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第2話

澄信が、わざわざ休暇を取って私を迎えに来た。


彼は私から二歩離れた場所に立ち、淡々とした口調で言った。


「あやめは今、絵の手ほどきを受けています。藤原学士の奥方のもとで修行中なので、すぐには会えません。」


「彰忠は……」と言いかけて、彼は口をつぐむ。


「お前が去った時は、まだ幼かった。もう、母の顔は覚えていないだろうな。」


あやめは私の長女、彰忠は長男。

私が谷に落ちたのは、あやめが三歳、彰忠がまだ一歳のときだった。


子どもたちの名を聞くと、胸の奥がふわりと揺らいだ。


「四年前で再婚した。」


澄信の声は、そこで少しだけ低くなった。


新しい妻のことを語るその眼差しには、僅かながらも柔らかな情が宿っていた。


「芙姫は、お前とは違って、身分も高くないし、体も弱い。気が小さくて、少し間違いがあっても、どうか大目に見てやってくれ。」


私は静かに答えた。


「なぜ、私が彼女を困らせる必要があるのですか。」


本当なら、子どもたちが橘家にいなければ、ここへ戻ることさえなかった。

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