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第29話 悪運の男

ドガアアアアアアアン!!!!!


 巨大な“眼球”──塔の中腹に開いた異形の中心部。

そんな大きかった眼球も今はも空洞だった。

まるで内側からに引き裂かれるように、黒目から陥没していた。

ガルシドュースの筋力だけによる投擲が働いた結果であった。


 「……効いた……のか……?」


神術を覚えてからの投擲で、ここまでの反応は初めてだった。


──そのとき、塔の表面が“捻じれた”。


 眼球だった空洞の部分を中心に、外皮が“内側”へ吸い込まれるように渦を巻く。

 そこから“出てきた”のは、塔の素材とは全く違う、柔らかそうな、肉に近いものだった。


 「おぅらァァアアアアアアア!!!!」


 塔の腹に拳を叩き込む。



 ドゴオオオオオオオオン!!!


 音が、一瞬遅れてきた。

 衝撃が塔の内壁を押し破ったか、反対側が裂ける。


 まるで内側から大量の裁断榴を一気にを撃たれたように、塔の反対が吹き飛んだ。


「うぉぉおおお!」


吼えながら手を突っ込む。

塔、いや、うねるような肉柱──それを掴む。

拳を手刀の形にして外皮を切り裂きながらにめり込む。骨だか肉だかとにかく裂けたり、割れたりする音がした。だがガルシドュースはもう止まらない。


 次に引っ張る。





 「うおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 ギィ……ギギギギィ……ギュルルル……バキィン!!


 引き抜いたのは、塔の一部、大きさで言うと田舎の農村にある農民の家並みに大きかった。


そして投げ飛ばす。

ドーン


 「ハァッ──!」


 崩れ落ちた何か──

上から山の大きさはある黒い外殻の破片を、ガルシドュースは、右肩だけで受け止めた。

次に右手でそれを掴んでいく。

そしてもう片方の手で必死に塔に掴んでいる。


今のガルシドュースは、彼を見ていれば誰でも驚くだろう。

ざっと見て自身の数十倍の大きさはある、その破片を持ち上げる光景は驚きであったからだ。


 「──ふッ!」


 左手を塔の肉壁から外し、両腕で構える。

空中に浮かんだ体勢になる。


グオオオオオ……!!


肘がきしむ。

腕の血管が、まるで縄のようにくっきりと浮かび上がる。


「この……くたばりやがれあああああああ!!!!!!」


 雄叫びと共に、塔の破片が空中へ放られた。


 投げた。


 山ほどある塔の破片を、人が“投げた”のだ。



 ドオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 破片は放物線を描き、塔に激突する。


そしてガルシドュースも高速で地面に激突する。

塔を投げた反動によるものだった。

地面が割れていた。

それよりも割れていたものはあの塔だった。


衝撃波で塔の構造が歪んでいた。

繋がっていた赤い根あるいは管がちぎれ、赤黒い液体、血のようなそれが噴き出す。


落ちたガルシドュースはと言うと。


彼はすぐさま起き上がり駆けた。

目に見える大きな傷はなかった。


彼は塔の裂け目へ向かって、まるで獣のように──いや、それ以上な勢いをしていた。。



 その足音だけでも、地が揺れる。

 その一歩一歩が、まるで重い大きな生物が地を踏みしめる音のようだった。


 ズシィン! ズシィン! ズシィン!!


人間が起こせそうな音ではなかった。


空に、黒い血が虹のように舞った。

体に浴びるそれは、ガルシドュースが以前に飲んだ、音を出す黒い液体に似ていた。


 「──ふははは、なんて爽快だ。」


 黒い液体を浴びたまま、血濡れた拳を掲げ、ガルシドゥースは叫んだ。


そこへもう一つの声が響く。


 「見つけたぞ……ッ!」


声を張り上げるそれは、「生きていたか!ムハノとか言うやつ。」

そう言われたムハノの顔には、血がこびりつき、額には痛々しい傷が走っていた。



その後ろに連なる法務部の兵士たち。


 「──おい! 女を探せ!! あの女を、この辺にいるはずだ!」


 指示を飛ばすムハノ。

 その目はガルシドゥースを一瞥すらしない。


 「ふははは、なんてバカだ……!」


肩で息をしながら、笑っていた。

息を吐くたびに空気が爆ぜ、体を動かしてできた熱気は吹き出して周囲の空気を熱くして地面を焦げさせる。


 (生きてる……俺の筋肉が、骨が、全部だ。神術を使っていたあの時よりも遥かに、燃えてる)


「邪魔をするなら皆殺しだ。」

ガルシドュースは高揚感に身を任せて言葉を吐く。




 「……っ!」




ムハノは体に纏っている服を掴む、それは深紅で、彼は深紅の制服を掴んで言う。


「我ぁが!!!!装備ぃーーーーは神術構造を流体循環式に装着させる!!!!!帝国が法務部、飛鷹型の装備。」


「今より!お前を!」


腰から伸びた黒煙を吐く容器。

足先まで繋がる管。

動けば全身が軋む音を立て、まるで戦車、いや、戦象のように地を響かせる。


「確かに目立つな。お前。」

ガルシドュースはムハノの言葉を遮る。


それを見てムハノは目を大きく開かせる。

「殺してやるぞ!貴様如き!よくも我が兵を!我が帝国が装備を!殺す!」

どうやらガルシドュースが打ち込んだ裁断榴とかで相当お怒り状態だ。


 「……死に損ない共が、また俺の前に出てくるか……」




 その一言で、ムハノが顔を歪める。


 だが怒りではない。

 恐怖が混じる焦燥。

任務への焦りが体を走る。


 「……おまえに構っている暇はない。すぐに殺して捜索を続行するッ!!“第七節”、展開!!」


刹那、


 ──ガッ!!!!


