」
彼は、赤く浮かんだ掌の痕跡を意に介さず、むしろ狂おしげに頬を押し上げた。
「お前を探し続けたこの三年間、朕はすでに正気を失っていた。
お前に狂わされたのだ。心から詫びよう――
お前が宮中に入ったばかりの頃、あのように苦しめるべきではなかった……
もっと早く、お前を朕の手の中に閉じ込めておくべきだったのだ……」