藤原家に里帰りした折、私は澄信と再会した。
聞けば、彼は近ごろ藤原家の周辺をうろついていたらしく、何度も侍に追い払われていたという。
刑に処された後、治療も受けずにいたようで、今では足を引きずる身となっていた。
私が屋敷の門をくぐったそのとき、彼はふらつきながら、私に向かって歩み寄ってきた。
髪は乱れ、目は赤く充血していて、今にも足元に崩れ落ちそうだった。すでに侍の刀の柄が、彼の背中をぐっと押していた。
そのとき彼は、私を見上げて叫んだ。
「私は……冤罪なのだ!安倍芙絵は……あの女は、本物の安倍芙絵ではない!」
私は足を止めた。
澄信は、私のそばにいた侍を一瞥し、身振りで周囲を退けるよう促した。
けれど、私は首を振った。
「必要ないわ。今やあなたはこの通り落ちぶれて、誰がさらに害しようというの?」
彼は唇を噛みしめ、声を潜めて言った。
「……だが、この話が漏れれば、私の罪がもう一つ増える。」
私は少し興味を惹かれ、彼を屋内に引き入れるよう命じた。そして、縄でしっかりと拘束させ、ようやく周囲を下がらせた。
「話して。」
澄信は苦しげに息を吐きながら口を開いた。
「安倍芙絵の本当の出自は、安倍直道の娘なのだ。昔、彼女の父は第二皇子に与した。私は陛下の擁立を助けるため、彼に罪を着せ、一家は北へ行った。流刑の途中、芙絵は何者かに救われ、やがて神祇伯の娘として戻ってきたのだ。私が官職を金で売ったというのは嘘だ……! 彼女が復讐のために仕組んだ罠なのだ!」
最後まで聞き終えた私は、冷静に告げた。
「私はあなたを助けるつもりはないし、助けられもしない。」
「賄賂の罪を、
澄信は目を閉じた。その顔からは血の気が引き、まるで死人のような灰白色だった。
「……それでも、もう自分が無実になることはないと分かっている。」
しばらくの沈黙の後、私は机をぱんと叩き、鋭く睨みつけた。
「ならば、安倍芙絵が彰忠との仲を引き裂いたこと、それもそのままで済ませるつもり?あなたは、橘彰忠の実の父親よ。彼女の企みに、あなたは黙って頷いていたじゃない!それこそが、すべての元凶なの。」
私は怒りを押し殺すように言った。
「彼を外に連れていって。」