 兵士が、横に吹き飛んだ。



 「は?」


始まるよりも早く、それはすでに終わっていた。

ムハノが見た先であったのは集う法務部の兵士はいたが。



 地面を抉って転がる兵士の胴体。

姿勢は裁断榴を持ったままだった。

 蹴られていた。

攻撃したいたはずの存在。


その場に残ったのは、下半身……ではなく、粉砕された地面とその破片についている血の跡だけだった。


ガルシドゥースは既に、跳んでいた。


神術や杭打ち装置を使って加速するまでもない。筋肉だけで、跳躍する。

「ふははは、よくわからないが、なんだこの力...妙に楽しい〜くてぇ燃えてくるぅなぁ!」


何度も目を見開かせていたが、驚きのあまりに光が揺らめく気がしてならない。

ひとりの男ガルシドュースがその視線を塞ぐ。


「なっ!」

ムハノがとっさに右手を掲げる。神術を起こすために構え。


 ──バヂッ!!


 だが、発動しない。


 ガルシドゥースの“重さ”が空気を圧迫し、神術に必要な構造が形成される前に、空気が潰れていた。


「思っていた、あのベッなんとか言うやつ、名前は忘れたが。ベッケオとかだったか、あいつは言っていた。信じることで神術は叶うみたいな、暗示で強くなるみたいな。」


「なな、何をしたぁ!きさまぁ!」


「だったらよ、神って、神の術のこれはさ...祈りなんじゃねぇのか?ああああ?!お前らがこうやって奇妙な動きするのも祈って神から力もらってんのか!雑魚が!!」


(クソォ!神術を使うのに必要な動作が!空間が!やつを!あれが!あれから出てくる蒸気や塵が埋めたせいだ!)


 「ぐッ──!?」


ムハノは彼が持つ特殊体質の出力を最大にする。


「うぉおお、砕き肌!」


「それがお前の体か。」


 彼の右肩から背骨にかけて、体が透けて浮いているように見えた。

(クソォおおおおお!何を言ったベックオ!!!!ああああ!)

「あああああ!」

ドガァン!!!!!




 拳と骨がぶつかり合い、あたりが爆ぜた。


 衝撃で遠く、向こうで呆然としていた法務部の兵士たちが吹き飛び、塔にぶつかり、塔の一部がさらに崩落する。


 「ぐあああああああッ!!!」


 ムハノの身体が斜めに地面へ叩きつけられ、数メートル先の瓦礫へ突き刺さる。


 その瞬間、何かが近づいてくる。


 「ガッ、グァアアッ!!」


 「キギ、ギギィイイ!!」




 声にならぬ悲鳴。

 異形の顔が割れ、内部からさらに顔のようなものが見える。だがそれはもう人間の形をしていない。


 瓦礫に半ば埋もれたまま、ムハノ・マイブンは呼吸を荒げていた。そして今はさらに荒い。異形らがこちらにも向かっているからだ!


(……クソ……ここで、終われるか……)


 神術はもう使えない。制御が効かない。


 ガルシドゥースの一撃──あれは、人間の打撃じゃなかった。


(あの怪物で...あれだけの部下を死なせた怪物にこの体じゃもう...クソォ!)「畜生がぁ!うガァっぐ」


その“手”──いや、“触腕”と言うべきものが、ムハノの喉元へと伸びる。


砕き肌で強化された体が、ギシリ、とひび割れてゆく音を鳴らす。もう反撃する余地はない。


ムハノ・マイブンの喉に、異形の触腕が巻きついていた。


くねるように生えた関節のない指らしきもの。

触手というのに相応しい。

形こそはなんとなく人だが、

ぬるりとした白色の皮膚が、まるで肉を溶かすように締め付けてくる。首元を締め上げられ、声が出ない。肺の空気がみるみる薄くなる。


 (……な……ぜ……こんなめが……!しにたく...)

そんな意思すらも薄れゆく中にひとつの音が大きく伝わってくる。

 ドォン……ッ、ドォン……ッ、ズゥゥン……!!


