澄信が、わざわざ休暇を取って私を迎えに来た。
彼は私から二歩離れた場所に立ち、淡々とした口調で言った。
「あやめは今、絵の手ほどきを受けています。藤原学士の奥方のもとで修行中なので、すぐには会えません。」
「彰忠は……」と言いかけて、彼は口をつぐむ。
「お前が去った時は、まだ幼かった。もう、母の顔は覚えていないだろうな。」
あやめは私の長女、彰忠は長男。
私が谷に落ちたのは、あやめが三歳、彰忠がまだ一歳のときだった。
子どもたちの名を聞くと、胸の奥がふわりと揺らいだ。
「四年前で再婚した。」
澄信の声は、そこで少しだけ低くなった。
新しい妻のことを語るその眼差しには、僅かながらも柔らかな情が宿っていた。
「芙姫は、お前とは違って、身分も高くないし、体も弱い。気が小さくて、少し間違いがあっても、どうか大目に見てやってくれ。」
私は静かに答えた。
「なぜ、私が彼女を困らせる必要があるのですか。」
本当なら、子どもたちが橘家にいなければ、ここへ戻ることさえなかった。