地下聖堂が震えていた。何かで空気がわずかに震えた。
ガルシドュースの体から噴き上がる蒸気が、広間の天井めがけて、空を撫でるように昇っていく。
立ち上る蒸気の中に微かに光が混じる。
(これ塵?フケ?鱗粉...か?森で見た蛾もそうなってたが...ますます人外だな。」
俺はそう呟いた。
「地下だから寒かったけど、ガルシのおかげであったかい。」
アスフィンゼの声だ。
「ガルシ?」
「ガルシドュースだと長い。」
アスフィンゼの言うことは確かにそうだ。
男はそう思い呟く。
「そうか、そうだ、リドゥもそう呼んでくれ。」
「唐突ですね、かしこまりました。」
リドゥが答えた。肯定だ、感情はともかく。
――キィイイ……
まるで歪んだ金属が遠くで軋むような音が、広間全体を包み込む。
黒い液体の波紋が再び広がり、その中心が微かに“裂けた”。
「……あそこ、何か開いてます!」
リドゥの声に応えるように、祭壇中央の黒液が吸い込まれるように沈み、その下に隠れていた階段のような段差が現れた。
⸻
「……階層が、ある」
アスフィンゼが静かに言う。
「いろいろ場所とか適当すぎないか?何層あるのか、変わりすぎだ。」
「一枚構造じゃない……儀式と神化、孵化する場所がある。」とアスフィンゼが言う。
「つまり上が準備下が……?」
「完成。あるいは、封印」
(...また戦闘か。)
⸻
ガルシドュースは、何も言わずに拗ねた顔でその階段へ足を向けた。
手には祭壇からもぎ取った鉄の武器、身体には火を纏い、驚愕的な成長を何度も繰り返した身体能力をさらに底上げする。
少しずつ階段を下りると、空気が一気に変わった。冷たい。だがただの地下の湿気ではない。
(何か、冷気を出している。)
何度も神術持ちと戦ってきたガルシドュースはついにいろんなことを誰か、または、何かの仕業と思い始めるようになった。まず初めに、ではあるが。
「気をつけろ、体温を奪われるな。」
(体温を奪える敵かもしれない...)
「……まるで、冬のギラグス山脈みたいですね」
ガルシドュースに続いてリドゥが一歩遅れてつぶやいた。
(本当は唄でしか聞いたことはないのですが、おそらくそれほどに寒いのでしょう。)
降りきった先に広がっていたのは、まるで劇場のような構造だった。
中心に円形のステージ。その周囲には、巨大な椅子のようなものが半円を描いて並んでいる。
だがそれらは椅子ではなかった。
人だった。
灰と化した異形たちに見えた。
アスフィンゼがそれを見て言う。
「神への道で霊を失い、身だけを保ったままここに座り続けていた。」
「って文章があるね。」
アスフィンゼの言葉が続く。
どこかで、機械が再起動するような音。
「む」
ガルシドュースが武器を音の方向と思わしき方へとかざす。向きを変えながら
(どこだ)と思い続けて身構えるガルシドュースであった。
そして、それは普通の機械に見えていた。
「怪物ではない...」
「なんだか、装置みたいですね。」
「あれ?こちらの穴、ガルシが手に持つあれさせそうじゃないですか?」
「オラァ!」
ガルシドュースがそれに向けて全力で機械仕掛けの棒を刺した。
「って何してんですか?!」
「なんか起こる前にこっちが行動して、主導権を握る!」
「いや待ってって言ってるじゃないですか!」
ガルシドュースが左手で高く上げては全力で突き刺した鉄の武器は、勢いよく突き刺さる。
そして機械の中央穴にカチリと嵌まり
次の瞬間、機械全体が振動した。
ギギギギギギギ――ッ!
床に埋め込まれていたのか、環状のレールが浮かび出して、次から次へとその周りは淡く光り出す。
天井から複雑に絡んだ鋼の路線のようなものが回転を始める。
「来るぞ!」
爆音とともに、鉱車のように足場、ガルシドュースらが乗っていた場所は発射されていく。
天井も回転する線路が近づいて抜け道はない。
足場は底部から噴き出す霧があり蒸気噴射で浮かび上がっていると思われる。
しかしやがて勢いも落ちては天井の線路に乗り上がらない落ちてしまう。
だが線路はかなり崩壊しているみたいで、見た感じではすでにそれが半壊している。
「死ぬぅ!ガルシドュースなんとください!」
「怪物の復活とかじゃねぇのかよ!」
ガルシドュースがアスフィンゼとリドゥを安定させるように座らせると、すぐに跳躍した。
次にレールに沿って掴み、足を上に上げては、路線にかけて走り出す。
浮遊鉱車を掴めそうな場所めがけて走り続ける。
そして掴んだ
ガチャン
音がして足場は路線、いや、線路に乗る。
そして武器を引き抜き、すぐに前方へ展開する。
壊れた線路で壁にぶつからないように、武器の機械仕掛けの棒を壁に当てては無理矢理力で距離を離す
それが操作装置となる。
使いかたはともかく。
「路線がッ!?」
そこは行き止まりだった、年代の
「どうやって!?」
「そこだッ!」
蒸気駆動の武器が内部で装填変化音を鳴らし、
神術で圧縮した空気を放つ。
ドン!