 それは爆発音ではない。


 殴るや蹴る音だった。


彼の周囲、四方八方から無数の異形が迫る。


 だが、届かない。


 一歩近づけば、一歩分だけ怪物どもの肉体は消し飛ぶ。

 跳びかかれば、空中で身体がバラバラになる。


地面が陥没する。風が唸る。血が霧になる。

(...人間じゃねぇ...)ムハノは思わず息苦しさすらも忘れては驚く。


山ほどの異形の顔面が次々とめり込んだ。

軟骨が飛び、黒い液体が噴き出す。喉から悲鳴がした。


白い異形が群がってくる奥にあるガルシドュースは、怪物たちの四肢を引き裂く、ねじれた脚、枝分かれした腕、粘性の皮膚、それらが飛ぶ。


左から迫る異形の喉元に拳を叩き込むと同時に勢いに任せて右半身を旋回させては背後の二体を蹴り飛ばす。

振り返りざまに跳びかかる個体の下顎を上に蹴り上げ、その勢いのまま肩を掴んで地面へ叩きつける。

そいつの外れた肩をほかに投げつけて顔を凹ませる。

その時後方から爪が伸びるが肘を引いて殴る。

振り返って悶絶しているやつの頭を掴んで膝を叩きつける。間髪入れずに後ろ向きに左足を蹴ってもうひとつ襲いかかって来た個体の膝裏を蹴り崩し、落ちた頭部に、足を戻して、当てて頭を潰す。


さらにそこへ左腕にしがみつく異形が出るがそいつの口を掴み、反対の手で引っ張っては中央から裂くようにして頬の肉をちぎって、外れたところに即座に投げ飛ばし、その肉に向かって突進して、肩をぶつけては骨を砕き、近くいた別の個体ごとそてを吹き飛ばす。


 また数体が跳びかかってきた、今度は三体いたが、三体のうち一体を地面につく前の空中で蹴り、戻ってくる勢いに乗ったままもう一体の胴を掴んで空中回転しながら地面にぶつかる前に回転の力を利用して脊髄を粉砕する。動き的には足が着地する前に個体の背に両膝を当てて回っていた。空中に浮いたまま異形の背に膝を入れて粉砕。

落下後もうひとつの敵の首を掴み、そのまま回転させるようにぶん回して地面へ伸びてるもう一つの異形な怪物に向けて顔面から押し込む。それは潰れた。


次、左へ回り込み接近する異形を一瞬で識別し、最も大きい個体の胸に両掌を突き出し、破裂するように崩れた肉塊を盾にするように、左腕を差し込んだあと、他のを薙ぎ払う。


斬ッッ


飛んだ破片は一体を地を滑らせるように吹き飛ばす、腕につけていた怪物の死体をその滑りそうな先に投げつけて、そいつの動きを止める。

止まったその足首を掴んで引き起こし、振り回して周囲を掃蕩、何度もぶん回して肉塊になった。

だがまだまだと怪物の群れが襲ってくる。ガルシドュースは息を吸わずに前方へ跳び、地に拳をつけて止まり、背後の敵を振り返らずに蹴りで突き上げる。そのまま回転して走りやすい体勢になり流れるように走り出した。


ビシ、バシ


 その方向の正面に並んだ五体の異形の首、胸、腹、脚を順番に打ち抜きながら間をすり抜ける。

脇腹の方から食らいついてくる異形の怪物の触手を引き千切って本体を引き寄せ、向こうを回転させながらこっちも回転して肩でやつの肉を抉る。

そのまま回転を続けて、左回転で蹴りをし続けて。周りを蹴り飛ばし、回転の最後に地面を殴って勢いを殺す。

その地面を殴る勢いに巻き込まれた異形数体が空中まで飛ぶ。


 そして上から落ちてくる。

ガルシドュースはそのまま肉の塊を左手で掴みながら跳ねて別方向へ突進。足を高く上げては一体の腹部を踏み台にして跳び、そいつの腹も裂ける。

正面に異形がいてはその眼に指を突き入れて脳を潰す。

突ッ!


 すぐに体をひねって後ろの個体の胸へ肘を入れ、肉塊をを盾に左の個体ごと肉塊を貫いて殴り、異形をほかの異形の中へ押し込むように投げ飛ばす。


 ひと息分の時間も与えず前後左右から再び六体、だが全て見えている。足を低く構え、突進して、間合いを崩しながら一体目の首を刈り、二体目の腹を踏み抜き、三体目の口に拳をねじ込みながら振り抜く。右から噛み付こうとする個体の顎を掴んで引き裂き、その下から現れた異形の顔面に膝を叩き込んで骨ごと潰す。そしてあまり高くない場所から落下しながら下にいた四体目掴んで肩に上げてそのままを股関節から腰まで開かせて、着地と同時に粉砕。


今度はまた来る敵を下半身粉々の異形の体で横薙ぎして一掃。



血肉が飛散するが。


 ガルシドュースは地面に散らばった肉片の上を滑るりながら移動し、転がりながら回転して裏拳で背後の敵の首を叩き折る。

また右手で別の個体の脚を掴み、足を捥ぎ取る。

そのまま足を握ったまま潰し拳ができて連打する。そして突き上げ、叩き落とし、弾き飛ばし、潰す。すべては一撃。

骨が砕け、肉が裂け、臓腑が空中に舞い、それを避けることなく突き進む。あらゆる攻撃を先に潰し、全方向からの敵を最短の手で叩き潰す。視界は血と肉で赤黒く染まる。


「骨が砕ける音、肉が裂ける音……いい音だ。」


ひとつ横に視線を流す、ムハノの方へと目を向けた。

「生きていたのか。」


「悪運の強いやつめ。」


「うっ..ぐっ!」

「そしてお前の雑兵どもはどうだ。神術の助けがなければ怪物五体に、こいつらはひとりの命を消耗する。」


「フハハハハ。」

「弱い!弱すぎる!」

「支配してやるぞ、取るに足らん下等生物どもめ。」


サッ!

ガルシドュースが振り向く音がする。

「なんなんだ...?今のは?」


ガルシドュースのその疑問に思う先に男ひとりいる。


血と肉と臓腑を足踏みし、顕現せしむる、まるでや騎士が物語より来たか。

彼奴こそ黒鉄が鎧に包まれじ騎士ぞ。

馬を引き連れていては、

隣に馬一匹で乗らない。


「聞けよ!我が名はガレヌ・フォデ・グリオス・セクリオ・ド・ラングシェ!その人ぞ!」


「ふははは、面白いやつがきたな、いいぞぉ。そのまま俺を楽しませろ。」


「そうだ、提案がある。逃げるなら何もしないでやる。」

そう言いながらガルシドュースはムハノの方へ全力で跳んではムハノの首を掴んで、振り回す。

「このカッスが!よくも俺に刃向かいやがったな!」


 「おぉ……血濡れた剣の主か、同じ剣が持つ我に聞こえたか。されど人にして神の道を行かんとするか──いや、道を踏み外して地に血を撒く悪魔なれば!」


かくして、紅蓮に染まる戦場に、ひときわ不格好なる騎士が歩み入りたもうた。もうしたぞセオリク!


「俺の言葉を聞かなかった?!ああ!?」

怒りに満ちた顔のガルシドュースに向かって


騎士は言う、言うぞ。


「悪しき魔性よ! 悪しき咎の使いめ!」


「たとえ貴様が百の地獄より来たりし影なりとも、天に向かって我が槍が立つかぎり! その罪は赦されるにあらず!」


ガルシドュースが眉をしかめる。


冗談か、または哀れな狂人か──その両方か。

(勇気を持った男と見ていた俺がバカだった。)


( こいつは単に無謀で、自分の感情のままに動くバカだ。)

ガルシドュースの情緒は幾ばくか下がる。

されど、騎士は気づかぬ。


むしろこれぞ、己のが登場に歓声が沸き起こたっているぞと錯覚し、さらに声を高くせんと。


これに対して、ガルシドュースは言う。


「なんだお前?」


騎士が答える。

「我が名はセオリク。谷を渡りし鋼の騎士!」


「はァ?」


ガルシドゥースは笑うような声で鼻を鳴らした。面食らったように目を細める。


(なんだこいつ……)


見るからに未熟な構え。しかしセオリクはいかにも自分はこれで、この構えこそ歴戦の勇者のような顔をしていた。見るにガルシドュースを少しむかつかせる顔であった。

「行くぞ!怨敵よ!」


「来いよ……吹き飛ばしてやる……!」

セオリクが行く。

ガルシドゥースは答えるように拳を握り、地を蹴る。

だが、その瞬間――


 ──ズルッ!!


騎士セオリクがくしゃみをして少し足がふらつきそのまま、少し進んだと思えば、次に地面に転がっていた死体の血肉を踏み滑った。

前のめりになる、その矢先を──


「……!?」


セオリクの盾がぶつかる。

おそらく自身の顔だろうが。


そのはずが


盾が突進したガルシドュースに当たる。


バコン!


鈍い音とともに、ガルシドュースの顔がぐにゃりと歪む。

盾を手に持つムハノも遠くへ飛ぶ。



「バカな..俺が転ぶなんて!」

ガルシドュースは転んでいた。

しかしそれでもセオリクが防げるのはおかしい。

(...どう言うことだ..?)


見ると

なんとセオリクが転ぶ中、つけていた剣は腰あたりに回りをして、腕につけた盾上がるようになっていて、ちょうどセオリクが守っていた位置よりも正確にガルシドュースの突進の勢いを止める位置になっていた。


それでもガルシドュースが転ばなければセオリクは粉砕されていただろう。


(ええい、どうせ適当だ。運だ!このまま石を投げつけて殺す。)


続けて、振り上げた拳から小石が飛ぶ前に、

セオリクの馬が跳ねた。

その拍子に飛び散った盾の鉄片が飛ばされて、ガルシドュースの目に刺さる。

もちろん今の警戒しているガルシドュースにそんなのは効かない!貫くはずもない。

だから彼も避けようとしない。


「ッッ!いっ!」


(バカな血が出ている!?俺が緩めたのか!?防御を!?)