行き止まりに命中、音が遅れて伝わるほど高速で、方向は無理やり変更される
「ぎゃあああああああああ!!!」
「落ちるううう!?いや落ちない!?いや曲がる!?いや加速してるううう!!」
リドゥの悲鳴。アスフィンゼは無言で捕まってる。
浮遊している足場は垂直落下と回転を繰り返しながらも、鋼の軌道を的確に戻る。
噴射による反動だった。
そこへ現れたのは「敵」だった。
天井の石壁からズルリと降りてくる外の怪物に似た異形。
「オラァ!」
その異形は四肢が異様に長く、骨だけの腕に鋭い爪を備えていた。皮は乾いていて干からびた感じであった。
片腕を壁に突き刺すようにぶら下がったている。
ガルシドュースは武器でそれを薙ぎ払う。
「オラァ!」
「前!」
アスフィンゼが短く言い放ち、ガルシドュースは一瞬で理解してはそこをめがけて飛ぶ。
跳んだ瞬間、床の一部割れるほどの瞬発力で空中へ。
ガルシドュースはその怪物が線路にぶつかる前に空中で食い止めるつもりだ。
ギィー
異形とぶつかる。
武器の内部構造の歯車が回転し、裁断蒸気が刃のように噴出する。
「オラァァァァ!!」
金属の音と蒸気の音ともに、異形は横一線に斬り裂かれた。
黒い液体を噴き出しながら、奴は下の闇に落ちていった。
「オラァ……っ!」
空中で武器の横噴射口を起動。
蒸気が側方から勢いよく噴き出すと、その反作用でガルシドュースは真横へ滑空し、鉱車へ復帰した。
「ひぃぃっ!すごっ!戻ってきました!」
リドゥはもうさっきから驚くばかりだった。
そしてこれからもっと驚く。
「速い速い速い速い速いィィィ!!?」
リドゥが喉から悲鳴を上げる横で、ガルシドュースは片膝立ちで風を読む。
彼の体に燃える火は強まるばかりで、空気の流れを汲んでいた。
ゴギィン!!
火花と油煙が弾ける。武器は蒸気を変えながら足場に突き刺されては、機械の構造が変化して道が次から次へと切り替わる。
やがてリドゥが叫んだその瞬間、最後の加速とともに足場は停止。
重い衝撃とともに三人は飛び出す、ガルシドュースはほかの二人を空中で掴んで着地する。
……だが、その出口の先。
その場所は、異形の群れでぎっしりと詰まられていた。
だが足場は遠くの位置にある。
巨大な広間の出口、その先にはびっしりと敷き詰められた異形の群れ。
それぞれが違う形状でありながらも、どこか共通した構造を持つ。
人の骨格に見えたものを虫の翅のような膜で覆ている。
スッ....
蒸気の音だ。
ガルシドュースは、手にした武器の柄を微かに締めていた。
「キシャッ!」
熱を出せば、すぐに反応される。
一度でも音を立てれば、まずいことになる。
だがその時。
アスフィンゼが、無言で一歩前に出た。
「おい、やめろ!」
ガルシドュースが思わず低く呼び止めるも、アスフィンゼは振り返らない。
灰色混じり銀髪が、淡く光の中で揺れる。
彼女は、群れへとゆっくりと歩み寄った。
……にも関わらず、怪物どもは動かない。
目のない眼窩だけの顔、その顔を、アスフィンゼに向けるだけで、誰一人として動かない。
「……おい、なんだ?」
「これ……通れるかも……」
リドゥが小声で言った。
次に見るとアスフィンゼが群れの中央に足を踏み入れた。
異形たちが、微かに揺れる。
(まずい! 火を!)
通路が、裂けるように開いた。
「なっ」
まるで、“彼女を避けて”道を作っているかのように怪物どもは動く。
ガルシドュースはアスフィンゼへ跳ぶように身を動かした。
火を消して。
呼吸を殺して。
リドゥもそれに倣い、ガルシドュースの背に続く。
アスフィンゼが通ればその周りの群れは数体がわずかに身じろする。
爪が擦れる。
歯の音が軋む。
だが、襲いかかってはこない。
そうして何事もなく足場に乗れた。
群れは静かにこちらをただ見つめ続けていた。
「 おい! しっかり捕まってろ。まだ続く線路まで飛ばして戻るぞ」
ガルシドュースは足場を線路に戻すつもりだ。
「……なあ、アレ……アスフィンゼ、さま、今、何してまし…た…?」
リドゥが問う。
だがアスフィンゼからの答えはなかった。
「掴まれ!」
ガルシドュースの呼びかけも虚しく。
彼女の瞳は、どこか遠くを見ていた。
否、遠くではない何か、上を。
まるで、“上”にいる者に、名もない同調を求めているようだった。
その瞬間、アスフィンゼが口を開く。
「神に……」
言いかけて、止める。
そして、改めて口を開く。
「神に近づいたとき。食えぬ皮にそれで包むがいい。やかれては内臓も肉も腐ってしまう。故に神に倣いただ膏で身を....」
ガルシドュースはこれ以上何か起こるのが嫌でとにかく全力で足場の蒸気装置を起動させている。
「ただ...」
ドーン
音を辿るとそこでガルシドュースは激しく燃えていた。
それは足場の装置が彼の暴力的な神術の火力で再起動した音だった。