なぜか謎に防御が緩くなったガルシドュース。

これは決してあってはいけないことで、戦いにおいて、気を緩めるのは半分負けたこと、そう認めたことと同じである。


 そもそも戦闘を決するのは消して力量の差だけではない。なら、今のを見るとガルシドュースはすでに負けている、劣ってしまっていた。

弱い人間に攻撃されたと言う事実。

つまりそれは、戦術面においても力が劣る相手の上をいけず、心の持ちようも負けていた。


「...殺す。」

 決意と闘志が戦いの分け目とするならばガルシドュースは負けていない。

だがおそらく両者は互角だ。


「羊が一頭とて容赦せん、かれこれはやはり軍を羊に見立てた龍か。」

かの存在はあまりにも盲信かつ妄想癖だ。騎士セオリク。


「何を言っている!」

混乱するガルシドュース。

騎士が声はガルシドュースの後に続く。

「毒を吐くか、毒を吐くか、毒を吐くか!」


 「初めてこうも命とか、生きたいとか関係なく怒りだけで殺そうとしたのはお前だけだ。」


「気が大きくなっているせいか、俺はお前が殺したい。例え戦友や恩人であったとしてもだ。セオリク!!」


 「毒というのは俺が出している塵のことか?」

見るに男から出ている、塵あるいは灰は触れるもの全てを侵蝕しては溶かす。火に焚べた金属のようにセオリクが身につけた黒鉄の鎧も煙を立ちながら揺れ出す。その煙も塵に混じる。

さらに、騎士、セオリクの兜の目のあたりだろう、そこを見ると目が見えるが、周りの皮膚は塵や灰のせいで煙を立ちながらと水疱瘡が出ていた。


しかし騎士は気にせずともこういう。

「セオリク、セオリク、ほかの何でもない。死まで戦うぞ。」


セオリクは目を当てて、両者の目線がぶつかり合う中に気がつくものあり。


 かつての戦友というべき、短い戦闘ではありものの、肩を並べたガルシドュースの目にある情緒は今やかつての聡明さすらをも掻き消している。それは純粋なほどの憤怒であった。決して称えるべきではない。ないし、それは憤怒だ、美徳でもなければ貶すべきとしてある。

しかしだな、ここで言うには憤怒であったもそれは赤子のような純粋ない情緒であった。

彼らが互いに目を合わせて互いにして魂すら見据えようとするが、セオリクが感じるのは外とあまり通じてはない、怒りというものに飲まれた男、彼への同情が強く出たと言える。


 ガルシドュースの方からは喉に音があり、それは噴火間際の火山か何かのように音が大きく長くとうねりを上げた感じだった。

 威嚇や戦闘手段というよりは、ただの生物としての自然反応でしかない。唾を飲み込むよりも自然なその行動だが、あまりにも強い体ならそうなっていくのも自然であった。

 体型としては怪物ほどとか、言われる龍などのような怪物ほど大きくもないが、力だけでいうともう御伽話の龍と同じそれ。そして素早く移動しては、高く飛び出すからもうそれは。


「龍よ、なぜ襲ってこない。」

セオリクが問うぞ。

 「俺は...俺は...この怒りがわからない、ただわかるのは自分はどうやら自分じゃない、そんな記憶がたくさんある。」

怒りの表情に言葉はいかにも冷静。

 「だから頼む、セオリク、邪魔さえしなければお前はどうもしない。だからその、お前の後ろにいるやつを殺させてくれ。俺はアスフィンゼやリドゥたちにケガをさせたくない。」


 「言葉多く話すが、一度も甘やかしてはいないぞ、うっぶ....

我は。常故に、うっ、騎士セオリクとは、饒舌であるが、意思強く、天真にしては冷酷なる騎士。がはッッ!」

血反吐を吐きながらに話す騎士。


(???なんだ?)


「さっきから何を急に言い出す?お前狂ってる?」




言葉をしてしばらく待つが帰ってくるのは沈黙のみ。



「...お前はそれほど優しくないってことか?」

沈黙をガルシドュースが破る。

セオリクのいきなりの自白の目的をガルシドュースはあまり理解していないが、セオリクの表情や動作で何となく伝わっていた。


「然りと...も言う。くっ」

吐血しながらセオリクが言う。


 「ぶっ殺す!!よくもバカにしやがって!だいたいお前は何が目的だ!毎回どこからきた!どうやってきた!」

そう言いながら、ガルシドュースはセオリクに再び突進した。

相当今の自身に自信はあった。だから一度防がれた手をもう一度に行う。


ガルシドゥースの突進。通る道全てが粉々になって大穴ができていた。全身の筋肉を膨張させて、まさに殺意の具現だった。


 だが、セオリクは──馬に向かっている。

馬すら、まだ乗れていなかった。


 「……ぬ、ぐ……ッ!」


 傷だらけの脚。先ほどまでの打撃にガルシドュースから出ている灰の霧を受け、右手は折れて、右足全体が腫れ上がっていた。肋骨も折れて内臓に傷ありだった。

そんな中に鐙に足をかけるが、筋肉が痙攣し、わずかに体がぐらつく。


 「う、うぉ……ま、待て、セルバーーーブよ……!」


 その声に、馬がびくりと驚く。明らかに動揺しているのはセオリクのほうだ。


 「せ、せめて一歩……一歩だけでいい、振り向いてくれ……!」


 足が鐙に入らない。鞍に手をかけるが、握力が滑って抜ける。

 そう──遅い。あまりにも、遅い。


 それは敵に背を向けたままの状態。

 背後から迫るのは、血塗れのそれは。まさに。怪物。災禍。返り血で染まる体は逸話や童話に出る、あの、万人ぞ知る、存在龍に似ている。

龍といえば赤き龍だろう。



話はおいて瞬きの一瞬が過ぎたこと。

 ──ガルシドゥースは既に目前だった。


 「死ねえぇッッッ!!」


地を割る勢いで拳を振りかぶる。全力の、殺意の塊。




 ──そのときだった。


 ズルン。


 セオリクの足が、滑った。


 彼の足は再び鐙から外れ、バランスを崩す。


 「がはッ!!」


 セオリクは馬に体当たりする形で倒れ込む。




 ──その瞬間、彼の肩が、馬の背に“嵌まった”。


 完全に偶然。

 意図せぬ角度、意図せぬ衝撃。

 だが、まるで“鍵が回る”ように、彼の体は鞍に乗っていた。


 「……の、乗れた……?」


 汗だくの顔で、セオリクが目を見開く。


慌ててた彼の愛馬セルバーブが移動してた場に乗れた。


 だが、同時に。


 ドゴォン!!!!!


 ガルシドゥースの拳が振り下ろされる──


 だが、それも当たらない。。


 拳が、わずかに違った目的地、セオリクの横を通過する。


 「ぐぉッ!?」


 ガルシドゥースが顔をしかめる。自分の拳がまたそれた。

 ありえない。全力の一撃が、どうして反応出来なかった!(軌道に修正はできたはずだ、俺には!)




 「……今のは……偶然か……?」


 ガルシドゥースは訝しげに目を細める。


 そのとき、セオリクが小さく咳き込みながら言う。


 「……おお、我が馬よ……そなたもまた、天の導きにあったか……」




 それは、奇跡でもなんでもない。


 偶然の連続。

 悪運の積み重ね。

 セオリクが“間抜け”をするたび、なぜかそれがガルシドゥースの攻撃を回避する形になる。




 次の瞬間──ガルシドゥースが怒りで地面を踏み鳴らす!


 「調子に乗るなよ……!」


 地が割れ、巨大な岩がはじけ飛ぶ。


 セオリクはよろけて、顔から落馬しかける。


 「ぬおおおおお!?地鳴りぞ!」


 だが、落馬の拍子に、盾が手から離れてさらに偶然それが岩を弾き飛ばす。

角度が完璧すげきて大きな岩すら逸れて、セオリクスレスレの飛んだ。

盾の角度がぴったり一致したから。

そしてガルシドゥースの目の前に土煙が舞う。

殺しの手が失敗して逆に自身の視界を奪った羽目になっていた。


 「……見えねえ!?」




 ──またも失敗。


 全てが、わずかにずれる。


 (……おかしい……なんなんだ……? 俺の攻撃が全部──噛み合わねぇ……!)


 ガルシドゥースはこのとき、人生で初めて──


 “運が悪い”という感覚を明確に意識する。




 セオリク、彼、姿勢が逆さまのままにして、なお騎士らしい口調だ。


 「……ふはは……! 如何にして天も……余の正しさを認めた!!」


「お前....!セオリク!」

 まるで勝ち誇ったような顔。

 だがその頬には土がついており、片方の目は腫れて開かない。




 だが、敵にはそう思えない。ガルシドュースはそう思わない。

(弱いこいつが勝つ目処がどこにある!)


そう言っても偶然が重なり過ぎて

 ガルシドゥースの心の隅にはには、

セオリクが笑っていることではなく。

 神が微笑む騎士の姿に、映ってしまっていた。

彼は神に笑顔を返しているのだろうか?




 「……チィ……!」


舌打ちをするガルシドュース。


 「うっぐ、ハァ……ハァ……ッ」


 黒い血を身に浴びてるまま、ガルシドゥースは膝に手をついた。

 その肩が、不自然に荒く上下する。


 (何だこの不快感...痛みがかなり強い、痛い!ああああ……!)


 踏みしめた足の下――土が滑った。

 一瞬、重心がズレる。それはいつもなら気にも止めない小さなズレだった。


 (……あれ?)


 血管が浮かび上がっていたはずの両腕は、どこか軽い。

 拳の感覚が、少し薄い。


 ガルシドゥースはそれに気づかぬふりをした。

 だが、内心では分かっていた。


この熱狂的な状態は、永続ではなく一時的なものだった。


 その時だった。

 脳裏に走る閃光──焼けた頁のような記憶が、微かに裂け目から滲み出る。


 地面に引かれた複雑な円環。

 祭壇に捧げられた肉と、滴る血。

 風の中で唱えられる、古語の詠唱。


 それはまるで、別人の記憶。


 ──いや、確かに“自分”の中にある。


(……あれは……魔法、か?)


 直感が告げていた。

 あのときの力は、「祈り」ではなく、「儀式」だった。

 神に向けてではない。

 ただ、似ていて、模倣しているだろう。


だから彼は、ガルシドュースは、ムハノにああ言えただろう、神術は信仰と関係すると。

記憶の片鱗からきたのだろう。


「っぐ……!」


 膝をついた。

 落ちたわけではない。だが、自然に、体が重さを取り戻しつつある。

まるで、超常的な存在、神話的な、いや神話生物そのものから人に戻ってしまった感覚だった。


風を感じる。

風からきた血の匂いが、妙に生々しく感じられた。


 「──おい。セオリク」


 と、絞り出すように声をかける。

 それは戦いの続きでも、怒号でもない。

 ただ、一人の男の問いだった。


 「……魔法って……儀式ってなんだろ?そもそも俺は誰何だ...なぜ名前をこうも簡単に受け止めた...名前は重要なのか?」


 セオリクは答えない。

答えられないし、彼の目の中ではガルシドュースが急に変なこと言い始めたでしかない。


「心か。」

(リドゥから聞いた。身を動かすは心と...心そのものが体、では霊は?神は?なぜ聖環連会の教義にある?)


「ふぅ...」

(疲れて考えがまとまらない..なぜいつもこんな不幸に、俺は悪運の持ち主か..)


ドーン

「くたばりやがれッッー!」


ムハノ!生きていたのか。


 ガルシドュースの生死はどうだ、霧の中にある。


ざっ!

急突進してきた何か。

「お前、うるさい。」

ガルシドュースが突進してきた、ムハノへと。そして首を掴んで言う。

「お前の神術、今ならないわかる。ほかに比べてその異様な弱さ、作り物だ。」


 「なっ、はな」


「話してもらうのは俺だ!誰だお前は!お前たちは!答えれば楽に死なせてやる!」

手に込める力を強めるガルシドュース。先ほどより肉体の力は弱くなっていく一方だが、残りの燃え滓でも充分にムハノを対処できる。


 「神術持ちは何人だ?仲間は?」


「く、く、くくたばりやがれ!」


その瞬間ムハノが身につけていた防具は体から剥がれる。衝撃波的なもの?あるいは音?何かを出しながら少し吹き飛び、ガルシドュースも思わずにムハノの首にかけていた手を緩めた。


「くっ、なんだ。」


「うるさいと言ったな、これはもっとうるさ」


「黙れ!お前の喋る暇を与えん!どうせ音を操るだろう、カスめ!」

ムハノの言葉を遮るガルシドュース、何回かの戦闘ですでに能力はわかってきた。


ズズズ


「ん?」

塔が揺れる音


(しまった、塔!そうか、塔を解決しないと!)

ガルシドュースはつい思い出す自分の本来の目的を。

「うわあああ!」


「ん?」


 『あんたらにゃ悪いが、今夜は眠らん方がいいよ』

 あの言葉が脳裏でよみがえる。

 (寝てはいけない……! アスフィンゼさんが寝てたから、“唄”が聞こえた……?)


 「…………」


 息が詰まる。

 リドゥはようやく気づく。自分たちは、見逃されたのではない。


 眠っていないから、“対象”になっていない。


(しかし、ガルシが...この状況、あの塔にいたあれも、あの茎たちも動くでしょうし..心配です...)


 「来る……唄が……眠りへ」


 リドゥは迷わなかった。すぐさま寝ぼけているアスフィンゼの頬を叩いた。


 「起きてください! 目を覚まして!こっちに意識を戻してください!」

最近よく殴られているせいかアスフィンゼはまた眠りそうになる。いや塔による仕業か。


 (やばい……このままだと……)


 思考がまとまらぬうちに、家の壁が破壊された。


 ──バァンッ!


 埃と土が舞う中、そこに現れたのは――人影。

見ると、泥だらけで、後ろの壁はちょうど、人間一人ほど窪んでいた。

どうやら体に粘土をつけて、壁に入っていたらしい。

 身にまとったのは、何度も縫い直された麻布の衣。

 顔には、金属と骨で作られた異様な仮面。

 その手に持つのは、錆びた狩猟槍。手製の武器に違いない。


 そして――目。

 濁った、野生動物の目が、ただじっと、家の中を見ている。


 「……!」

(ダマンゲル..!)

いきなりでリドゥは言葉を失った。だが、その男は何も言わない。

 ゆっくりと、アスフィンゼに歩み寄り──そして槍の先で、額に触れた。


 「待っ――!」


 だが、ダマンゲルは止まらない。

 彼の目には“敵”しか映っていない。

獣のように濁っていた瞳に知性の光が刺す。

それはアスフィンゼのせいではない。

 “彼女が眠りに落ちること”が、唄に喰われる危険そのものだからだ。


 リドゥは一歩踏み出し、

 静かに、言葉を紡ぐ。


 「……彼女は、鍵となる。」

リドゥの機転を効かせて一言か、彼自身もデタラメなのは知っていた。今自分が言うことは嘘だ、しかしそうしなければいけない。自分がしないとアスフィンゼが死んでしまうからだ。


 ダマンゲルの目がリドゥを睨む。


 わずかに、槍の角度が下がる。


 (通じたか……?)


突き刺し、間一髪にリドゥはかわす。


(速い!)


速い突きだった、ガルシドュースらのような神術持ちほどのではない。しかし人間としてなら充分に速かった。


 距離がなければリドゥは死んでいた。あの角度も彼へ的を定めただけだった。


 ダマンゲルは、槍をまた調整する。

 (だめだ……通じない)


ダマンゲルからの次の突きはもうすぐだ。


 「……ぅ、ん……」

アスフィンゼの声

 その声に、彼は反応した。


 リドゥは悟る。

 この男は、過去に「誰かを唄に奪われた」。

 だからこそ、「同じようになる前に殺す」――それしか知らない。


突き刺しがくる、リドゥ猛奔走。

逃げたのか!?なんて情けない!


いや違う!

 ──床に転がっていた、毛布を濡らすために小さな木の水桶を蹴り上げる。


 水の飛沫が、仮面の目元を一瞬だけ覆った。


 その隙にリドゥは突っ込む。


 「……詩人を舐めんなよ!!」


 袖の中に仕込んでいた、短く作られた竪琴もどきの弦を一気に引き抜いて、ダマンゲルの右腕に絡め、絞る!


 バチン、と音が鳴る。ダマンゲルの腕の腱を締めたか、切ったのか、ダマンゲルは動きが一瞬止まる。


 「うおおッ!」


リドゥは体重を預け、肩ごとぶつかるようにして相手にぶつかり、ダマンゲルは槍も手から落ちる。


 が相手は歴戦か、野生か。


 反射で、左手の拳がリドゥの脇腹を打った。


 「がっ……!」


 吹き飛ばされるリドゥ。だが、その間に少しだけだが、アスフィンゼから彼を引き離すことに成功した。


 リドゥは咳き込みながら、壁にもたれつつ叫ぶ。


 「……もう一度来るなら、こっちも手段は選ばない!」


ダマンゲルは、無言のまま睨む。

 血走った目、呼吸が荒い。

もはや獣のようだ。


 だが、その目に映るリドゥの姿――

 守るために戦った男の姿、それに、何かが引っかかったようだった。


 わずかに、仮面の首が傾いた。


 (躊躇ってる……?)


 それはまだ、勝利ではない。

 だが、一つの機会が生まれた瞬間だった。


ダマンゲルはリドゥを睨みつけたまま、微動だにしない。

 槍を握る手がまだ震えている。殺意ではない。迷いと、恐怖だ。

そんな目をしていた。

視線を交わす中、両者は、二人は気持ちが通ったように感じた。


 「あなたは村を守る、けど小生だってアスフィンゼさんを、守るんだ!」


そう言ってリドゥは門を開けて左足を外に出した!


赤黒い根が入り込む!


ダマンゲルが、突っ込んだ。

そして突進の勢いに乗せてリドゥに向かい槍を投げる。


ジュブッ!!

根に槍は刺さる。


そしてダマンゲルはリドゥを手で掴み屋内に投げ入れる。


 「まずい!」


 リドゥは、ダマンゲルの背後で叫ぶ。


 「右で! 右から来ます!」


ダマンゲルの上、視界の盲点にも根は張ってきていた。


 ダマンゲルはそれに反応した。

 刹那、右手を地面につける勢いのまま、身を捩ってかわす。側転の形となる。


ズン

根が左の地面に刺さった。

右に避けずに、その場にいたら、または左を行っていたら突き刺さっていた。

ダマンゲルは思わず冷や汗が出る。


しかし

 息が合った。

リドゥとダマンゲルの息が合う。

結果。

 (通じた……!)


 言葉はいらない。

共通の敵はいた。

誰が部屋に入れたとしてもそれは関係ない。


(こんなやつのために人を死なせて良い訳はない。)

ダマンゲルは心の中でずっと思っていた。


そして今やっと行動を起こした、いつもと違う。

良い結果になるかもわからない。


 しかし良い気分なのは今に分かりきっている。


「ダマンゲルさん、ドアを閉めて!」


 「ッ...」

頷くダマンゲル。


 (この状況、きっと、ガルシドュースが何とかしてくれる、それまでの小生らで持ち堪えるんだ!)


 「オゥラァ!」


黒煙が揺らめき、夜の闇に紛れて何者かの影が立っていた。

 足元にはまだ生々しい血の痕。人間が引きずった跡。

大きさ的にムハノのものだろうか。

だがそれよりも注目すべきは影。


それは、

「オゥラァ!オラ!」


大暴れして、塔を壊そうとするガルシドュースであった。


(もはや、あれはどうでも良い、無様に逃げろ。塔だ。塔を潰す。)


 「幸運が味方してくれないと言うのならばお前はどうだ、悪運!」


「落ちてこい!」

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